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第十八話 魔導戦艦





瑠璃城の中では緊急の戦略会議が開かれていた。龍禅を筆頭に漢白と宝来の軍師、そして高官達がテーブルを囲み大声で意見を交わす。

「あの大きな空を飛ぶ物はなんだ?」

「あれで攻められたら、ひとたまりも無いぞ!」

「どうやら北州へ向かったらしい‥」

「北州が落ちるのも時間の問題だ‥」

「ドルギアの大軍が北州経由で雪崩込んでくるぞ!」

高官達や軍師達が大声でやり取りする。龍禅と漢白は黙って聞いていた。北州は宝来の北にあり、ドルギアとの国境が近いのだ。つまりドルギアと戦う事になれば最前線となる。そこが陥落するという事は、宝来に多くの敵の侵入を許す事になってしまうのだ。北州が陥落したのであれば、早急に取り戻したい所だが‥。

「‥ドルギアめ‥あんな物を用意しているとは‥」

龍禅が呟く。魔導戦艦ベリアルだ。あれが北州に留まれば、取り戻すのが難しい。外で見張りをしていた兵士達の証言では、突然北の空から現れ、あっという間に瑠璃城の上空までくると、大砲で瑠璃城の天井を破壊したのだそうだ。大軍で北州を攻めても、空から砲撃されれば手も足も出ない。地上からの攻撃も届かないだろう。漢白の報告では、リリア王女も襲われ青龍の鍵がドルギアの手に渡ってしまったようだ。厳重に警戒していたが、まさか空から襲撃してくるとは思わなかったのだ。ベリアルとグングニル‥。実質、この大きな魔導兵器を二つ、ドルギアが所持しているという事だ。このままではドルギアの力による支配が始まる。事態はかなり深刻だ。早急かつ迅速に手を打たねばならないのだが、手の打ちようが無いのが現状なのだ。高官達が白熱した論議を繰り広げていると、玉座の間の扉が開いた。ヒルダと刃とミルコとルドガーだった。

「貴様達、今は大事な軍議の最中だぞ!」

「すぐにつまみ出せ!」

高官達は騒ぎ出し、周りの兵士に言う。だが、ヒルダ達は構わず部屋の中へ入っていった。

「‥良い。通せ」

挿絵(By みてみん)

龍禅が静かに言う。ヒルダは高官達が取り囲んでいるテーブルの前まで来た。すると龍禅が

「‥リリア王女の容態は?」

と聞く。

「‥内大師先生や輝京の法力医が総出で治療に当たっているが‥‥非常に危険な状態です‥‥。今、紅都の太政にも使い鳥を飛ばして、応援を頼みました‥‥。アストリアとシーマも‥‥以前、かなり厳しい状況‥。ワシも話し合いが終わり次第、早急に戻って治療に加わります‥」

刃が俯きながら龍禅に報告する。

「‥‥そうか‥」

龍禅が唸り、場の空気が重苦しくなる。するとヒルダが

「‥妾は北州へ行くぞ。あの空飛ぶ船を、なんとかせねば始まらん」

と言う。

「一人で乗り込んだ所でどうにもならん。ベリアルには多くのドルギア兵も乗り込んでいるだろう。いずれドルギアからも大軍が北州へ雪崩れ込んで来るはずだ」

漢白がヒルダに言う。

「だが今、あの船をどうにかしないと手遅れになるんじゃぞ?今はまだグングニルは起動していない。起動していない今の内になんとかして黙らせないと、それこそ取り返しがつかなくなるぞ‥」

ヒルダが言い返す。多分、今頃アルバトスがドルギアへの帰路についているはずだ。アルバトスがドルギアのハリードに到着すれば、早々に月黄泉が青龍の鍵を使いグングニルを起動をするだろう。月黄泉の事だから、青龍の鍵をどう使ってグングニルを起動させるか、調べはついてるはずだからだ。猶予は数日しかない、って所だろう。

