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駅弁大学のヰタ・セクスアリス  作者: 深海くじら
第1章 中嶋弥生
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第5話 そうなんですか。私てっきり……。

「先輩たちも言ってたけど、イツロー先生マジ凄いよ。俺がちょっと席外してる隙に、可愛い女子ふたりもゲットしちゃうんだから、お見それしましたわ、ホント」


 入口に近いひとり分の席に固まって、逸郎とシンスケはビールの杯を重ねている。どうせ誰も入会するはずがないと、現有会員の人数ちょいマイナスで押さえていたサークルオリ後の新歓コンパの席は、はっきりキャパオーバーだった。いつもなら平気で欠席する宴会嫌いの数名(数減らしの対象)が、新入生、しかもあろうことかな女子ふたりが参加すると聞きつけて、そのご尊顔をひと目拝謁しようとやってきたのもその一因。主役ふたりは、宮ノ森ナイルと天津原涼子ファインモーションという先輩女子ふたりに両側を守られて、平和にウーロン茶を飲んでいる。

 ゆかりんこと原町田由香里の方は、ナイル先輩を相手に『龍の如く』に出てくる真島さんの魅力語りで盛り上がっているようだが、中嶋弥生は隣のファインの常人とは思えない容姿オーラや雰囲気に押され気味で、肩をすくめて小さくなっている。気になった逸郎が目をやると、時折視線を合わせてきては安心した表情を見せてきた。


「イツロー先生も手が早いッスね。出会って半日で早くもアイコンタクトっスか。一年間観察させてもらってたけど、そんな凄腕とはこれっぽっちも知らなんだ」


 そう茶化してくるシンスケに、逸郎はかぶりを振って見せる。


「そんなんじゃないって。もともと、つか、たぶんだけど、相当内気な()なんだよ、中嶋さんは。保護者がいないと外も歩けない生まれたての仔鹿、みたいな。だから世話役タイプの原町田さんが常にくっついてるんだ」


「で、我らがイツロー先生は、その箱入り娘にどうやって取り入ったって言うのよ?」


 その先生はやめろ、といなしてから、逸郎は弁解する。


「俺の場合はたまたまだよ。ほんと偶然に、朝から二回、困ってるとこの手助けをする場面があったからってだけ」


 どこのラブコメだよ、と返すシンスケ。とても納得している様子ではない。


――実のところ、ラブコメ的偶然はそれだけではないのだよワトソン君。


 逸郎はしかし、入学式の記念写真の件までシンスケに教えるつもりはなかった。こんな席で開陳したら更に誤解を招くややこしい事態になるのは明らかだし、なによりも彼女の大切な記憶を軽々しく話題にするのは失礼だと思ったのだ。


          *


 由香里は内丸の実家住まい、弥生は舘坂(たてさか)で独り暮らしと逆方向なので、全員が二手に分かれて送っていくことになった。街中からの帰りだと同じ方面というくくりになる逸郎とシンスケは弥生側にカウントされる。彼女の住まいは女子専用で門限があるらしく、定例であるファインの送りが遠回りになってしまうと思っていた逸郎に、先回りしたファインが声をかけてきた。


「いっくん。今日はお役御免にしといてあげる。まだ時間も早いし、途中までは会長夫妻とも一緒だから大丈夫よ。いざとなったら顔に炭塗って醜女(しこめ)装うし」


 こんな整った醜女がどこの世界にいるよ、と言い返しつつも、逸郎は礼を言う。


「次回はちゃんと送ってくから」


「当り前よ。そんなの従者の基本でしょ」


 そう言って笑いながらファインは、ゆかりんや鵜沼会長と宮ノ森ナイルのカップルらと一緒に去っていった。


 菅原先輩、戸来先輩、それにシンスケの寮生三人が連れ立って行く後ろを、逸郎は、遅れがちな弥生にテンポを合わせて、黙って歩いていた。


 ……あの。

 ともすれば聞き逃してしまいそうな小さな声で、弥生が話しかけてきた。逸郎は顔を向ける。


「天津原先輩ってお綺麗ですね」


 ああ、やっぱそこには目が行くよね、と思いながら逸郎も頷く。


「あいつはまあ、別格だよな」


 再び、しばしの沈黙。と、またしても弥生がおずおずと切り出してきた。


「あの……イツロー先輩って、天津原先輩とお付き合いとかされてるんですか?」


 思いもよらない質問で反応が鈍った逸郎に、弥生は言葉を続ける。


「ずっと下の名前で呼び合ってるし、天津原先輩、イツロー先輩とお話しするときは、ちょっと雰囲気違うから……」


 俯き加減で途切れ途切れに話す弥生に対し、車道側を歩く逸郎が大仰に否定する。


「ないない。ぜんぜん付き合ったりしてない。ありゃあ主人が従僕に対する親しみというか、気安さというか」


 誤解に焦った逸郎は、まるで言い訳のように言葉を重ねた。


「涼子は見ての通りアレだから、めちゃめちゃモテるんだ。でも本人は色恋にこれっぽっちも興味が無いらしくて、俺と仲良くして見せてるのも、言ってみれば虫よけスプレーみたいなもんで。彼女は基本、孤高の人だから」


「そうなんですか。私てっきり……」


 逸郎は、畳み掛けるように言い訳を重ねる。


「うちのサークルにいるのも同じ理由だと思うけど、自分の世話をさせるのには俺みたいな人畜無害系が一番好都合なんじゃないかな。って、あー、自分で言っててなんか情けなくなるな」


 誰得なのかもわからない自虐にひた走る逸郎は、弥生が握りこぶしで小さくガッツポーズをとっていることなどに気づいたりはしない。

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