8-1
レイは身体を震わせ、ロリエンを見つめる。
汗が頬を伝っていく。
どくどくと激しく胸を打つ心臓。
緊張の糸がピンと張り詰めていた。
嘘を押し通すことは、もう出来ない…。
レイは覚悟を決めた。
「う、嘘を……ついて、すみませんでした」
レイが素早く頭を下げる。
ロリエンとギルミアの声は聞こえない。
レイは頭を上げ、俯いたまま続けた。
「僕の、名前は……ウィア・ブラットでは、なく……」
声が震える。
いざついた嘘を伝えると、胸が痛くなった。
ゆっくりと顔を上げると、真剣ながら、いつもの穏やかさをまとうロリエンと視線が合った。
「……レイ・シェルマン、と言います」
レイは自分でも顔が引きつっているのが分かった。
心が苦しく、張り裂けそうになる。
嘘はつくもんじゃないな、とレイは身に染みて思った。
「本当に、ごめんなさい…! 騙すつもりは、なかったんです。ただ……どうしても、自分の名前が、言えなくて……っ」
レイが思いを打ち明かした。
歪む顔を戻せず、ギュッと目を瞑り、レイは「すみませんっ」と再び頭を下げる。
すると、ロリエンの優しい声が聞こえた。
「自己防衛、ですよね?」
「え?」
レイが顔を上げると、微笑むロリエンが目に飛び込んでくる。
「短いですが、一緒に過ごしていて、貴方は私達を騙そうなどと思わない、素直な子供だと思いました」
ロリエンは変わらず微笑みながら言うと、チラリと黙るギルミアを見た。
釣られてそちらに目を向けると、ギルミアは衝撃を受けているようだが、その表情には恐怖の色が見て取れた。
ロリエンはレイへと視線を戻してくる。
「何かを隠しているのは分かっていましたが、自分を守る為に、仕方なく偽っていたのだろうと、気付いていました。だから、貴方が話すまで、待とうとしていたのですが……」
ロリエンは目を伏せる。
「恐らく、今が限界です」
「!」
その声色は惜しんでいるように聞こえ、レイはハッとする。
その瞬間、手首の方から『ピキッ』と音がした気がした。
「その腕輪を外さないと、貴方の命に関わります。薬もこれ以上服用すると、逆に身体を蝕んでしまう……貴方の力が、それ程までに強いようです」
ロリエンが神妙な面持ちで、伏せていた目をゆっくりと上げた。
「そこまでの力だとは思わず、貴方が私たちを信じてくれるまで待とうと思っていましたが、早く伝えるべきでした……」
そういうと、ロリエンは揺らぐ視線をレイの手首へと注いでくる。
「さぁ、早く腕輪を……」
そうロリエンが言い終えるか終えないかのうちに、
ーーパキン
高らかに聞こえた金属音。
音のした方を見ると、レイの腕に付いていた腕輪が割れ、地面に落ちていくのが目に飛び込んできた。
驚くレイとロリエン、そしてギルミア。
その瞬間ーー。
「く、あぁああぁ……ッ!!」
身体中に突き刺すような痛みが走り、レイはうめき声を上げた。
身体中から魔力が一気に放出される。
それと同時に突風が吹き、辺りの森を揺らがした。
ロリエンとギルミアはその場で踏みとどまり、目を見開きながらレイを見つめていた。
(そんな……ッ、こんな所で、暴走……ッ!?)
レイの中で無理矢理抑えられていた魔力は、レイ自身の意思では到底制御する事が出来なかった。
溢れる魔力は金色の光となり、勢いよく噴き上がる。そして渦のようにレイを覆いながら、激しく膨張していく。
「まさか、これ程までとは……」
レイの魔力を目の前にして、ロリエンは一筋の汗を流していた。
ギルミアは苦悶に満ちた表情で、呼吸を荒くしている。
「はぁ…はぁッ、こ、これは…ッ、ドラゴンの……魔力…ッ!」
呟くギルミアは、レイの魔力が大きくなるにつれ、一歩、また一歩と後退っていく。
二人の反応に、レイは再び悪夢を見ているようだった。
止まらない魔力の放出は、レイの身体に断続的に痛みを与えてくる。
その度に、レイは稲妻が走るよう苦痛に耐えた。
意識が遠のきそうになった時ーー。
「!!」
ドクンと大きく脈打ったと同時に、黄金の瞳が頭の中を支配する。
「ぐっ…ッや、やめてッーー!!」
.




