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竜血少年は、力加減が難しい  作者: moai
第一章:始まりの儀式
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4-2



レイは変わらず土を掘り返していると、苗を全て運び終えたマリーが声を掛けた。




「レイ、ずいぶん早いわねー! 畝も綺麗に出来てるし、言う事なしね!」




レイは満足そうなマリーを見て「良かった」と安堵する。




畝の間隔や高さは、マリーにとって野菜を育てる上で欠かせないポイントらしい。何度もやり直しを言われてきたレイは、一発でマリーの太鼓判をもらい、(僕も成長したな)と少し自分で自分を褒めた。




最後まで畝を作り終えたレイは、次に苗を植える作業の手伝いをする。




「レイ、植える時は声掛けを忘れないんだよ」


「わかった」




レイはマリーに返事をして、何個か苗の乗せられたカゴを持ち、マリーとは反対側から苗を植える作業を始める。


山土に苗が入る程の穴を開け、苗を優しく入れると、周りの土を隙間なく寄せて埋める。




そして、




「大きくなれよ」




と一言声を掛ける。




これもマリーの大事ポイントだった。マリー曰く、植物に声を掛けると大きく、そして美味しく育ってくれるらしい。


一個一個の苗に声を掛けながら素早く植えていくマリーは流石だと、レイは思う。レイも負けじと速度を上げて苗を植えていく。




「大きくなれよ」




11個目の苗に声を掛けた瞬間––––




『大きくなるよー!』




突然、苗から声が聞こえた。




「っえ?」




レイは驚き、苗をジッと見つめる。




(な、苗が、喋った……?)




レイはキョロキョロと周囲を見渡し、声の主が他にいないかを探した。しかし案の定、周りには苗をテキパキと植えるマリーしかいない。




しばらく呆然とするレイは、気を取り直して苗を手に取り、作業を再開した。




その後も時折同じような声が聞いたが、レイは返事を返せる程慣れ、気にせず作業を進めていった。











作業を終え、畑を見たマリーは感動の声を上げる。




「これは新記録かもしれない…! こんなに早く終わるとは思ってなかったわ!」




そう言ってマリーは目を輝かせた。


それもその筈、いつもなら昼を回ってしまう作業が、この日は昼の一時間前に完了したのだ。


感動のあまり暫く畑を眺めるマリーを見て、水やりをするレイは思わず微笑んだ。




「レイのおかげよ! 山土の土加減もちょうど良かったし、だいぶ農作業が板についてきたね!」


「そうかな?」




マリーから褒められたレイは、無表情のまま作業を続けつつ、内心喜ぶ。




「えぇ! 今日も助かったわ!」


「お役に立てて、良かった」




レイはたっぷりと水をやり終えると、マリーの隣に並び、同じように畑全体を見渡した。


苗の葉に残る水滴が朝日を反射して、キラキラと輝く。風に揺れる苗は、どことなく喜んでいるようにも見えた。


それを見てふとレイは先程の事を思い出す。




「そういえば、さっき苗が喋った…気がしたんだけど…」


「あら! そうなの?」


「あ、いや……気のせい、かも…」




”苗が喋るはずない”という常識が頭をよぎり、レイは恥ずかしさと居た堪れなさを覚え、声をどんどん小さくする。




そんなレイの心情に気付いたのか、マリーは穏やかな表情で「それはきっと…」と口を開く。




「精霊よ!」


「精霊…ッ?」




予想外の答えに驚いたレイは、すぐにマリーの言葉を復唱した。




「精霊って、あの…?」




レイは眉をひそめると空を仰ぐ。




「えぇ! 精霊は植物や自然のもの、人工のものまで宿ると言われているわ。きっとこの苗の精霊が、話し掛けてくれたんじゃないかしら!」




そういうとマリーは「私も聞いてみたいわぁ」と笑顔を浮かべながら畑へと視線を移した。レイは自分の話を受け入れ、変わらず接してくれた事にホッと安堵しながらも、拭えない不安を口にする。




「こんな事言うの、変じゃないかな?」




レイが静かにポツリと呟くように問うと、マリーは「ふふ」と笑みをこぼした。




「変な事じゃないわ。この世界には、不思議な事が溢れているの。精霊の声を聞く人達だっているんだから、全く変な事じゃ無いわ!」


「そう、かな」




レイはマリーの言葉にフッと心が軽くなるを感じた。




「実は、ルナに言われた事があってね。”あなたが信じたもの、こと、全てが、今度はあなたのことを信じてくれる”ってね!」




母––ルナの名前に、レイは目を大きく見開いた。




「昔、私が苗に声を掛けている所を見られてね、『変なことしてるでしょ?』って笑ったんだけど、ルナは否定せず『素晴らしい事だ』って褒めてくれたのよ~! その時にその言葉を掛けてくれたわ!」




懐かしそうに話すマリーを見つめながら、レイは昨日に続き母の話を聞けたことを嬉しく思っていた。




「……そうなんだ」


「そうよ! ルナも私も、レイの事を信じているわ。だから、安心しなさい! あなたの母親とお節介なおばさんがついているんだから、怖いもの無しよ!」




力強く言うマリーは、ニッコリ笑いレイを見た。


レイは、マリーの心強い言葉と表情を見て、温かな気持ちでいっぱいになる。




「ありがとう、マリーさん」


「ふふ、いつでもレイの味方よ!」




そう言って、マリーはレイの背中を力強く叩いた。


レイは「いて…っ」と声を漏らしつつ、マリーの優しさに感謝した。








そして、運命の『鑑定の儀式』の日が静かに訪れるのだった。




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