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「司教様、レイを連れてきました」
サムが司教の前に立つと、少し後ろにいるレイをチラリと見た。
それに合わせてレイがペコリと頭を下げる。
「おぉ、ありがとう、サム」
司教は、ニコリと優しく微笑み二人を見た。
「さて、まず儀式の話の前に…」
そう言って司教は、柔らかな表情のままレイを見据える。
「レイ、君はいつも寝てばかりじゃ……その理由を教えてくれんか」
「理由……ですか?」
「そうじゃ」
司教の柔らかな表情の中に見せる真剣な眼差しに、レイとサムは背筋を正した。
そしてサムがレイに小声で耳打ちする。
「おい…! 司教様にもバレてんぞっ!」
「そんなつもりは、無かったんだけど…」
「何を話しておる?」
コソコソと話す二人に司教は眉をひそめた。
その様子にサムが「何も!」と慌てて司教に向かって背筋を伸ばした。それを見て司教はレイの方へ視線を移す。
「レイ、どうなんじゃね?」
「……」
レイはゆっくり空を仰ぐと、無表情だが芯のある眼差しを司教に向けた。
「この木漏れ日と葉の擦れ合う音、そして涼やかな風が眠気を誘うんです」
レイは堂々とした姿勢でジッと司教を見つめる。
(おいぃ…! 正直に言い過ぎじゃねぇか!?)
隣に立つサムは、レイの発言にヒヤヒヤした表情を見せる。
「なるほど……」
(これ、怒られるパターンだろ…)
トーンの低い司教の声色に、サムは怒られるのを覚悟で身構えた。
しかし、続く言葉はサムの予想外の言葉だった。
「わしの授業がつまらない--という訳では無いのなら、許そう」
「え、良いんですか…!?」
サムは思わず拍子抜けした。
「ありがとうございます」
「堂々とお礼言うのもおかしいぞ、レイ」
レイが頭を下げるのを見て、さらにサムはツッコむ。それを見て司教は「ほっほっほ」と笑った。
「ではレイ。今日わしが話した、”この世界の成り立ち”を簡潔に言えるかのぉ?」
司教が少し悪戯な微笑みを見せながら投げかけると、レイはキョトンと目を瞬かせる。
隣のサムは、ギョッと目を見張り、レイを心配そうに横目で見た。
(レイの奴、大丈夫か……?)
だが、レイはゆっくりと落ち着いた口調で話し始める。
「この世界には、人間、エルフ、獣人そして、ドラゴン、の四種族が存在し、それぞれの領域で暮らしています。
1000年前、この世界は古代ドラゴンによって均衡が保たれていましたが、人間が古代ドラゴンの逆鱗に触れてしまい、滅亡の危機に見舞われます」
レイは落ち着いた様子で、しかしハッキリとした口調で続ける。
「しかし四種族が力を合わせ、古代ドラゴン封印し、その後はドラゴンにより均衡が守られています。そのドラゴン達は”ドラゴンヘル”と呼ばれる雲よりも高い山の天辺へと移り住み、僕たちを見守ってくれています」
「そうじゃな」と司教は頷いた。
「かつてドラゴンの暮らしていた領域は、人間、エルフ、そして獣人の領域の中心地にありました。この地を巡って、三種族同士で争いが起こり、大きな戦争へと発展しました」
「うむ」と司教が静かに目を閉じる。
「300年間の戦争の末、三種族は平和条約を結び、共存していく事を決めました。
争っていたドラゴンの領域は、”セントラル”と呼ばれる中心都市にし、人間もエルフも獣人も、分け隔てなく暮らせる都市へと生まれ変わりました。
そして、このセントラルにある中枢機関で、三種族の代表者が話し合い、差別ない平和な世界を作るように努めている…、って感じでしょうか?」
レイが言い終えると、司教とサムは「おぉ!」と感嘆を漏らす。
「お前、ちゃんと言えてるじゃん!」
「うむ! そこまで言えるとは思っておらんかったわ」
二人の反応を見てレイはホッと胸を撫で下ろした。
司教は何度もこの世界の成り立ちについて話していた為、レイはこの説明を覚えていた。
表情に感情が出にくいレイだが、サムはレイが安心したのだと気付きニヤリと笑う。
「実は不安だったんだな」
サムは肘でレイをつついた。
「レイもちゃんと話を聞いているようで安心したわい。…それでは、ようやく本題じゃ」
「そうだった!」
司教に呼ばれた理由を思い出し、サムとレイは改めて司教に向かって姿勢を正した。
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