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竜血少年は、力加減が難しい  作者: moai
第一章:始まりの儀式
12/74

5-2



時を同じくして––––




レイ達の住む村からひとつ森を抜けた先にある街の教会は、今日の儀式の為に慌ただしく準備を整えていた。




大きなステンドグラスの窓から鮮やかな光が注がれる内陣。


そこには重厚な主祭壇が置いてあり、沢山の花が飾られ、見る者達の目を楽しませていた。教会の長椅子の周りにも花が散りばめられ、吹き抜けている空間には、魔法の力で浮かぶキャンドルが灯り、ゆらゆらと柔らかな光を揺らしていた。




全ての準備も終盤を迎える頃、一人の白い祭服に身を包んだ老人がゆっくりと教会の扉を潜った。




「皆の者、一度集まっておくれ」




騒ついた教会の中、しゃがれながらも大きく通る声を発したのは、レイ達に教えを授けていた司教であった。彼は静かに内陣へ上がる。




「ローレンヌ大司教様」




その場にいた者は司教を見るなり目を輝かせ、次々と彼の元へと集まった。




ローレンヌ・ドゥ・タヴェルニエは、セントラルに点在する四大教会のひとつ–––西のヴィンセント教会の司教であり、同地域の教会全体の取りまとめ役を担っている存在だった。




「ほっほっほ」と軽やかに笑うローレンヌは、静かに諫言を口にした。




「大は要らぬのぉ。大司教様は、我々をまとめるハルファウン大司教様に在られる。以後、気を付けなされ」




小柄で優しい表情のローレンヌであったが、目を細めながら「大司教」と呼んだ信徒をまっすぐに見据える。




「は、はい。申し訳御座いません」




信徒である青年は、司教の眼光に少し怯えながら頭を下げた。




ローレンヌは、青年が「大司教」と言った意図にひっそりと気付いていた。




ハルファウン・ローイン大司教はエルフ族であり、その不変の長寿から、一部の人間や獣人の信徒は、300年以上変わらない大司教の事を快く思っていなかった。エルフに支配されていると言う者もおり、不満を心の内に秘めている者も多い。




司教達は、「皆立場は一緒だ」と唱えている。だが、寿命の長いエルフと他種族が平等である事に矛盾を感じる者もおり、反発する声は根強かった。




その一部の人間の信徒は、唯一人間であるローレンヌのみを司教として認めていると言う意味を込めて、「大司教」と呼んでくるのだった。




(……完璧な共存とは、言うは易く行うは難し、じゃのぉ)




ローレンヌは、ハルファウン大司教の目指す世界––––”全種族の完璧な共存の世界”への難しさを感じながら、集まった司祭や信徒達を見渡した。




「皆、この日の為に尽力してくれた事、感謝するぞ。ありがとう」




ローレンヌが頭を下げると、司祭や信徒達も一斉に頭を下げた。顔を上げたローレンヌは、一人一人の顔を見ながら静かに語り始める。




「さて、708年前から続くこの『鑑定の儀式』。皆も16歳の頃に受けた事があるじゃろう。わしは、もう61年前の事じゃが、緊張しておったのを今でも覚えておるのぉ」




ローレンヌが笑いながら言うと、信徒達も少し笑みが溢れる。




「今日ここに来る若者達は、『鑑定の儀式』を受ける事で、自らの運命を知る事となる。自らの未来、そしてこの世界の未来をこれからどう創るのか、己とどう向き合うのか、世界とどう関わるのか、これから悩み、歩んで行く。その最初一歩が、まさに今日この日じゃ。皆、丁寧に、敬いながら、温かく、訪れる者達を迎えるように。宜しく頼んだぞ」




「「「「「「はい、司教様」」」」」」




司祭、信徒が全員、右手を左胸に手を当て、声を揃えて応える。




その声を聞きながらローレンヌは優しく微笑みを浮かべたのち、同じ内陣の端に佇む最年長の司祭に目を向ける。




「デビット司祭」




名前を呼ばれた司祭は、傍らに抱えた分厚い書物を手に、ローレンヌに頷いて見せると、少し前へと歩み出た。




「それでは、本日の儀式を執り行う司祭を発表します」




その言葉を聞いた司祭達の中に緊張感が漂った。デビットはそれを感じながらも変わらない落ち着いた口調で続ける。




「『鑑定の儀式』は我々にとって憧れの役目であると同時に、大きな責任も伴います。鑑定を受ける若者達の為にも、基本に忠実に務めて下さい」




そう言い終えると、持っている分厚い書物をゆっくりと開く。




「本日は、43名の若者がこの教会に参列されます。そこで、3名の司祭に登壇して頂きます。名前を呼ぶので、返事をお願いします」




そういうと、本に書いてあるリストへと視線を移動させる。




「コリー・ラコステ」


「は、はい!」




焦った様に返事をしたのは、丸眼鏡をかけ、グレーの長い髪を後ろの下の方で束ねている司祭だった。ズレる眼鏡を指で押し上げながら黄色の目を見開いていた。




「エリオット・ベイクウェル」


「はい」




次に呼ばれたのは、金髪の長い髪を下ろし、端正な顔立ちに似合う緑の切れ目をしたエルフの司祭だった。コリーとは違い、落ち着いた様子で返事をする。




「最後、マッシモ・デ・コバ」


「…はい」




マッシモと呼ばれた司祭は、司祭らしからぬたくましい体格で、少し色黒であった。太陽のようなオレンジ色の髪を揺らしながら頭を下げ、返事をすると、灰色の瞳をデビットに向ける。




「以上の3名に…」




「ちょっと待って下さい!!」




話を続けようとしたデビットの声を遮るように突如声が上がる。




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