「‥もしグングニルが起動した場合、グングニルに対抗出来る物があるとすれば、あの戦艦のような気がするんだ‥」

ミルコが言う。

「‥魔導兵器同士をぶつけ合うのか‥?そんな事をすればとんでもなく戦火が広がり、尋常じゃない被害が出るのではないか?」

龍禅が厳しい目つきで言う。

「‥でも人の力ではどうにもならない‥。もちろん、あの戦艦で砲撃とかはしたくない。方法はどうあれ、グングニルに対抗できるのは、今現在ではベリアルだけだと思う‥」

ミルコが言う。

「‥だから妾達がベリアル乗っ取りを試みる。それが駄目なら、ミルコとルドガーに爆薬を仕掛けてもらい、破壊して行動不能状態にする」

ヒルダが言うと、周りの高官が一斉に騒ぎ出す。

「乗っ取りだと?どうやって?」

「たった三人で何が出来る?」

「奇跡でも起こらないと無理だ!」

すると刃が

「‥方法はある。ワシの幻獣『玄武』を使えば、ベリアルに送り込む事は出来る‥」

と言った。魔装具の玄武の盾は、敵の攻撃を防ぐだけではなく、幻獣『玄武』を召喚出来るのだと言う。幻獣は実体はなく、力の集まりが具現化された物だとか。ごく短い間であれば、亀の形をした幻獣の背中に乗る事が出来、短い距離であれば空を飛ぶ事も出来るらしい。つまりベリアルの近くまで行き、玄武に乗ってベリアルに突入は出来る、という事だ。ただ、敵地に少数で乗り込む形にはなるが‥。

「ベリアルの中には、ドルギアの兵士が大勢いる。並びにドルギア四強の内の二人、ネロとノエルがいるんだぞ?アルバトスは不在かもしれないがな。たった三人で何が出来る?不可能に近いぞ」

と龍禅が言う。だが漢白が 

「‥‥恐れながら、意外とそうでもないかもしれません。ドルギアからの応援はまだ北州には到達していない。つまり今はベリアルの中の兵士のみを相手にすればいい‥。大きな船とはいえ、人数は限られている。一度に大勢を相手にしなければ、なんとかなるやもしれません。あとはネロやバド、ノエルをなんとか出来れば‥」

と、言うと刃が

「‥だが気掛かりがある。シーマが誰にやられたのか?だ‥。ラズベリア最強と名高い剣士だ。紅都での戦いも見事だった。それなのに、肋骨が数本折られ内臓も破裂していた‥。マリリアの切り傷とは明らかに違うから、ノエルとは別の者が現場にいた可能性が高い。ネロやアルバトスでもないし、得体の知れない強者がベリアルに同乗してる可能性がある‥。ワシは三人の治療で行けないし、もう少し乗り込む人手が欲しい所だ‥」

と言った。ノエルが青龍の鍵を持ってきた、という事はマリリアとシーマを襲ったのはノエルで間違いないだろう。その場にノエルの他に別の者がいたかも知れない、と言う事か‥。確かにシーマが一対一で負けるとは思えない。複数で襲われたのか?すると突然、窓から大きなフクロウが入ってきた。バサバサと部屋を飛び回り、カラン、と何かを落として部屋の片隅に留まった。ヒルダがフクロウが落とした木の枝のような物を拾う。

「‥これはエザリアの杖じゃ。‥杖に紙がついておる」

杖には白い紙が巻きつけてあった。ヒルダが広げて中を見る。そしてニンマリと笑い

「‥ラファエルと神楽が向かってきておる。どうやら、ラファエルの師匠二人もついてきたらしいぞ。輝京の空に大きな何かがいるのを見て、使い鳥を飛ばしたようじゃ」

と言った。

「よっし!待ってました!って事は‥‥」

ミルコの目が輝いた。

「‥あぁ。北州へ向かい、ラファエル達と合流後にベリアルへ乗り込むぞ!」

ヒルダが叫んだ。



ラファエル達は輝京を目指して、急ぎ馬を走らせていた。その日の朝、見晴らしの良い小高い丘で野営をして、出発しようとした時だった。はるか遠くに輝京の街並みが微かに見えた。だが、輝京の上空に何か黒い物が見えたのだ。雲とかではなさそうだった。そして煙が一筋、上がっているのも見えたのだ。きっと何かあったに違いない。神楽が急いで紙に筆を走らせる。そしてエザリアの杖に手紙をくくり付け、使い鳥の大きなフクロウに持たせて飛ばしたのだ。そしてラファエルと神楽と阿右と左吽は、急いで出発したのだ。もうすぐ夕刻。輝京へはもうすぐだった。だが右手の空に、大きな船のような物が浮かんでいるのが見えたのだ。大砲の砲撃音が何度も何度も聞こえる。方向的に北州の街の方だ。

