7-1
内陣へ上がり、参列者達から見て左側に佇む木製の主祭壇へ向かうローレンヌ。
ローレンヌの姿を、身廊に座る子供達や親達、そして側廊に立つ司祭や信徒達と共に、レイも静かに見守った。
厳粛さと重みを湛えた沈黙が、教会を包み込む。
張り詰める空気の中、ローレンヌが主祭壇の前に立つと、続いて内陣へ上がったデビットが、主祭壇の左斜め前へと移動する。そして、参列者の方へ向き直ると、ゆっくりと顔を上げ、語り始める。
「皆様、本日はお集まり頂き誠にありがとうございます。
本日ここに集まった若者達が、この16年を健やかに生き、成長された事、心よりお祝い申し上げます」
深く頭を下げ、再び顔を上げるデビットの声は、教会の天井高くまで静かに響き渡った。
「この"鑑定の儀式"は、708年の時を重ねてきた、我々にとって重大な伝統の儀式です。
そしてそれは、あなた方の人生の大切な分岐点ともなり得ます」
教会内に緊張を含んだ静寂が広がっていく。
デビットは一呼吸おき、言葉を続けた。
「ですが、どうか恐れないで下さい。
この鑑定で示された特性は、あなたそのものです。拒むのではなく、受け入れてあげて下さい。
そして迷い悩んだ時には、どうか独りで抱え込まず、ご家族や私達、周囲の人々を頼って下さい。
それが、きっとあなたを救う鍵となるでしょう。
---忘れないで下さい」
デビットの柔らかながらも真っ直ぐな眼差しが、参列者一人ひとりに注がれる。
しばしの静寂の後、デビットは大きく息を吸い込み、声を張った。
「それでは、『鑑定の儀式』を執り行います。
鑑定士は、前へ」
教会に響き渡るデビットの声と共に、教会内は期待と不安が入り混じり、空気がピンと張り詰めた。
(……始まった……)
レイは自然と右手を左胸に当てた。
いつもなら緊張する筈の鼓動は、先程のサムの魔法のおかげで落ち着いている。
その時、側廊から3人の司祭––––コリー、エリオット、マッシモが静かに内陣の前に歩み出た。
それを見て、レイは見覚えのある司祭に釘付けになる。
(あの人……!)
レイは、先程食い入るように見てきたエリオットの存在に気付いた。
(僕を見てたエルフさん……鑑定士だったのか……)
エリオットに鑑定されないようにと内心祈りながら、前に整列した3人の司祭を見る。
「これより3人の司祭が、それぞれ名前を呼びます。呼ばれた方は、指定された司祭の前へお越し下さい」
デビットの合図と共に、コリーから順番に名前を呼び始める。
呼ばれた3人の子供が、おずおずと動き出し、各々司祭の元へと歩み出す。
(鑑定って……どんな風にやるのかな……?)
興味と不安の入り混じるレイは、中央通路に立つエリオットを見つめる。
チラリとサムを見ると、サムも身を乗り出し、顔を覗かせて様子を伺っていた。
その姿を見て、レイの頬が思わず緩む。
次の瞬間––––
「「「鑑定」」」
3人の司祭の声を揃えると、司祭の両手に手を重ねる子供達は、瞬く間に黄金の光に包まれていった。
「!」
その光景を見て、レイは息を呑んだ。
エリオットは目を瞑り、黙ったまま何かを読み取っている。
エリオットのまとう空気は、張り詰めたままひと筋の揺ぎもなかった。
少しすると、黄金の光がふわりと消え、エリオットが目を開ける。
(…今のが"鑑定"……すごい…!)
レイは初めて見る神秘的な状景に内心感動していた。
同じようにコリーとマッシモも鑑定を終わらせ、3人が目を合わせると、最初にコリーが口を開いた。
「あなたの種族は人間。魔力を持っています。量はやや少なめ。専属魔力は確認出来ませんでした。––––ご健闘をお祈り致します」
「は、はい!」
明るく返事を返す少年は、魔法が使える事に喜んでか、顔を綻ばせながら足早に席へと戻っていく。
続いて、エリオットが話し出す。
「あなたは、人間と獣人のハーフ。魔力を保有しています。さらに専属魔力を保持しており、属性は”水”です。魔力量も平均的です。––––ご健闘をお祈り致します」
「あ、ありがとうございます!」
少女は微笑むエリオットに言われ、顔を紅潮させながらお礼言うと、席へ戻っていく。
少女が席に戻る姿を見届けたマッシモが、静かに口を開いた。
「あなたは、人間です。魔力、専属魔力は持ち得ていませんでした。––––ご健闘をお祈り致します」
「はい…」
少し落ち込んだ表情を見せる少女は、俯いたまま席へと戻った。
それを見計らい、コリーから順に名前が呼ばれ、新たな3人の子供達が前へ進んでいく。
(なるほど、こんな風に鑑定されるのか)
レイは鑑定の流れを理解し、少し安心する。
そして、最後にマッシモに鑑定された少女の落胆した背中を見つめた。
(……僕も、あんな結果だったらいいのに……)
レイは心の中で羨望の眼差し向けていた。
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