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竜血少年は、力加減が難しい  作者: moai
第一章:始まりの儀式
16/69

6-2



(確かに、司教の言う通りだ)




そう認めるように小さく息をついたのは、側廊の陰でレイを見つめるエルフの青年–––エリオットだった。




(魔力がダダ漏れだ。それも無自覚に。鑑定能力がある司祭なら誰でも気付く量だぞ? 何故未だ覚醒していない……)




エリオットは、魔力の覚醒をしていないレイの状態が腑に落ちず、険しい顔でジッとレイの横顔を見つめる。




すると横から明るい調子の声が聞こえてきた。




「わっ! エリオット先輩、ものすごいしかめっ面ですよ! せっかくの綺麗な顔が台無しです!」




教会入口側の側廊から近付いてくる声に、エリオットは煩わしそうに鋭い視線を向ける。




「そ、そんな睨まないで下さいよ!」


「変な事言うからだ、コリー」




声を掛けたのは、エリオットと同じく『鑑定の儀式』の鑑定役に任命されたコリー・ラコステだった。


溜息をつきながらエリオットに言われ、コリーは肩を落とす。




「本当の事、言っただけなんですけど…!」




「心外です…ッ」と半泣きで続けるコリーに、呆れ顔をみせるエリオット。




「お前はそれでも浄化師か? 浄化師はもっと厳かで、落ち着きのあるものだと思っていたが」


「僕みたいな浄化師も、世の中には沢山いますよ」




背の高いエリオットを少し睨み気味に見上げるコリー。




(いや、浄化師自体そんなにいないだろ)




聖属性の魔力を持ち、瘴気等を浄化出来る者の事を浄化師と呼ぶのだが、なかなか珍しい属性の為、浄化師はこの世に多くいない。


コリーの言葉に心の中でツッコミを入れるエリオットは、コリーの視線を全く気にも留めず、今日の大役を任された、もう1人の司祭の姿を探した。




「それより、マッシモはどうした」


「マッシモ先輩なら、僕の後ろに…、あれ? いない!?」




振り向くと後ろには居るはずのマッシモがおらず、コリーは慌てる。しかし、エリオットよりも背が高く、体格の良いマッシモはすぐに見つかった。




「あ、いたいた。あんな所で立ち止まって、何を見ているんだろう?」




コリーがマッシモの元へ向かう姿を眺めながら、エリオットはマッシモの視線の先を追う。




そして、その先に行き着くと目を見開いた。




(マッシモも、レイ・シェルマンを見ている?)




エリオットが怪訝な表情を浮かべレイを眺めていると、コリーがマッシモをズルズルと引っ張ってくる。




「ふぅ~、マッシモ先輩、ちゃんと歩いて下さいよ!」


「…」




コリーの言葉を聞いていないのか、反応しないマッシモ。




心ここに在らずのマッシモの腹部に、コリーが「せいっ」と渾身の一撃を喰らわせる。


すると、マッシモがオレンジ色の髪をピクリと揺らし、コリーの方へと視線を動かした。




「…コリー」


「マッシモ先輩、やあっと意識戻りましたね」




脱力気味に言うコリーを横目に、エリオットが「マッシモ」と声を掛け、レイの方へ視線を向ける。




「お前も、アイツが気になるのか?」




マッシモはそう言われ、細い垂れ目を薄め、うーんと顎に手を当てた。




「…気になる、と言うよりは、気にせざるを得ない、と言うべきか…」


「なんです、それ?」


「詳しく説明しろ」




マッシモの言葉に、コリーとエリオットは釈然としない表情を浮かべた。二人が同時に聞き返すと、マッシモは首を傾げる。




「……だんご、だ」


「へ?」


「は……?」




あまりにも突拍子のない答えに、コリーとエリオットは一瞬、返す言葉を失う。


マッシモはそんな2人を気にせず続ける。




「精霊達が、あの子供に集まり過ぎている。もはや……”だんご状態”だ。あの子供の姿が見えない程にな……」




マッシモは、レイをしげしげと見つめる。その口調は淡々としているが、どこか感嘆の色も滲んでいた。




「そんなに精霊がいるんですか?」


「恐らく……森やこの街にいる精霊達が、あの子に付いて来たんだろう。山盛りいる…」


「や、山盛りって……」




コリーは引き気味にマッシモに釣られてレイを見る。


それを聞いてエリオットがマッシモに問いかける。




「アイツは、精霊が見えているのか?」




エリオットが訝しげに尋ねると、マッシモは首を横に振った。




「見えていないだろう…。あんなに纏わりついていたら、前も見えない筈だからな」


「……そうか」




さらに謎めくレイの存在に、エリオットは再び眉をひそめる。


すると、マッシモは無表情のまま、キラキラと目を輝かせた。




「精霊達に、好かれる体質……なのかも」




期待の眼差しを送るマッシモ。だがその横で「でも…」とコリーが口を開く。




「精霊に好かれても、見えてないなんて…。なんだか勿体無いですね」


「……鑑定を受けて、精霊が見える様になる精霊使いもいる」




力強く言うマッシモに、エリオットは頷いた。




「精霊使いは数も少ない、貴重な存在だ。精霊とやり取り出来れば、自然の変化や瘴気の察知、浄化もできるかもしれない」


「ほんとです。最近、各地の瘴気発生のせいで、浄化師の手が足りてないですから…」




真面目な表情のコリーを見て、マッシモも表情を変えた。




「…それも、深刻だ…」




肩をすくめるマッシモにコリーも目を伏せながら頷く。




暫く真剣な表情を浮かべる3人。




その静けさを破ったのは、コリーだった。コリーは、少しやんちゃな笑みを浮かべると、エリオットを見る。




「エリオット先輩も、後輩が欲しいんじゃ無いですか? 先鋭部隊の後輩!」




肘でエリオットをつつくコリーに続いて、マッシモも口を開いた。




「確かに。今、先鋭部隊の方が、忙しい」




マッシモの言葉にコリーが続ける。




「各地凶暴化したモンスターが増えてるのに、セントラル中枢機関が騎士達を集めてて、討伐部隊は、もぬけの殻ですもんね。モンスター討伐は、今や、教会の先鋭部隊の仕事になってますし……上層部は、何を考えているのやら……」




コリーがやれやれと明後日の方向に遠い目を向ける。




するとエリオットが、腕を組みコリーとマッシモを見ながら口を開く。




「人員が欲しいのは、どこも一緒だろ。それに……」


「「?」」




「今の討伐数なら、俺達だけで問題ない」




凛としたエリオットの言葉に、目を見開きピタリと動きを止める2人。




「ふふ、そうですね。先鋭部隊の方々ほど、優秀な方はいませんから」


「流石、だな」




明るく笑うコリーと微笑んで見せるマッシモは、大きく頷いた。


すると、マッシモの目がきらりと光る。




「じゃあ、あの子は、ぜひ、精霊使いに……!」


「マッシモ先輩、まだ言ってるんですか」




マッシモの言葉に呆れ笑うコリー。


エリオットは、そんな2人を見ながら、組んでいた腕を下ろした。




(レイ・シェルマン…魔力を保持するが覚醒しておらず、しかも精霊にも好かれる人間、一体どんな奴なんだ)




エリオットは、一度考え込むと、顔を上げゆっくりとレイに視線を向ける。










その時同時に、レイに向けられる欲望に満ちた眼差しには、誰も気付いていなかった。




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