「なんだあれは?」

左吽が呟く。四人はすぐに高台を探して駆け上がる。見晴らしのいい高台に登ると、とんでもない光景が広がっていたのだ。上空に大きな船が浮かんでいて、地上の北州の街を空から砲撃していたのである。北州は火の手が上がり、あちこちから煙が上がっている。

「‥こ、これは‥?」

阿右も声にならない。火の海の北州を、空から構わず砲撃する大きな船。恐ろしい光景だった。手も足も出ない非力な者を、圧倒的な力で蹂躙する。まさにそんな光景だった。

「‥酷い‥」

ラファエルは思わず呟く。ズドーン、ズドーンと砲撃音だけが非情に響き渡る。四人はしばらく立ち尽くしていた。すると神楽の使い鳥が戻ってきて、神楽の肩に留まった。神楽がフクロウの足についている手紙を見つけ、外して読む。滅多に表情を変えない神楽の顔が強張った。

「‥マリリアが瑠璃城内で襲われた‥‥」

えっ?なんだって?ラファエルが神楽から手紙を受け取り読む。そこには輝京にて、魔導戦艦ベリアルに乗ったアルバトス達から攻撃を受け、マリリア、シーマ、アストリアが倒れた事。そして青龍の鍵が奪われた事。そしてベリアルが北州に向かったので、北州近郊でのヒルダ達との合流地点。などが綴られていた。ラファエルは神楽を見る。血の気がなく、青ざめた顔をしている。きっとマリリアの心配をしているのだろう。手紙に容態が書いていないのが気になる‥。この手紙の字はミルコの字だ。大した事がなければ、ミルコならそう書くはずだからだ。

「‥行こう」

ラファエルは神楽を促す。神楽は軽く頷くと、四人は手紙に書いてある合流地点へと向かった。



ヒルダ達は急いで北州へ馬を走らせていた。輝京の中で早いとされてる馬を三頭ほど借りて、北州へ向かっていたのである。ミルコは背中に玄武の盾を背負っていた。刃から幻獣『玄武』を呼び出す為に、借りたのである。

「刃が使わなくても呼べるんだ?」

ミルコが聞くと

「あぁ。特別な事は何もいらん。その玄武の盾そのものが玄武だからな」

と、刃は言うが言ってる意味がわからん。言われてみれば、玄武の盾は亀の甲羅に見えなくもないが‥。刃は会議が終わるとすぐに三人の治療に加わった。今や輝京の法力医が総出で三人の治療に取り掛かっている。だが、他にも患者がいるから手が回らない。なので紅都から太政さん達も呼んだらしい。こちらへ向かって来ているそうだ。ヒルダはマリリアとシーマの様子を見に行こうとしなかった。

「今生の別れじゃあるまいし、必ず元気なって戻ってくる。だから見舞いにはいかん!」

ヒルダなりの願掛けだったのか、あるいは弱っているマリリアやシーマの姿を見たくなかったのかも知れない。だが、血まみれでぐったりして治療を受けているアストリアを見て、一筋の涙を流しているヒルダをミルコは見てしまった。本人も気づかずに涙が流れたのだろう。ヒルダは慌てて拭いていた。ミルコもなんとも言えない思いだ。あんなに強かったシーマとアストリアが倒されたのが、大きな衝撃だった。そして守らなければならないマリリアが、こうも簡単に命の危険に晒されている‥。自分の無力さを改めて痛感していた。だがミルコには秘密兵器があった。ナユタ族のサイから教わった吹き矢だ。エルコンダという植物は、葉に非常に強い痺れ作用のある毒を持っているという。大型の猛獣ですら、その毒で痺れて動けなくなるらしい。その葉から抽出した液体を吹き矢の矢の先に塗り、飛ばして刺されば非力でも戦う事が出来る。ルドガーも短剣を持って、危なくなれば戦う心構えだ。一応、闘技大会で三位になった事もある‥。そしてもちろん、大量の爆薬も持ってきた。作戦としては、ラファエル達と合流後、全員で玄武に乗ってベリアルに侵入。ベリアルに乗り込み次第、ミルコとルドガーは爆薬を仕掛けに船内を回る。そして爆薬を仕掛けながら操舵室を探す。漢白の話しでは、船のような構造をしているだろうから、前方の方に操舵室となるものがあるのではないか?ということだ。その操舵室が見つかり、占拠する事が出来れば良し。出来なければ頃合いを見て、爆薬を爆破させる。ベリアルの破壊を試みるのだ。ヒルダとラファエルが乗り込んだ後に大暴れして注意を引き、神楽とラファエルの師匠達でミルコ達の護衛をしながら操舵室の占拠をする。かなり、ざっくりとした作戦だ‥。本当に上手く行くのかな‥?だが、細かい綿密な作戦を立てる時間はない。グングニルが稼働する前に、なんとかベリアルを抑え込みたい。無謀な作戦かも知れないが、その方が相手の裏をかきやすいかも知れない。まさか、この短時間でしかも僅かな人数で、敵のど真ん中に乗り込んで来るとは思わないはずだ。漢白は龍禅と共に軍を整えるという。マルセルトなど周辺国にも今回の輝京襲撃の一報が行く。周辺国が足並みを揃えてドルギアと対峙する形を作りたい。宝来としては全軍を持ってドルギアと相見える覚悟だ。その為、早急に大軍を集めてまとめ上げないといけない。漢白と龍禅はその準備に取り掛かったのだ。上空にはベリアルがずっと見えていて、どんどん近づいている。北州の空は赤く染まり、沢山の煙が上がっていた。そして砲撃音が地響きのように響き渡り、もう手が届きそうなくらいまで近づいた時、遠くから四頭の馬に乗った人物が見えた。ミルコは馬を飛び降りると、背中の玄武の盾を降ろして準備を始めた。



