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竜血少年は、力加減が難しい  作者: moai
第一章:始まりの儀式
14/69

5-4



その頃、レイはサムと木漏れ日降り注ぐ森を歩いていた。




(そういえば、僕達、これから儀式を受けるんだったっけ)




普段と変わらない調子でサムと会話を交わしながら歩くレイは、いつも通りの安心感に、これから儀式がある事を忘れてしまいそうになっていた。




ふと思い出した途端、レイは急に不安に襲われる。


そんなレイのちょっとした変化にサムは気が付いた。




「どうした、レイ?」




サムは、急に黙り込むレイを覗き込み声を掛けた。




「あ、いや…」




我に返ったレイは、サムの顔を見ると頬を緩める。




「ごめん。なんかいつも通りな光景に、安心しちゃってた」


「あっはは、わかるわ!」




サムは肩をすくめ笑いながら頷いた。




「隣町の教会も、月に一回は行ってるから、なーんか緊張しないんだよぁ」


「そうだね」




レイが頷くと、サムは「だよな!」と笑いかけた。




「いつも通り過ぎて、逆に不安だなぁ」




レイはそう呟くと、風に吹かれざわざわと騒めく森のトンネルを少し不安な気持ちで見渡す。




「逆にって、なんだよ」




サムはレイの言葉に苦笑すると、ふと思い出したように表情を変えた。




「そういや、不安といえば、人間国って5つに分かれてるのはレイも知ってるだろ?」


「うん。北のシエロ国、南東のドラコ国、南西のスターリ国、西のアステリ国と東のヒュドール国だっけ」


「そうそう」




レイの回答に頷きながらサムは続ける。




「その人間国5カ国が昔、争いをなくす為に協定を結んだらしいんだけさ……最近、アステリ国がその協定を破棄するって言い出したんだとさ」


「え、なんで?」




レイは世界の不穏な動きに眉をひそめた。




「なんか、ドラコ国の国王が3年前に代わったらしくて、その国王とアステリ国と上手くいってないとかなんとか…」


「へぇ……でも、なんでサムがそんな話を?」




サムを見ながらレイは、言葉の背景を探るように尋ねる。


サムはその意図に気付き、口を開いた。




「あぁ。俺ん家、武器とか防具の店やってるだろ?」


「村で一番大きいよね」


「まぁな。実は、スターリ国は鉄鋼の採れる国なんだけど、アステリ国がその鉄鋼を使って武器とか作ってんだ。んで、その武器がうちの店にも入ってきてる訳……なんだけど……」




サムが少し暗い顔をして続ける。




「戦争になったら、その武器は全部軍の方に持っていかれるだろ? そうなったら、こっちに流れてこなくなるんじゃないかって、父ちゃんも母ちゃんも心配してんだよ」


「…そういう事か」




レイは、少し元気の無いサムを見ながら納得する。




サムの両親が経営する武器・防具店は、村一番の仕入れを誇っていた。


セントラルの端に位置するアグリ村に訪れる冒険者や魔物討伐者達は、武器の補充や装備のチェックの為、ほとんどがサムのお店を訪れる。それが機能がしなくなれば、サムの家も収入源がなくなってしまい、大変な事になるだろう。




レイは状況を理解し、気を落としているサムに声を掛ける。




「それは、大変だね…」




思わず暗い声になってしまった事を、レイはすぐに後悔した。




(親友を元気付けなきゃいけないのに、こんな暗いトーンで、僕は……)




レイが明るくなる言葉を続けようと口を開こうとした時、サムが「そう…」と呟く。




「そうなんだよ…自分の息子がこれから儀式だってのに、店の心配かよ!!」


「え…?」




レイは、サムの突然の叫びに一瞬思考停止するが、瞬時にサムの真意を理解する。




「人生を変えるかもしれない『鑑定の儀式』だってのに、朝からその話ばっかりでさ! ちょっとは息子の未来の心配をしろっての!」


「まぁまぁ、サム」




レイは、握り拳を前に突き出すサムを宥めた。そのサムの目に不安の色が浮かんでいる事に気が付く。




(そっか……サムも、本当は儀式が不安なんだ)




2年前に魔力の覚醒をしてから、いつも自信満々に見えるサムも、同じように不安な気持ちを持っていたのかと、レイは胸の奥にふわりと安心感を覚えた。




「きっと、サムなら大丈夫だって、安心してるんだよ」




レイが微笑みながらサムに向かって言うと、サムはレイを見て目を見開く。


そして、疑念の目でレイを見続ける。




「…そうかな」


「うん。絶対そう」




レイの穏やかな声に、サムは不安そうな表情から少し頬を緩ませた。


レイは更に続ける。




「しかも、魔法が使える事も分かってるんだし、将来有望でしょ」


「そこまで言うか?」




吹き出すように笑うサムに、レイは「うん、有望」と、いつもの無表情だが、安心させるような明るい声色で繰り返した。




「そっか…まぁそう言う事にしとこう!」


「うん、いつものサムだね」




レイはサムの笑顔に釣られて小さく笑みを見せる。それを見てサムがレイにまとわりつく。




「何笑ってんだよ!」




そう言って、サムがレイの頬を両手で挟もうとする。


レイは、なんとかバランスをとりながら絡みに抵抗し、サムと笑い合う。


暫くして、サムはレイから離れると、真剣な眼差しを向けた。




「レイ」


「?」




サムの表情の変化に少し驚きながら、レイはサムに向き直り見つめ返す。




「この儀式で、人生が変わった人も多いって聞くだろ?」


「そうだね」




レイは静かに頷いた。




「俺達もさ、どんな未来が待ってるかわかんないし、人生が大きく変わるかもしれない」


「うん」


「けどさ、どんな鑑定結果でも––––俺達は変わらず親友だからな」


「っ!」




レイは目を見開きサムを見つめた。


サムは、少し照れながらもニッと笑い、右手に拳を作るとレイに向かって突き出す。




「もちろんだよ」




レイは、サムと同じように拳を作り、サムの拳に向かって自分の右拳をコツンと当てた。




二人は互いに見つめあう。サムは笑顔を見せ、レイは静かに微笑んだ。




レイはサムの眼差しに、揺るがない決心をした。


この先どんな事があっても、サムは大切な親友だ、とーー。




(サムのおかげで、不安が吹き飛んだ気がする…)




「よっしゃ! じゃ、いくか!」


「うん!」




決意を新たにした二人は、木漏れ日降り注ぐ森を進み、教会へと向かった。








その時、一陣の風が吹く。


木々のざわめきは、森の奥へと吸い込まれていき、二人の耳には届かなかった。




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