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竜血少年は、力加減が難しい  作者: moai
第一章:始まりの儀式
13/70

5-3



その声の主の方へ、その場に居る全員の視線が一斉に向けられた。




そこには、濃い紫色の髪をした青年がおり、ためらいなく内陣の方へ向かって行く。




「ダニエル・ワット、どうしました?」




デビットは、淡々とした口調で声を掛ける。ダニエル・ワットと呼ばれた司祭は、長い髪を揺らしながら口を開いた。




「納得出来ません。何故私ではないのですか!?」


「不満ですか?」




デビットの問いに、苛立ちを隠せないダニエルは顔をしかめる。




「えぇ、そうです! 私はコリーより経験があります…! 何故彼が選ばれるのか説明してください!?」




ダニエルの声が教会の静寂を突き破った。傍らでエリオットは「うるさいな」と小さく呟く。


ダニエルの質問を聞いたデビットは、呆れたような表情を見せる。




「ダニエル、前回の儀式の事を忘れた訳ではありませんよね? 貴方が『鑑定の儀式』で、無理矢理力を引き出した若者は、儀式以来、今も心と体が乖離したままだと言うことを……」




冷静に語るデビットは、当時の若者の苦痛の叫びを思い出し、表情を歪めた。


しかし、ダニエルはびくともせず、デビットを見つめる。




「その件については、申し訳なく思っております」




目を伏せて見せるダニエルだが、その冷静な態度にデビットは口調を強める。




「ならば、何故そんな軽々しい態度が取れるのですか? 貴方は、わかっていないのでしょう……その若者も、その家族も今なお、苦しんでいるという事を…!」




デビットは、少し怒りを含んだ声色で言い放ち、ダニエルを見据えた。ダニエルは一瞬怯んだが、すぐにグッと顔を引き締める。




「わかっております。ですので、今回は慎重に……」




ダニエルの言葉を遮るように、デビットが口を開く。




「貴方に、儀式を任せることは出来ません」




先程の声色から一変して、デビットが落ち着いた口調でハッキリと言うと、ダニエルは「なっ」と声を詰まらせた。




「一部の司祭は、『鑑定の儀式』で才能を引き出す事が、名声を得る事と勘違いしている。貴方もそうなのでしょう、ダニエル?」




ダニエルは反論できず、口を閉じる。




「わかったのなら、下がりなさい」


「…っく」




デビットは静かに諭すようにダニエルへ告げる。ダニエルは、納得のいかない表情を浮かべながら、ゆっくり後方へと下がっていった。




その様子を見届けると、デビットはローレンヌの方へ向き直り、一礼した。




「大変失礼いたしました、司教様」




デビットは話を切り替え、続ける。




「先程呼ばれた3名は、未来ある若者達の為にも秩序ある対応を心掛けて下さい」


「はいっ」


「かしこまりました」


「仰せのままに」




各々の返事を聞き、デビットはゆっくり頷くと、他の司祭や信徒の方へ顔を向ける。




「今回選ばれなかった司祭達、そして信徒の皆さんも、本日は何が起こるかわかりません。お越し下さる参列者の皆様を見守り、適切に対応してください」




デビットが言い終えると、その場にいた者達は声を揃えて「はい」と応じた。




「では、司教様」




デビットがローレンヌの方へ視線を向けると、ローレンヌは口を開く。




「うむ、皆、準備の続きに戻るがよい」




その一言で、司祭や信徒達は慌ただしく作業へ戻っていった。




「コリー、エリオット、マッシモはこちらへ」




ローレンヌが3人を内陣の中へ呼び寄せる。信徒達の流れに逆行し、コリー、エリオット、マッシモはそれぞれ内陣内へ上がった。


3人が並ぶと、デビットが口を開いた。




「手筈は理解していると思いますが、鑑定時には若者の種族、魔力の有無、専属魔力の有無、属性を伝えて下さい。私が内容を控えます」


「「「かしこまりました」」」




3人が返事をすると、ローレンヌが一歩前に出る。


ローレンヌがデビットへ「リストを」と伝えると、デビットは魔法でリストの紙を浮かせ、3人へそれぞれ紙を渡した。


リストが行き渡ったのを見て、ローレンヌは口を開く。