ベリアルの操舵室では操舵員の声が飛ぶ。

「三番副砲発射!的中!」

「面舵、右に五!」

「二番副砲用意!」

「前方、煙で視界度、弍!」

「高度、四四参へ修正」

挿絵(By みてみん)

操舵室ではネロが中央で腕を組んで立っている。その少し後ろにバドが座っていた。

「‥ノエルの奴はどこ行ったんだ?」

バドがネロに聞く。

「さぁな‥。あいつは常に単独行動だからな‥」

ネロは前を見ながら言う。その時、ノエルが操舵室に入ってきた。

「‥どうだ?そろそろか?」

ノエルがネロに聞く。

「これだけ痛めつければ、反撃する気も起きないだろう。そろそろ地上部隊を降ろすぞ。ドルギアからのリーゼル率いる大部隊を迎える準備をしないとな」

ネロがノエルに言う。するとバドがノエルに

「本当に俺らは行かなくていいのか?あの羅刹って男と夜叉って女だけに地上を任せていいのか?」

と聞く。ノエルは

「あぁ。あいつらはとんでもなく強い。ラズベリアのシーマを殺った時なんか凄かったぜ。遠くから少し見てたが、夜叉の氷の魔法で身動き封じて、羅刹が体の形が変形するまで力任せに殴っててさ。あのシーマが血ヘド吐いてグチャグチャにされてたよ。まぁ、これであの女に追われなくて済んだけどさ。悪魔ってのは恐ろしいねぇ」

とニヤける。

「お前が言うな」

とバドも笑っている。すると

ドオォォォン!

衝撃音が遠くで聞こえ、ベリアルが振動する。

「なんだ?なんの揺れだ?」

ネロが操舵員に聞く。

「わかりません!艦の後方で何かあったようですが‥」

操舵員が言うと

「‥羅刹と夜叉に地上に降りる準備をさせがてら、様子を見てくる」

そう言うと、ノエルは操舵室から出て行った。



ベリアルの後方にある魔導浮力装置の近くの通路に、ヒルダとミルコとルドガー、ラファエルと神楽と阿右と左吽は倒れていた。

「‥くそ!痛ってぇぇぇ!」

ミルコが呻く。七人の側には、白く光輝く大きな亀が澄まし顔でいる。どうやら地上からこの亀の背中に全員乗り、ここまで飛び上がって来たようだ。そしてベリアル後方の壁面にぶつかりそうになり、ヒルダが慌ててメルデゼリアを唱え、ベリアルの装甲を突き破り着地したのだ。

