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駅弁大学のヰタ・セクスアリス  作者: 深海くじら
第9章 パレード
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第54話 それでも私は走ったのです。

 二人目がコットンパンツを脱ぎながら注文をしてきました。服、全部脱がせちゃってもいいかな、と。

 私は木にもたれて最初の余韻を味わっていたのですが、その注文は断りました。信頼できるサポート無しに屋外で全裸になることの怖さはよく知ってます。そのかわり、と私は続けました。


「ワンピースとサンダルはこのままだけど、ブラだけなら外してもいい」


 男たちの返事を待たず、私は着衣のままブラを外しはじめました。これまでにも何度もやってみせたことだから、暗くても手順に戸惑いはありません。

 襟元から抜き出したブラジャーを、ショーツの隣にそっと掛けます。解放された胸も、宴に参加できることを歓んでいるようです。枝に掛かった揃いの下着を眺めていたら、後ろから抱きつかれました。薄い生地の上から胸に手がかかる。少し乱暴な手つきだけど、私も胸のスイッチを触って欲しかったところだったので、お礼の意味で二人目のものを後ろ手で包むように触ってあげました。手触りがゴム越しなのは少し残念でしたが、ちゃんと付けてくれているのはやっぱり安心できます。


 二人目の行為の最中も、私の躰が憶えている反応(ルーティーン)は再現されます。イツローさんにも私のこれを悦んでもらえればいいのに。


 後ろから激しく突かれ続ける私は、幹を抑える手の甲に口を当てて、声が漏れないよう押さえます。ここは公園。祭りの最中とはいえ、どこに巡回するへそ曲がりがいるかはわかりません。

 いつの間にかワンピースは胸の上までたくし上げられ、首から下を全て外気に晒したままで執拗に攻められていました。薄暗い灯りの中で、白い鍵型になった私は声を殺して喘ぎ続ける。粘り気のある音を漏らし、繋がった躰となぶられる乳房の快感に酔い痴れながら。


 二人目はとても強く、その人が終わるまでの間に私は何度も達してしまいました。疲労困憊で膝の力が抜けている私を、一人目がすぐに、今度は前から抱きかかえてきました。ふたりは私を味わい尽くそうと決めたようです。私の頭の中に、イツローさんとポニーテールさんの幸せそうな後ろ姿は、もうありません。ただ、今この瞬間の享楽のみが私の全てを支えていました。


 それでも刹那、ゆかりんのことは頭によぎります。たわわ書店の奥で私を待つ彼女の姿が、ほんの一瞬。でもその映像も、繰り返し襲ってくる快感の波の前に、呆気なく消え去ってしまうのです。


          *


 饗宴が途切れたのは突然でした。私の顔に懐中電灯のライトが当てられたのです。

 もう何周目なのか、今繋がっているのが一人目なのか二人目なのか、そんなことすらわからなくなっていた私でしたが、どうすればいいかはわかっています。

 上に乗っていた姿勢も幸いしました。身内に収まっているもののことなど頓着せず即座に立ち上がった私は、後ろも見ずに逃げ出しました。脚だけは速いのです。

 男の人たちがどうなったのかはわかりません。彼らはふたりとも下半身が丸裸でしたし、地理も不案内ですから、ちゃんと逃げ(おお)せられたかどうか。少しだけ心配はしました。が、結局のところ、私とは関係ないことです。


 公園から離れ、繁華街の外れに戻ってきたところで、私は、下着を上も下も付けていないことに気づきました。裸の上に生地の薄いミニのワンピース一枚だけ。槍須さんなら大喜びする格好です。いや、男の人なら誰でも喜ぶものなのでしょう。よくさせられましたから。

 もうひと月半も経つのに、私はまだ同じところにいるんですね。自分が情けなくなって、少しだけ嘲笑(わら)いました。

 私はただ、お気に入りだった下着を一組失ってしまった不幸だけを考えることにしました。


 交差点の手前に時計の表示塔がありました。時刻は八時五十分。間に合うだろうか。まだいてくれるだろうか。駄目になってしまった私と普通で健全な世界とを繋ぐ最後の架け橋が。

 私は再び走り出しました。今度こそ目的地を見据えて。久々の、しかも密度の濃い重労働で散々酷使された股間付近は疼痛を訴えてくるけど。それでも私は走ったのです。辛うじて残ってるかもしれない信頼の欠片に縋って。


 まだ夜の路上に残っている名も知らぬ歩行者(ひと)たちにスカートの中を見咎められないよう、なるべく暗い道を走って、ようやっと私はたわわ書店の前に着きました。店の前で本を並べていた台は既に仕舞われ、お店の人がふたつある入口の片方のシャッターを閉めているところでした。

 それでもなけなしの期待を込めて、私は灯りの漏れる最後のガラス戸を押し開けたのです。

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