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「それより! 俺は、この儀式で、自分の隠れた”専属魔力”が目覚めるって確信してるんだ!」
「……どう言う事?」
目を輝かせるサムに、レイは少し戸惑いながら首を傾げる。
「いやー、なんかさ。俺ん中でまだ魔力出し切ってない感があると言うか……。何かあると思うんだよなー!」
「そうなんだ……」
レイの言葉にうんうんと胸を張って頷くサムを見て、レイは内心不安に襲われる。
「サムは、専属魔力ほしいの?」
「もっちろん! 炎とか雷とか、強そうなのが良いな~! それで村を守るんだ!」
拳を握りしめながら意気込むサムに、レイは心配の眼差しを向ける。
「えぇ……怪我でもしたらどうするの…」
レイの弱々しい声に、サムは被せるように身を乗り出した。
「何言ってんだよ! 怪我なんかしても、村が守れるなら強い魔法の方が良いに決まってるだろ? 俺はぜっっったいに、専属魔力を手に入れる!!」
サムの勢いに押され、レイは思わず仰け反る。
けれど、その真剣な眼差しを見て、レイはサムの本気を察して自然と口元がほころんだ。
「そうなったら、サムは村のヒーローだね」
(……実はもう、僕のヒーローでもあるけど)
レイは、今も鮮明に覚えている幼い頃の記憶を思い出しながら頬を緩める。
すると突然、サムがほっこりするレイの肩をガシッと掴んだ。
「何言ってんだよ! レイも一緒だぞ!」
そう言ってサムはニヤリと笑って見せた。
レイは一瞬思考が停止する。
「……えっ、僕も!?」
思わず上げた大声は教会内に響いていく。
それに驚いた表情を見せる周囲の視線が一斉にレイに注がれた。
レイは小さく「すいません…」と謝り、「声出てたなー」と感心するサムを慌てて見た。
それを気にする事なくサムは続ける。
「あったりまえだろ? 俺達はタッグでヒーローだぜ!」
サムが親指を立てるのを見て、レイは呆れたようにため息をついた。
「……そもそも僕、魔法使えないんだけど?」
レイがジッとサムを見ながら言うと、サムは一瞬、真剣な表情を見せる。
「まだ分かんないだろ? 俺はレイに可能性を感じるんだよなぁ~」
サムが腕を組み得意げな表情を見せると、レイは眉をひそめる。
「可能性、なくて良いんだけどな」
レイのいつもの反応に、サムは目を見開き「ここでもかー」と声を漏らす。
「あいっかわらず、冷めてんな~、レイは」
「いやいや、サムが熱過ぎるんだよ」
いつものやり取りにレイの雰囲気が緩み、それに気付いたサムはニッと笑った。
お互い笑い合っていると、レイがふとした疑問を口にする。
「でもさ、なんでセントラル魔法学校に行かないの? サムは魔法のセンスありそうだし、魔導騎士にもなれるんじゃない?」
首を傾げレイが言うと、サムは渋い顔を見せる。
「えー? 嫌だよ! あんな堅苦しい所に行くの。俺はおっちゃんに教えてもらうから良いのー」
サムが両腕を後頭部に回しながら、長椅子の背もたれに寄り掛かった。
その時、背後から声が掛けられる。
「なんとも楽しそうな会話が聞こえてくるのぉ」
「「!」」
突然伸びやかな聞き覚えのある声が聞こえ、サムとレイは驚いて声の方を振り返る。
「「司教様!」」
そこにいたのは、金糸の刺繍が施された白い祭服を身にまとい、長い司教冠を被ったローレンヌだった。
「ほほ! サム、レイ、ちゃんと遅れず来たようじゃのぉ」
笑顔で2人を優しく見つめるローレンヌは、「感心感心」と頷いた。
レイとサムは、初めて見るローレンヌの姿に少し戸惑う。
その様子をローレンヌの後ろに立つ、他の司祭達よりも少し刺繍が多く施されている司祭長のデビットが眺めていた。
レイとサムは、そんな二人を目の当たりにして、急いで姿勢を正した。
それを見て笑うローレンヌは、落ち着かせるような口調で話し掛ける。
「そんなに緊張せずとも大丈夫じゃ」
ローレンヌが柔らかい笑顔を向けると、2人はホッと肩の力を抜いた。
「では2人共、神の加護があらん事を」
「はい!」
「ありがとうございます…!」
2人の返事を聞いて、ローレンヌは笑いながら頷くと、真ん中の通路をゆっくりと歩み始めた。ローレンヌは、通路の両脇に座る子供達やその家族に声を掛けながら、堂々と祭壇へと進んでいく。
その姿を一番後ろから眺めるレイとサム。
「なんかいつもと雰囲気違ったな、司教様」
「うん……厳かな感じ、だったね」
レイとサムは小声になりながら、ローレンヌの姿を眺め続けた。
ローレンヌの登場で騒ついていた教会内がゆっくりと静まり返っていく。
そして大勢いる司祭や信徒達も、徐々に側廊に並び出していた。
一層神聖な空気をまとい出す教会内……。
差し込む光がより強くなり、ステンドグラスの白や青、緑の爽やかな色がはっきりと内陣の床に映し出される。
その内陣へローレンヌが足を踏み入れた頃、教会は静寂に包まれていた。
(いよいよ、鑑定の儀式が始まる……)
レイは、少し前までの不安を思い返しながら、ゆっくりと深呼吸をする。
サムの手を通じて感じた、あの温かな魔力が、胸の奥にまだ残っているようだった。
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