「‥こんな乱暴な降ろし方があるか?」

ヒルダも足を押さえて言う。皆を背中に乗せた亀は、ベリアルに着地した瞬間に全員を投げ出したのだ。

「‥刃の野郎、説明が足んねぇんだよ‥」

ルドガーも頭を押さえてる。ラファエルと神楽、阿右と左吽は投げ出される瞬間、受け身をとったようだ。すぐに立ち上がる。ミルコはそんなラファエルをまじまじと見る。

「‥なんか、やっぱ違うね‥‥。なんていうか‥‥前より落ち着いているというか‥雰囲気が‥‥なんかこう‥」

上手く言えない。だが体つきも以前よりガッシリしているし、顔つきも変わった気がするのだ。

「‥そうかな?ありがとう‥」

少し照れて笑う顔は、以前のラファエルだ。どうやら竜鱗寺から輝京へ向かってくる時も、暇さえあれば阿右と左吽と稽古をしていたようだ。阿右と左吽の紹介はしてもらった。なのでミルコもルドガーの説明を簡単にした。

「あ‥‥ごめんなさい‥‥」

神楽が口に手を当てルドガーに謝る。不思議そうな顔をするルドガーに、八咫烏の正体を伝えると固まったまま動かなくなった。どうやら神楽のあまりの強さが、トラウマになってしまったようだ。そしてここにはいない、刃の事も簡単に説明した。するとラファエルが魔法陣を描きながら

「‥僕はマリリアが助かると信じてる。もちろん、アストリアとシーマも。きっとまたみんなと元気に旅が出来ると思ってる。だから、容態は聞かないよ。芳しくても芳しくなくても関係ない。きっと大丈夫だと信じてる」

そしてバーサーカーの歌を歌いヴリトラになった。

「‥って事だ。神楽も心配するな。マリリアは大丈夫だ。あいつは強いんだぜ?なんせ俺達に事情を言わずに、一人で宝来に行こうとしてたんだ。国を背負い、辛い過去を押し殺し、たった一人で戦おうとしてたんだ。国をも巻き込む大事に俺たちを巻き込みたくない一心でさ。もう立派な一国の主だぜ。だからマリリアは負けない。負ける訳がねぇ!」

ヴリトラはそう言って歩き出す。その背中に

「‥‥ありがとう‥」

神楽が小さい声で呟いた。

「じゃあ、行くよ!」

ミルコが叫ぶ。とにかく前方方向だ。前方方向に操舵室があるはず。ルドガーが自分達が着地した付近に爆薬を仕掛ける。この爆薬同士は見え難い糸で繋がっていて、一つが爆発すると火がその糸を伝い連続して爆発する仕組みだ。ミルコとルドガー、神楽と阿右と左吽は走り出す。見届けるように白く光輝く亀『玄武』は光の粒となり消えた。ヒルダもヴリトラの後を追う。ヴリトラはズンズン歩いて行った。すると、かなり広くて大きい部屋のような空間に出る。魔導動力装置を動かす機関室のようだ。すると

「おい!貴様!」

「何者だ!」

予定通り、複数の兵士に見つかる。

「準備はいいか?魔女っ子?」

ヴリトラがヒルダに言う。

「あったりまえじゃ、筋肉おばけ」

ヒルダも言い返す。ヴリトラは身構え、ヒルダも杖を構えたのだった。



ミルコ達はベリアルの狭い通路を少し進むと、暗く見えずらい場所で少し身を隠す。しばらくすると

「あっちだ!侵入者だ!」

「一体どうやって?ここは上空だぞ!」

「いいから早く取り押さえろ!」

数人の足音が後方に走り去るのが聞こえた。これで注意は後方のヒルダとラファエルに向かったはず。その場にも爆薬を仕掛けると前方に進み出した。ベリアルの通路は狭く入り組んでいる。とにかく前方を目指して進むしかないのだが、時折どちらが前方かわからなくなる。窓などほとんどないので進行方向がわからなくなるのだ。ひたすら前方を目指していると、曲がり角で兵士と鉢合わせた。慌てて剣を構える兵士達を、阿右と左吽が一瞬で叩きのめす。

「‥速え‥。この二人、めちゃくちゃ強いな‥」

ルドガーが驚く。

「二人はヴリトラの師匠だからね‥」

神楽が言う。ミルコはヴリトラの強さを、散々目の当たりにしてきた。そのヴリトラが師匠だというこの二人‥。

「ありがとーございまっす!」

ミルコはこの四人がやってる、『両手を顔の前で合わせて突き出してお辞儀』をする。それを見たルドガーが言う。

「‥お前も速えなぁ、順応性が‥」

そして通路を進んでいくと、少し広くなってる場所に出た。奥には扉が見える。ミルコ達がその扉へ進んで行った時

キイィィン!