「今日の儀式を受ける者のリストじゃ。振り分けをしておるので、確認をしておいてくれ」




「わかりました」




3人は頷き、各自リストに載る名前に目を通していく。




「それと、エリオット」




リストを見ているエリオットにローレンヌは声を掛けた。




「はい」




エリオットは返事をすると、ローレンヌの方へ視線を向ける。




「お主の鑑定人の中に、”レイ・シェルマン”と言う者がおる。この子は、より丁寧に扱ってやってほしいのじゃ」


「……と、言いますと?」




エリオットは一度考え込み、質問した。ローレンヌは顎髭を撫でながら答える。




「あの子から微かに魔力を感じるんじゃが、それに気付いてから3年も経つ。しかし、未だに魔力の覚醒がないんじゃよ」




エリオットは驚き、目を見開いた。コリーとマッシモも、リストから視線を外し、顔を上げローレンヌを見ている。


エリオットは、表情を戻しながら視線を泳がす。




「それは…不思議ですね。普通、魔力を感じたら1年以内には覚醒する者が多いのですが……」




長い歳月生きてきたエルフのエリオットでも、この現象は初めてのようだった。




「そうなのじゃ。わしも気になってのぉ。鑑定に長けたお主ならと、ハルファウン大司教様に願い出て、呼び寄せたのじゃ」




ローレンヌは、長年鑑定をしている20代後半の姿をした、齢427歳のエリオットであれば、レイのこの現象の謎、そして、丁寧な鑑定をしてくれると考えていた。


エリオットも、その意図を理解し「なるほど」と腑に落ちた表情を見せる。




「わかりました。私でお力になるのでしたら、誠意を持って対応させて頂きます」


「ありがとう、エリオット」




ローレンヌは安心したように頬を緩める。


そして思い出したように笑い出す。




「ほほ、しかも少し変わった子でな。力は欲しくないと言うておるんじゃよ」


「珍しい、ですね」




エリオットは、またもや初めての言葉に動揺し、目を見開いた。だが、その瞳の奥には興味深げな色を見せる。それを見て、ローレンヌは笑う。




「ほっほっほ、じゃろう。だからこそ丁寧に見てやってくれ。宜しく頼んだぞ」


「かしこまりました」




エリオットは真剣な表情でローレンヌに返事を返すと、再度リストに視線を落とした。そして、レイ・シェルマンの名を眺める。




(魔力を感じて、3年…か。何かありそうだな)




エリオットは、少し深い深呼吸をして、前を見据えた。












その陰で、恨めしげに内陣を見つめる男がいた。


先程騒ぎを起こしていたダニエルだ。




「くそ、頭の硬い司祭めっ…!」




ダニエルは、デビットを睨みつけながら悪態を吐く。


そして、隣にいる儀式担当の司祭達に目を向けた。




「何故、出来損ないのコリーなんだ! そしてあのベイクウェル…っ! あんな戦闘能力しかない外道司祭に任せるなんて、あり得ない!!」




グッと拳を握り締め、悪魔の形相で睨むダニエル。




彼は教会に入った当初から周囲の期待を一身に背負い、『いずれは司教になるだろう』と噂される程だった。教会から多くの任務も任され、日々努力を重ねてきた。




しかし、去年初めての鑑定の儀式を任された際、ダニエルは失敗した。




名声をあげる為に力を誇示しようした結果、逆に評判を落としてしまったのだ。


その後、教会の対応は一変した。仕事の内容は、信徒達と同じような司祭達の補佐に回されたのだった。




悔しさを滲ませながらダニエルは拳を見つめた。




(あの一件以来、皆が私を馬鹿にして力を認めない……! 次は上手くやれる! ここで挽回をしなければ、私の立場は…ッ)




ダニエルは、一旦考えるのを止め、深く息を吸い込んだ。


今の彼の立場は、まさに崖っぷちだった。




「私は司教になるんだ……こんな所で留まる器ではない…っ!」




キッと顔をあげ、内陣に立つ司教と司祭達を見る。


その目には、決意の光を宿していた。




「見ていろ……今回の儀式で、必ず私の名を上げてやる……!」




ダニエルは、親指の爪を前歯で噛み潰しながら、ギラリと藍色の瞳を細めた。




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