8-2
(僕が、ドラゴンだなんてッ……)
レイは自分の運命を受け入れられずにいた。
魔力がある事でさえ落胆している中、いる筈の無い種族の血を受け継いでいる事が信じられなかった。
(何が、祝福の力だ…っ)
周りの喧騒が聞こえ、レイの頭の中で響き渡る。
「うっ…!」
レイはジワジワと込み上げてくる魔力の波に耐える。
しかし、その力の波は徐々に大きくなっており、レイは限界を感じていた。
(もう……耐えられない…ッ!)
「ッ!!」
そう思った時、レイは押し寄せる波に呑み込まれる。
「あがッ…っぐぅ…っ!?」
レイが顔を歪ませると、レイを取り巻く金色の魔力はレイを中心に集まり出し、魔力のエネルギーが圧縮されていった。
それを見たローレンヌは声を上げる。
「司祭達! レイをシールドで囲むのじゃ! 信徒は周りの子供達を頼んだぞ!」
指示が聞こえた瞬間、エリオット、コリー、マッシモを始めとする司祭達がレイをすぐに取り囲み、レイに向かって手をかざす。
信徒達は子供達やその付き添いの両親らをドアに近い者から順に急いで外へと案内していく。
サムは長椅子の陰に隠れ、レイの様子を見ていた。
司祭達がレイをシールドで覆い終え、神妙な面持ちで様子を伺う。
「ぅう、くっ、ぅあ…ッ!」
レイの身体がビクリと震えた。
その瞬間、レイの身体が仰ぐように仰け反る---
「ッ、ァアアァァアアアアアアアアア!!」
「「「「ッ!!?」」」」
空間そのものが軋むような、裂けるような音が響き渡り、全員が凍り付く。
地鳴りのような声が大聖堂を貫き、柱を震わせ、天井の梁を軋ませる。
レイの叫びは、もはや“声”ではなかった。
それはまるで、大地の奥底から響く竜の咆哮。
意識の深淵から這い上がる、原始の本能が形を成したような“何か”だった。
レイの黄金の瞳は、鈍く不気味に光を宿す。
全てが皆を戦慄させ、恐怖させた。
根源の中心にいるのは、人間の子供。
だが、レイを取り巻く金色の魔力は、
誰が見ても、間違いなく、ドラゴンの姿だった。
魔法の波紋が、司祭達の保護魔法にぶつかる。
その衝撃波は凄まじく、その場にある物を全て吹き飛ばし、何人かの司祭は耐えきれず、後ろへと倒れていった。
レイからとめどなく放出される魔力波の威力は、予想以上だった。
エリオットやデビット達は、その穴を埋めるように魔力を強めシールドの範囲を広げていく。
「ぐっ…!」
顔を歪めるエリオットは声を漏らす。
「こ、これは……かなり、危険ですね…!」
コリーが苦痛の表情で言うと、マッシモも険しい表情で頷く。
この状況を打開にするには……。
誰もがその答えを見つけられずにいる中、保護魔法の揺らぎを感じ、司祭達はその揺らぎの元へと視線を向けた。
「ローレンヌ司教……!」
「司教様!」
そこにはシールド内に入り、レイの元へゆっくり歩みを進めるローレンヌの姿があった。
司祭達は驚き、目を見開く。
ローレンヌは一歩一歩踏み出しながら、レイに近付いていく。
「レイよ、お主の血には……ドラゴンの血が流れているのかもしれぬ。だがーー」
仰け反っていた身体を今度は抱え込むレイを見ながら、ローレンヌは言葉を投げかけ続ける。
「お主は優しく温かな、"人の心"を持っておる。わしは、信じておるぞ」
司祭達はローレンヌの言葉に息を飲み、同時にローレンヌの安否を案じた。
シールド内はレイの魔力が充満しており、魔力の持たない人間が入ると、すぐに卒倒してしまう程の力が圧縮されている。
更に、魔力が右往左往に暴れて放出されている為、どこで傷を負うかもわからない状況だった。
案の定、ローレンヌは歩みを進める度に祭服が破かれ、傷が増えていく。
「無茶な事を……っ!」
エリオットは傷付いていく人間の老人を呆れ見ていたが、
(これが、人間……ローレンヌの強さ、か…ッ)
種族の違い、ローレンヌの信念をまざまざと見せ付けられ、ローレンヌの姿に釘付けになっていた。
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