背後で弾ける金属音がした。見ると神楽が後ろを向いて短刀を構えていて、その前にはバドが槍を構えて立っていたのである。背後から突然、槍で突かれたのを神楽が咄嗟に弾いたようだ。

「おぉおぉ、こんな所にハエが飛んでるじゃねぇか?テメェらどうやってここへ来た?」

バドが槍を構え直す。神楽は

「‥言う必要はない」

と言って素早くナイフを投げつけ、直後に斬り込む。バドは槍でナイフを叩き落とし、槍の柄の部分で神楽の短刀を受ける。

「‥女のくせにやるじゃねぇか?戦い慣れしてんな?殺し屋かなんかか?」

と聞いてくるバドに

「言う必要はないと言ったはずだ!」

神楽の連続しての斬り込み。バドも綺麗にかわしていく。

ドンッ!

突然、またもやミルコの背後で大きな音がする。見ると阿右が吹っ飛ばされて、壁に叩きつけられた音だった。崩れ落ちる阿右。吹っ飛ばしたのは、いつの間にか現れたネロだったのだ。どうやら阿右と左吽の背後に現れ、阿右を槍の柄の部分で吹っ飛ばしたようだ。左吽がネロに正拳突きを打ち込みながら

「ミルコとルドガーは操舵室へ行け!ここは我らが!」

と叫ぶ。

「わかった!」

ミルコが叫んでルドガーと共に扉に向かって走り出す。その目の前に、正拳突きをかわして左吽を突き飛ばしたネロが回り込む。

「バカが!簡単に行かせるか!」

ネロの槍がミルコに振り下ろされる瞬間、阿右の回し蹴りがネロの馬の兜に叩き込まれる。

「ぐっっ‥」

呻いて後ずさるネロの脇をすり抜けて、ミルコとルドガーは扉の中へ飛び込んだ。



ヒルダは杖を下ろした。メルデゼリアを放つ前に、ヴリトラがその場の兵士を全員、流れるような連続攻撃で片付けてしまったのだ。ミルコの感じた通り、ヴリトラは竜鱗寺へ行ってから確実に強くなっている。単発で単調だった攻撃が、連続しての攻撃に変わっていて、組み合わせ次第では相手を翻弄する事が出来る。今は出る幕がないな、ヒルダはそう思い杖を下ろしたのだった。が、またすぐに杖を構える。広い機関室内にある扉の向こうから、ただならぬ気配を感じる。そして扉が開き、二人の男女が機関室に入ってきた。羅刹と夜叉だ。

「‥人ならざる者か‥‥何者じゃ?」

ヒルダが杖を構えたまま聞く。

「‥俺は羅刹。こっちは夜叉だ。我が王に仕えし者だ」

羅刹が構える。挿絵(By みてみん)

羅刹も夜叉も武器は持っていない。素手だ。

「我が王とは?妖華刺の事か?」

再度ヒルダが聞く。

「‥そうだ。いずれ、全てを支配し者となる‥」

夜叉が答える。妖華刺を王と呼ぶとは‥。妖華刺は悪魔の中でも相当な高位の悪魔のようだ。あやつはひょっとすると‥?すると夜叉の両手が青白い光を放つ。

「‥!‥こやつ、魔法を使うのか?」

ヒルダが言い終わらない内に、夜叉が右手を下から上に振り上げる。するとものすごい速さで、沢山の氷柱が地面を這うようにヒルダに向かっていく。ヒルダは前方に炎を壁のように張り巡らせる。氷柱が炎の壁に当たり、力比べが始まった。氷柱の勢いをなんとか炎の壁で抑え込む。だが夜叉が、今度は左手を下から上に振り上げる。またもや氷柱がヒルダ目掛けて地を這う。そして炎の壁にぶち当たった。

「ぐっっ!」

ヒルダがなんとか堪える。氷柱の勢いはなんとか殺せたようだ。するとヒルダの体の周りの炎が大きく燃え上がる。

「クリメイション!」

ヒルダが叫ぶと炎が一斉に、夜叉を目掛けて襲いかかる。

「‥アブソリュート・ゼロ」

夜叉がつぶやいた瞬間、真っ白い煙が上がり夜叉の体の周りが全て凍りついた。ヒルダの炎ごと全て凍りついたのである。そして夜叉の見つめる先に、氷で全身を固められたヒルダの姿があった。



