表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
駅弁大学のヰタ・セクスアリス  作者: 深海くじら
第13章 バーカウンターの夜
90/164

第87話 もう二カ月もやれてない。

 哲也はその日も苛立っていた。


 夏休み終盤の日曜日という乗り遅れ女子たちの最後の弾けっぷりを当て込んで、午後からバスを利用して郊外にあるイオンにまで出掛けたというのに、掛ける声全てが不発に終わり、都合十五人の女の子に袖にされた。中にはケーキセットまで奢ってやり、さぁこれからというところで、お手洗いと言って席を外したまま戻ってこなかった剛の娘までいた。


「糞、糞、糞、糞!」


 すっかり暗くなった停留所のベンチの真ん中に脚を投げ出して座り込んだ哲也は、地面に向かって悪態を吐き続けていた。市内行きバスの到着を待つ家族連れやカップルたちは、皆彼を遠巻きにし、見て見ぬふりをしたり、座りたいとねだる幼子の手を引き留めたりしている。

 当の哲也はそんなことはお構いなしで、ただ、今の自分がどれだけ不幸なのかを反芻していた。


――六月のあれ以来、とにかくツイてない。凍結されたアカウントは復活する兆しもないし、訴訟の方も泥試合。手付三十万を持ってった弁護士はもう二週間も連絡ひとつ寄こしゃしない。新しく始めたシノギもぜんぜん上手くいく感じがしない。

 おまけにナンパの方もさっぱりだ。もう二カ月もやれてない。こんなに干上がったのは、十六のときに近所の中学生と初めてヤった時以来の最長記録じゃね? マジ、サイテーだ。


 足元に唾を吐いた哲也は、一度周りを見回してから、再び下を向いて思考に沈んだ。


――やっぱりマーチを手放したのは失敗だったな。

 あの、格別に具合が良くて見栄えも良くて、ねじのぶっ壊れた色狂いオンナ。暗い顔で黙りこくってるくせに、オレがいつ命じてもどこで催しても嫌がらずに身体開いてちんぽ欲しがってきやがった。カメラ向けても文句言わねぇし、初めて会った知らない奴にも平気で姦らせたり。もう気持ち悪いくらいめちゃくちゃだった。

 まぁおかげでオレも、随分稼がせてもらったけどさ。それに……


 あいつ壊したのも元々はオレだしね、と呟いた哲也は、マーチの肢体を思い出してにやついた嗤いを浮かべた。入線してきたバスのヘッドライトに照らされてベンチの男の顔が浮かび上がるのを、遠巻きにしていた家族連れの母親が目に留めた。見ようによっては悪くない顔に張り付いたその嗤い顔に不吉なものを感じた母親は、思わず子どもを抱き寄せて目を背けた。


          *


 夜の街に戻った哲也は、そのあとも二組をナンパしたが、ともに不発だった。

 片方はゲームセンターでのふたり連れJK。もう片方は、映画帰りのOLふたり。JKふたりはお茶まで行ったが連絡先も聞き出せず時間切れで、OLコンビとはカラオケに入ったものの、勝手にふたりだけで盛り上がって哲也のことなどガン無視状態。財布を当てにされて延長するとか言ってるのを辞めさせて、ようやくリリースしたのがついさっき。教えてもらったメアドも電話番号も、完全に嘘っぱちだった。


「世の中どうなってやがるんだよ。オレがなんか悪いことでもしたっていうのか?」


 徒労の一日を仕舞いにすることに決めた哲也は、繁華街からの帰路に着いた。


          *


 菜園を抜けて(しも)の橋を渡ったところで、ひっそりと佇むバーが目に入った。


「こんなとこに酒場とかあったんだ。何度も通るけど、今までぜんぜん気づかなかったな」


 酒でも飲んでウサを晴らしたい気分になっていた哲也は、思いつきで寄り道していくことにした。


「ここんとこ不幸続きだし、たまにはこういう静かなとこで、自分にお疲れさんしてやってもいいかな」


 そう考えて、槍須哲也はバー『ポットスティル』の扉を開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