8-3
痛む身体に鞭を打ち、レイは顔を上げる。
目に映る目前の顔は、声色と同じように真剣且つ心配の色を見せていた。
「貴方は、この力を受け入れますか?」
ロリエンが静かに問う。
その問いに、レイはすぐに答えられなかった。
「……ッ、…ぼ、僕、は……ッ」
受け入れなければならないのは、自分でもわかっていた。そうでなければ、前に進めない事もーー。
しかし、受け入れた自分の姿が、全く想像出来なかった。そして、"怖い…"とも思った。
その瞬間、身体の内側から魔力の波が押し寄せる。レイは嫌な感覚に手で胸を押さえた。
「くッ……!!」
再び顔を伏せるレイ。
それと同時に、再び魔力波がレイを中心に噴き荒れる。
突風のような魔力波に大地が一斉に揺れ、激しく森が騒めく。
ギルミアは吹き飛ばされそうになる身体をなんとか留めていた。
そんな中、背中に触れるロリエンの手の温もりはそのままだった。そして、ふわりと声が聞こえる。
「貴方は……悩んでいるのですね」
心を見破られ、痛みに耐えながら驚く。
「レイ・シェルマン。貴方はやはり、風にそよぐ葉のように透き通った心を持っている」
確信の色が伺える優しい声。
レイはその言葉の意味がわからなかったが、何故か心が落ち着いた。
すると背中から温かい魔力が身体中へ流れ込んでくるのを感じる。
(こ、これは……ロリエンさんの、精神安定魔法……?)
徐々に落ち着いていく気持ちーーそれと同調するように、魔力の波が静かに潮を引いていくように収まっていく。
辺りの騒めきや揺れは、だんだんと静かになっていった。
ロリエンの魔法は、ローレンヌやサム、そしてエリオットとはまた違った温もりだと、レイは思った。
今までの感覚は、『レイを助けたい』という気持ちが強かったが、今回は違う。
(僕に……期待と、これからの希望を、持ってくれてる……)
痛みや呼吸が収まり、レイは強張っていた身体をゆっくりと動かし、ロリエンを見上げた。
ロリエンは無傷で、埃ひとつ、ついていなかった。保護魔法による輝きをまとったまま、いつもの穏やかな微笑みを浮かべている。
その神々しさと、自分に可能性を感じてくれる事に嬉しくなり、レイは目の奥に熱を感じた。
そして、頬を流れる感触ーー。
顔が歪んでいるのもわかった。
無様な姿を晒している自分の恥ずかしさよりも、ロリエンがこんな自分に期待や希望を持ってくれている事の喜びの方が大きく、レイは気にせずポロポロと涙を溢していた。
「おやおや。そんなに泣かないで」
少し困ったような表情を見せるロリエンの視線は温かく、その姿にレイは更に涙を流した。
こんな自分に、希望を持って良いのか、
生きていたいと、思って良いのか……。
そんな疑問をロリエンは、全て肯定してくれているように感じる。
レイは頭を下げた。
「あ…ありがとう、ございます……ッ、ロリエンさん…!」
そう言って頭を上げようとした瞬間、レイは急激な眠気に襲われ、そのまま地面に伏せてしまう。
「どうしました!?」
ロリエンの焦ったような声が耳に入る。
説明したいが、眠気の強さに勝てず、レイはそのまま目を閉じていった。
その閉じる最中、目に入ったギルミアの表情は、今まで恐怖してきた人々とはまた違う、更に怯えたような顔だった。
(ギル、ミア……?)
その違和感を残したまま、レイは瞼を閉じるのだった。
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