8-2
その瞬間、空へ向かって咆哮するレイ。
渦のように包む魔力も上空へと放出され、光の柱が勢いよく立ち登る。
地面が揺れ、木々のざわめきが波のように広がる。
ロリエンとギルミアはその光景に圧倒され、昇りゆく龍のような魔力を唖然と見上げている。
レイの脳裏に現れた『ドラゴンの瞳』ーーその瞳が、自分の瞳と同化するような感覚を覚え、真臓から流れ出てくる魔力を体中ではっきりと感じたのだった。
(な、なに……ッ!?)
魔力の流れが自然と見えてくる。
しかし、それはレイに衝撃を与えた。
力の流れがわかる事で、この溢れ出る魔力は底をつくことを知らず、まだまだ魔力が解放されていく事もわかってしまった。
魔力の放出に伴う痛みは未だ続き、レイは痛みに苦しみ、身を屈めた。
「ぅぐ……くぅッ」
力を抑えないと、ロリエンやギルミアに迷惑が掛かる。そう思いながら顔を上げるレイは、ギルミアと目が合った。
その瞬間、ギルミアの表情は一気に強張る。
そして身体を震わし、恐怖で後ずさっていく。
その蒼白とした表情にレイは、(まただ…)と胸が痛くなった。
過呼吸になるギルミアにロリエンが近付き、精神安定魔法を掛けると、
「ギルミア、ここで待てるかい?」
震えるギルミアに声を掛ける。
「……ッ」
ギルミアが弱々しく頷くと、ロリエンは震えるギルミアの頭をひと撫でし、レイへと視線を向けてくる。
レイはロリエンの眼差しに射すくめられ、バクバクと騒ぎ立てる心臓の音を聞いた。
『保護魔法』
ロリエンが詠唱すると同時に、ロリエンの身体に眩い深緑の光がまとわれた。その光が収まると、ロリエンはレイを見据え、ゆっくりと近付いてくる。魔力の突風を物ともせず、歩みを進めてくるロリエン。
その姿にレイは目を見開いた。
司教であるローレンヌは、傷だらけになりながらも、やっとの思いで自分に触れてくれた。
それなのに、目の前のエルフは狂気の嵐を物ともせず、こちらに向かってくる。レイの魔力がロリエンに触れる前に、弾かれるように光を放っていた。
その強靭さにレイは畏怖の念すら感じる。
身体を抱え、苦痛に耐えながら、目の前にロリエンを迎える。
「ロリ、エンさ…ん……ッ」
思うように喋れず、レイは途切れとぎれに名前を呼ぶ。
するとロリエンが膝をつき、優しく微笑み掛けてきた。
「ウィア……いや、レイ・シェルマン、でしたね。思った以上の力で、驚きました……。見るに、痛みを、感じていますか?」
穏やかだが、どこか悲しげに見える表情。
レイは不思議に思いながらも、痛みをこらえ首を縦に振った。「そうですか」とロリエンが顔を一瞬歪める。
「痛みがある……と言う事は、貴方は、その力を受け入れていないのですね」
「……!?」
ロリエンの穏やかな表情に、真剣な眼差しが混ざり、レイは目を見張った。
受け入れていないとは、どう言う事なのか……そう思った瞬間、レイは激しい痛みに襲われる。
「う、ぁあぁ……ッ!」
その拍子にレイは地面に膝をつき、身体を抱え込む。ロリエンはレイの背中に手を当て、優しく撫でてくれる。
「心を森のように穏やかにしなさい。貴方の魔力は、特に感情に左右されやすいようですから」
優しい口調のままロリエンは続ける。
「貴方の魔力は、貴方のことを必死に守ろうとして暴走しているのです」
レイは顔を上げられないまま、眉をひそめた。
(……守ろうと、してる…?)
レイは一度夢で見た黄金のドラゴンを思い出す。
「貴方が魔力の存在を受け入れ、操らなければ、この暴走はいつまでも続きます」
ロリエンの真剣な声色は、レイの胸に突き刺さった。
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