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竜血少年は、力加減が難しい  作者: moai
第一章:始まりの儀式
28/98

8-4



教会の中は、息を呑むような静けさに包まれた。




耳鳴りがするほどの沈黙。




誰もが言葉を飲み込み、ただ、事の余韻に身を委ねていた。




その静寂を破ったのは、ローレンヌだった。




「サム、よくやってくれたのぉ。皆も、ありがとう」




ローレンヌの声が教会に響くと、シールドが解かれ、疲労の色を見せる司祭達の姿が現れた。




すると、すぐに何人かの司祭達がローレンヌに駆け寄る。


その中にはコリーの姿もあり、ローレンヌの前に膝をつくと、すぐに声を掛ける。




「ローレンヌ司教様、力を使っても?」




コリーが右手を左胸に当てにながら、ローレンヌに嘆願する。




「こんな老いぼれに使わんでも……」


「使ってもっ?」




コリーは前のめりになり、ローレンヌが拒否する前にもう一度尋ねた。




それを見てローレンヌは笑う。




「ほっほ、怖いのぉ。では、頼もう……サムも一緒に良いか?」




チラリとサムの方を見ると、コリーは大きく頷いた。




「もちろんです」


「?」




会話の内容がわからず、サムが2人を眺める。


するとコリーが、ローレンヌとサムに向かって手をかざし、ゆっくりと深呼吸をする。




「≪ヒール≫」




コリーが静かに唱えると、サムとローレンヌは柔らかな緑の光に包まれる。




光は温かく、触れるだけで痛みが引いていくような癒しに満ちていた。




「!」




サムは驚き、目を見張る。


そして、自分の体に出来ていた小さな傷が塞がれて行くのを見て、目を丸くした。




「す、すげぇ!」




暫くして光が消えると、ローレンヌがコリーを見る。




「ありがとう、コリー」


「あ、ありがとうございます!」




ローレンヌがお礼を言うのに続き、サムも目を輝かせながらお礼を伝えた。




「いいえ、どう致しまして」




ニコッと笑い、眼鏡を押し上げながらコリーは2人を見た。




「ヒールって事は、司祭様は、光か聖属性…?」




サムがおずおずと質問する。




「そうだよ。僕は、聖属性なんだ」




コリーはフワリと笑って頷いた。




「聖属性…! 初めて会った!」




サムがキラキラと尊敬の眼差しをコリーに向けていると、エリオットがサムの方へ近付き、しゃがみ込んだ。そして、ローレンヌとサムを呆れ顔で交互に見る。




「ローレンヌ司教もだが、お前も、危険な事をしやがって」


「!」




サムは、鑑定時のエリオットと別人のような態度に驚いた。




エリオットはローレンヌに視線を向けると、強めの口調で口を開く。




「あんた、良い歳なんだから無茶は大概にしろよ」




それを聞いてローレンヌは高らかに笑う。




「ほっほっほ、お主よりは、だいぶ若いんじゃがのぉ」


「変な冗談言うな」


(このエルフの素は、こっちか!)




サムがそう思っていると、エリオットはその視線に気付き、サムを睨むように見る。




「なんだ?」




怪訝な表情でサムを見るエリオット。




「口が悪いなと思って」




サムが悪気ない表情で言うと、エリオットは目を見開く。




「なっ……コイツ!」




エリオットが言い返すと、我慢していたコリーとローレンヌは堰を切ったように笑い出した。




「あっはは! エリオット先輩、言われてますよ!」


「ほっほっほ! サムの言う通りじゃのぉ」


「ッ…っち」




エリオットは歯噛みしながら、気まずそうに目を泳がせた。そして、話題を変える。




「それより、レイ・シェルマンの事はどうするんだ? 司・教・様!」




エリオットが少し苛立ちを見せながら言うのを、コリーは笑いを堪えながら見ていた。




「そうじゃのぉ….…」




ローレンヌは先程までの笑顔を消し、神妙な面持ちで視線を落とす。




「誰か、司祭にレイを見てもらえぬかと考えておる」




ローレンヌの真剣な眼差しにエリオット、コリーも表情を変えた。




「今日の事は、大勢の参列者に知られてしまった。セントラル内にこの話が広まるのは一瞬じゃろう。その為、レイのもとに要らぬ者達が集まってしまうかも知れぬ。それは防ぎたい…」


「なるほど」




エリオットは暗い表情で相槌を打つ。




「レイには、申し訳ない事をした。守ってやれなかったのは、わしのせいじゃ。特に、力を欲していないだけに、かなりショックを受けたじゃろう」


「…」




神妙な面持ちでサムに抱かれるレイを見つめるローレンヌ。


その言葉にサムも、眉間に皺を寄せながらレイを見た。


続けてエリオットも口を開く。




「特に今は、勢い付いているゲニウスに気を付けた方が良い。今の教祖は、世代交代して独裁主義の過激派だと聞く。ドラゴンの血を持つ者と聞いて、何を仕出かすかわからない」




エリオットもレイをチラリと見ると、口を閉じ何か考え出す。




「司教様、ゲニウスって、古代ドラゴンを崇拝してる宗教団体の事ですか?」




サムが尋ねると、ローレンヌは「そうじゃ」と頷く。




「彼らだけではなく、世界中からレイは目を付けられるやも知れぬのぉ」


「そんな…!」




サムは眉間に皺を寄せる。レイを抱くサムの腕は自然に力がこもった。




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