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駅弁大学のヰタ・セクスアリス  作者: 深海くじら
続章 物語は終わったけれど
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第151話 私とのことは遊びだったの?!

 2019年終盤から2020年末までに、大小さまざまな不可逆的事象が矢継ぎ早に起こった。それらひとつひとつが、なるようになったり、進行形で継続中だったり。


 最初はやはり、すみれの渡米と退官の準備だろう。

 大学側に年度末での退官を意思表示したすみれは、並行して、スタンフォード大での就職活動と杜陸での身辺の整理を始めた。

 スタンフォードは、恩師の手引きで四月から半年間、研究助手を勤めたのち、新学期から助教授アシスタントプロフェッサーとして研究室を持てることになった。身辺整理の方は引っ越しの準備が主で、棲みついて半年そこそこのすみれにそう大きな負担は無かった。部屋の中の家財道具は、ファインの紹介で処分の手配は事足りるし、手続き自体も申請その他の手間だけ。それらも三月末の完了が目処なので、焦るほどのことでは無い。

 唯一、先回りしなければいけないことがある。Vストロームの去就だ。


 米国永住を見越しているわけでもないすみれにとって、日本での脚は手元に残しておきたい駒。現地に送る案も考えたが、新しいのが一台買えてしまう運送費で、当然却下。かと言って、売ってしまうには愛着があり過ぎる。

 残る一手は、実家での保管だった。幸い横須賀の実家には、屋根付きガレージにバイク一台分のスペースが確保できる。が、問題はいつ、どうやって陸送するか。

 というのも、東北の地は、早ければ十一月終盤から雪で走行が困難になるのだ。しかもその状態は四月まで続く。つまり、再び走行可能になる頃には、すみれは既に日本に居ないということになる。

 すみれはそのことを、教授会のあとに開かれる懇親会の雑談の中で知った。


          *


 情事の後始末を終えて掛け布団に潜り込んできた逸郎に身体を擦り寄せて、すみれはこんな提案をしてみた。


「ねぇイツロー。文化の日の三連休にふたりで泊まりがけのツーリング、しない?」


 いつもの事後なら眠いとか言って身体を丸めてしまうすみれが自らおねだりするような態度できたので、多少なりともその気になった逸郎は期待半分で返事をした。


「いいけど。どっち方面?」


 んー、と甘えた吐息で耳元をくすぐったすみれは、こう囁いた。


「よ・こ・す・か♡」


 軽い気持ちで聞き流し掛けた逸郎も、流石にこれには反応できた。


「横須賀?! なんでまた、そんな急に。てか、文化の日の連休って明後日(あさって)からじゃん!」


「駄目? 私と一緒じゃ嫌なの?」


 上目遣いで胸を押しつけてくるすみれに、逸郎は思わず腰が引ける。


「いやいや、嫌なことなんて全く無いんだけど……」


「うちの親にも逸郎のこと紹介したいしぃ」


 過去にないくらいぐいぐいくるすみれの圧に狼狽える逸郎は、さっきのえっちでなにか粗相があったのでは、とまで考え始めた。


――ちゃんと避妊はしてたし、する前だっていつもどおり丁寧に時間掛けたし……、ていうか、親に紹介ぃ?!


「いやいやいやいや。それは流石にまだ早いのでは。てか明後日とか、心の準備期間、短か過ぎだし」


 がば、と身体を起こし、すみれが詰め寄ってきた。


「イツロー、私とのことは遊びだったの?!」


「そーゆー話じゃないでしょ」


 というところで、ようやく逸郎も気がついた。


「あ。バイクの冬越しか」


 確かに逸郎も、そろそろ考えなくてはと思ったことはあった。四ヶ月以上乗れなくなるので、保管方法を調べなければ、とか。とは言え、まだひと月は猶予があるしおいおい腰を上げれば、などと軽く考えていたのだ。


「そっか。すみれのバイクを持って行けるのはあとひと月以内しか無いんだな」


「そうなの。しかもその間の休みって言ったら、もう二回しかチャンスが無いのよ。そのうちの一回は来月終盤だから、中間試験の準備でバタバタになっちゃう。それに早めに雪降りだしちゃったら全部アウトじゃない」


 なるほど、と逸郎も考えた。

 サベージにしたって、こっちで冬越しするより横浜に置いといた方が使い勝手はある。十一月のひと月分脚が無くなるのは痛いけど、冬の保管での劣化を考えれば持っていった方がいいかもしれない。問題は置き場所だが、実家の玄関脇を使わせてもらえば、それもなんとかなりそうだ。

 頭の中で組み立てた案に納得した逸郎は、すみれの腰を抱き寄せて囁いた。


「ね、すみれ。口で元気にしてくれるんなら、一緒に横須賀行ってもいいよ」


 一瞬見開いた瞳をすぐに細めたすみれが、背中で掛け布団を持ち上げながらこう応える。


「それだと横須賀だけじゃなくて、いまも一緒にイッてもらわなくちゃ♡」


 逸郎を見下ろして舌なめずりしたすみれは、返事も聞かずに布団の中へと潜っていった。

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