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「レイー」
(…呼ばれて、る?)
夢見心地の中。
自分の名前を呼ばれている事に気付く少年--レイは、声が近付くと共に、意識が現実へと引き戻される。
肌に触れる優しい風を感じつつレイはまだ寝ていたいと思っていたが、彼を呼ぶ声はそれを許さなかった。
「レイー、おーい、起きろー」
「……ん」
耳元で呼びかけられ、レイは赤みがかった黒髪を揺らし返事とも言えない声を漏らす。
ここはアグリ村の中心に立つ大きな木の木漏れ日の差す広場。
その下で座って寝るレイは、重いまぶたを開いた。深い森のような緑の瞳が映したのは、しゃが込む親友の姿--その顔は呆れている様に見えた。
「聞こえてんだろ?」
茶色の短髪の少年は、「やれやれ」と肩をすくめ澄んだ茶色の猫目を細めた。
レイは未だ朦朧とする中、風で葉の擦れる音と遊び回る子供達のざわつきを聞き、ゆっくりと状況を把握していった。
「あれ、サム、もしかして今日の勉強会……」
「終わったぞ」
「……あらら」
サムと呼ばれた少年は、無表情まま焦りを隠せないレイを変わらない表情で見据えた。
「あららって、レイ……勉強会が始まってすぐ夢の世界に行ってただろ……」
「そんな事、無いよ…」
誤魔化そうとするレイに「本当かよ」と苦笑するサム。そして、その場に立ち上がると目を泳がすレイを見下ろした。
「司教様が、俺達の事呼んでるぞ」
「……?」
レイはサムを見上げ首を傾げる。そして、何の用だろう?と視線を送ると、サムがニヤッと笑う。
「今度の『鑑定の儀式』について、だとさ」
「あぁ…」
レイは、村のあちこちで聞こえる言葉に納得する。
『鑑定の儀式』は、この世界での大きなイベントであり、冬の明けるこの時期になると嫌でも耳に入ってくる。
レイは、遂にこの時期が来たか…と憂鬱な気持ちになる。
「司教様の事だから"遅れるなよ"って、釘刺してくるんだろうな」
サムが苦笑気味にいうと、レイはゆっくり立ち上がり頷いた。
そして二人は、子供達と談笑する木の根元に座る白髪で白い髭を携える老人--司教の元へ向かった。
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