7-3
「……!?」
「お、次レイじゃん!」
サムが声を弾ませ、期待を込めた笑顔を見せる中、レイの心の内は、驚きと焦りでいっぱいになっていた。
(神様……何故、あのエルフさんなんですか…っ)
無表情を装ったまま、レイの気持ちは鉛のように重く沈む。
前方でレイを待つ司祭----エリオット。
エリオットをチラリと見るレイは、言い知れぬ不安と戸惑いに襲われた。
「レイ、いってこいよ!」
「う、うん……」
(行くしかないっ)
サムの明るい声に背中を押され、レイはやっとの事で足を動かす。
しかし、歩みを進めるレイの足は、足枷がしてあるように重かった。
中央通路を進む度に、両脇に座る参列者から注がれる視線---。
そして、側廊に立つ司祭達からの突き刺さるような気配---。
レイは、その圧に押し潰されそうな感覚を覚えた。
(通路、こんなに長かったっけ……)
レイは、遠くに見えるエリオットを見て、足を止めそうになる。
その様子は、周囲の人々や、正面に立つエリオットからもはっきりと見てとれた。
(レイ・シェルマン、何をモタモタしているんだ?)
レイの異変が気になりエリオットは、訝しげな表情を見せる。周囲からも心配の声がヒソヒソと聞こえてきた。
そんな中、レイは静かに目を見開く。
(あぁ、そうか……。
僕は、鑑定……されたく無いんだ……)
レイは重い足を一歩一歩進めながら、自身の奥にある心の声に気が付いた。
今まで、魔力を持ちたく無いと切に願ってきた。もしここで、魔力を持っていると鑑定されたら、自分を失ってしまいそう、そんな想いが一気に溢れてきたのだった。
(ダメだ……足が、動かない)
その瞬間だった---。
後ろから軽やかに駆けてくる音が響く。
そして、レイの背中にトンと暖かい温もりが添えられた。
「レイ、大丈夫だ」
「……っ!」
振り返ったレイの目に映ったのは---
いつも通りの笑顔を湛えたサムだった。
レイを見るサムの目は真剣で、それでいて柔らかいものだった。
レイの中に積もっていた不安が一気に溶けていく。
「……うん」
レイの頬は、ふと緩んだ。
そして、前方へ向き直ると、一歩足を踏み出す。
すると足枷のような重みは、すっかりなくなっていた。
(サム……ありがとう)
先程とは打って変わり、軽やかな足取りで進んでいくレイ。
遠くに見えていたエリオットだったが、いつの間にか目の前にたどり着いていた。
既に、コリーとマッシモの前には少年達が立っている。
レイは、エリオットと静かに目を合わせる。
(……綺麗なエルフさんだなぁ)
エリオットの吸い込まれそうなエメラルドの瞳を見たレイは、自分がそう思える程落ち着いている事に、少し驚く。
すると、エリオットが両手を差し出す。
「では、手を」
レイはゆっくりとエリオットの手に自分の手を乗せる。
暫くの静寂---
間もなくして
「「「鑑定」」」
3人の司祭の声が聞こえた。
その瞬間、レイの身体の周りに、柔らかく温かい風が吹き上げてくる。
レイは思わず目を閉じた。
(なんだ、これ……)
レイは、立ち上った風が、そのまま身体の中を巡るような感覚に驚く。
(身体の中を、覗かれてる……?)
何か探られているような、覗き込まれているような、くすぐったいような感覚。
けれど、それは不思議と嫌ではなかった。
今まで味わった事のない体験に、期待と不安が入り混じる。
この風の行方はどこに向かうのか…、
そして、その風は何を告げるのか……。
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