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駅弁大学のヰタ・セクスアリス  作者: 深海くじら
第8章 横尾すみれ2

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第46話 そろそろ飲み放題終了のお時間です。

「私、イツローに聞いてみたいことがあるんだ」


 もう何杯アイスティーハイを重ねただろうか。出されたコースはすでに完食し、追加で頼んだローストビーフとピクルスもお皿を残すのみになった頃、上気した頬と少し座った瞳のすみれは、我慢していたものを吐き出すように話し始めた。


「イツローは私のことをどう思ってるのかなぁって」


――これはちゃんと答えないといけないヤツだ。


 すみれほどではないにしてもそれなりに飲み、酔いを自覚し始めている逸郎だったが、その問いかけの重さはわかった。


「呼べば必ず来てくれる。同じもの見て同じように楽しそうに笑ってくれるし、手を差し出せばちゃんと気づいて繋いでくれる。私がこうして欲しいなって思うことの大概は、言わなくてもやってくれる」


 そこで目を伏せたすみれは、でも、と紡いだ。


「一番待ってることは、全然してくれない。なんで? なんで?! もしかして私、勘違いしてる?」


 逸郎の口が開くのを遮るように、すみれは言葉を重ねてきた。


「もしかして、もしかしてだけど、イツローは私のこと、なんかすごく仲のいい姉弟(きょうだい)みたいに思ってるのかもって」


 そこまで言って、すみれは顔を伏せた。


「カゲトラオートの菊池さんに彼女さんって言われたり、ここでカップルシート案内されたりすると嬉しくなって安心するの。ああ、周りからはちゃんとそう見えるんだな。そういう距離感って思ってていいんだなって」


 目を合わせることなく、すみれは続ける。


「前に河原で、私のこともっと知りたいって言われたとき、最上級に嬉しかったんだよ。あのとき私が言いたくて口に出せてなかったことを、イツローは同じときに言ってくれた。あの瞬間からイツローが私のステディになったの。同じ気持ちで通じてる。そう思ったんだよ」


 なのに、と顔を上げたすみれの視線が逸郎を射抜く。


「なんで、何もしてくれないの?」


 見たことないくらい真剣な顔で逸郎を見つめるすみれ。沈黙の中、逸郎は静かに息を吸い込んだ。答えを返すために。

 そのとき、すみれの背後から、声が掛かった。


「そろそろ飲み放題終了のお時間ですが…」


 定型のセリフは、しかし、その先に続かなかった。部屋を満たしている剣呑な雰囲気を店員が察知したのだろう。

 空気を緩めるように、お会計をお願いします、と逸郎が言った。



「少し、散歩しない?」


 逸郎は、店の前で下を向いたまま佇んでいるすみれに声を掛ける。首だけ振って何も言わずに差し出された手を逸郎は取って、そのまま、帰り道とは逆方向に歩き始めた。


          *


 城址公園は街中よりも涼しく、そして静かだった。


――アルコールで火照った頬に夜風があたって心地よい。


 逸郎はすみれの手を引いて、繁華街を見下ろすベンチに並んで腰掛ける。ふたりとも、店を出てからひと言も口を開いていない。でも手はずっと繋がっている。

 遠くに見えるお山を遮らないように、この街の建物は条例で高さや広告ネオンに制限がされている、と聞く。街灯もまばらな公園で、逸郎は夜空を見上げて呟いた。


「俺たちの故郷と違って、この街の夜空は星が沢山見えるね。でも見え過ぎちゃって、どれがベガとアルタイルなのかわかんないや」


 言葉に引かれ、すみれも顔を上げた。瞳が潤んでるようにも思えたが、まだ溢れてはいなかった。それを見て、逸郎は良かったと思った。


「昔話をしても、いいかな」

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