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駅弁大学のヰタ・セクスアリス  作者: 深海くじら
第12章 中島弥生3
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第78話 恋人さんにはちゃんと返さないと駄目ですよ。

 おはようございます、という朗らかな声で、逸郎は目を覚ました。

 目の前には弥生の自然な笑顔があった。逸郎が貸したクラスTシャツに昨日のデニムパンツ。


「あ。ああ、おはよう」


 狼狽えた逸郎は、そう返すのが精いっぱいだった。

 昨夜は、本当に手を繋いで寝ただけで済んだ。安堵とともに拍子抜けした気分も味わっていた逸郎に、弥生がスマートフォンを差し出す。


「メッセージ、届いてますよ」


 見ると時刻は九時半を回っている。着信は二通。


「恋人さんにはちゃんと返さないと駄目ですよ」


 読んだの? 逸郎が目でそう聞くと、にっこり笑って弥生は答えた。


「そんなわけ、ないじゃないですか」


 そう言うと弥生は踵を返し、居間のテーブルの脇に腰かけて、TVを点けた。その様子に感謝しつつ、逸郎はスマートフォンを開く。



********************************************

 おはよー♡

 昨日に引き続き、休日出勤のすみれだよ。


 今日はスライドづくりの追い込み。たぶん丸一日デスクに齧り付きだよ。

 果たして明日明後日を休むことができるのか?!Σ(゜Д゜;)

 (流石に大丈夫だと思うけどね('・c_,・` ))


 まぁとにかく、忙しいってことだよ。


 逸郎も、今日はご親戚のみなさまと仲良くね。


 明日の夜は、一杯充電させてもらうから覚悟しててね♡(*ノ∀ノ)♡


 すみれ♡

********************************************



********************************************

 はやくおきろーーーーーー!!!ヽ(`Д´)ノ!!!


 すみれ♡

********************************************


 二通目のタイムスタンプは 8:55 。

 布団に座り込んだままの逸郎は、予定だったスケジュールの内容を織り交ぜてのおはようメッセージを仕立てあげ、既に仕事を始めてるであろうすみれに向けて、急いで送信した。


 居間でTVを見ていた弥生は、逸郎のスマートフォンを閉じるのを見計らって近づいてきたかと思うと、逸郎の横にちょこんと膝をついた。


「朝ごはん、できてますよ。たいしたものじゃないけど、食べますか?」



 食卓に出てきたのは鯖缶の雑炊だった。よそってもらったお椀には青ネギも散らしてある。


「鯖の缶詰と冷凍ご飯、それと冷凍のお野菜も少し使っちゃいました。あとお出汁も。お口に合うかな?」


 美味しかった。もともとたいした自炊などしない上に、夏休みの不在もあって備蓄食材などほとんどなかったはずなのに、あるものだけでこれほどのものがつくれるとは。もしやこの娘は家庭料理の天才か?!

 そんな逸郎の胸の裡での大絶賛も、言葉にしなければなにも伝わらない。心配げに顔色を覗き見ている弥生に、逸郎は応えた。


「マジで美味しい。毎朝でも食べたいくらい」


「うれしい! 毎朝つくってあげたって、いいんですよ」


 弥生の顔が花開いた。

 その笑顔を見ることができた僥倖に、逸郎は、ヤバい、と思った。

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