操舵室の中に飛び込んだミルコとルドガー。転がるように部屋に傾れ込んだ。

「お、おい!なんだ貴様ら?」

「侵入者か?」

操舵員達の何人かが立ち上がる。だが、半分ぐらいは操縦やら何やらで手が離せないようだ。これは好都合。ミルコは秘密兵器の吹き矢を構えると、狙いを済まして吹いていく。そんなに離れていなければ、かなりの命中率だ。しかも皮膚に針が刺さればいいので、必要以上に強く吹く必要もない。肌が露出してる部分を一瞬で判断し、当てなければならないのが難しい所かな‥。薄い服であれば、強く吹けば服の上からでも刺さるかもしれない。瞬く間に立ち上がった三人を、吹き矢で痺れさせる。後は手が離せない二人を、ゆっくり首筋に吹き矢を当てて痺れさせていった。ルドガーは立ち上がった一人の操舵員と、取っ組み合いをしている。すると船が大きく揺れた。後方のヒルダ達の方で何かあったのか?ミルコはルドガーと取っ組み合いをしている操舵員に近づき、短剣を突きつけ

「はい、そこまで!大人しく俺たちに操縦の仕方を教えてくれない?」

と言う。

「‥な、?‥貴様らなんかに教える訳が‥」

操舵員が両手を挙げて答えると

「へぇ‥いいの?操舵員はアンタ以外、全員痺れてる。このままだと、墜落するよ?俺たちも死ぬけど、アンタらも全員死んじゃうよ?」

ミルコが言うと、操舵員は周りを見渡す。操舵員は全員、痺れて倒れている。前方の窓を見ると、ベリアルが大きく傾いていく所だ。体も大きく傾く。

「早く!操縦の仕方を!」

ミルコが叫ぶと

「‥‥真ん中の席で舵取りをする。右側の席で魔導の出力調整。速度や高度なんかを管理する。左側の席で主砲を動かす。副砲はそれぞれの場所で単独で動かすんだ」

操舵員が説明を始める。交渉の鉄則。自分の思い通りに交渉を進めたいなら、『相手を一人にさせ制限時間を短くする』だ。話しを聞きながら、ルドガーが実際に動かして確認する。主砲や副砲を使うつもりはないので、なんとか動かす事が出来ればそれでいい。計器類の説明を聞きながら、ミルコは紙に走り書きでメモしていた。大体、一通り説明を聞くと

「ありがとう!ご苦労さん!」

ミルコはそう言って、操舵員の首筋に吹き矢を打ち込んだ。



ヴリトラはチラリとヒルダの方も見る。冷たい冷気が漂い辺りは真っ白だ。何も見えない。ヒルダの炎が見えないし、熱気を感じない。大丈夫だろうか?と、羅刹が正拳を打ち込んでくる。とんでもない速さ。だが、ヴリトラは落ち着いてかわす。そして羅刹の連続しての突きと蹴り。後ろに下がりながら捌いていく。ヴリトラの返しの突きを羅刹がかわす。が、その瞬間ヴリトラの足払い。体制を崩した羅刹に連続して左右の正拳突き。羅刹が吹っ飛び、地面に転がる。だが、すぅっと何事もなかったかのように立ち上がった。ヴリトラもゆっくり構え直す。すると羅刹のさっきよりも早い突きが飛んでくる。ヴリトラは避けきれず防御する。構わず羅刹が叩きつけるように拳を連続で打ち込む。ヴリトラは防御しながら、たまらず後ろに下がる。阿右や左吽の突きより重いのだ。大きな漬物石で殴られているような感覚だ。ヴリトラは振り払うように回し蹴りを放つ。少し距離を取りたい所だが、羅刹はすぐに距離を詰めてくる。力で押し切るつもりだろう。圧倒的な力を誇る者が使う戦い方。力でゴリ押し、技や技術すらねじ伏せる戦法。上手くハマれば、相手に何もさせずに勝つ事が出来るのだ。それならば!ヴリトラは、羅刹が打ち込んできた右の正拳突きを、左手で掴んで捌く。連続で打ち込まれた左の突きも右手で掴んで受け流す。そして羅刹の左脇腹に二発、突きを打ち込むと離れて距離を取る。すぐに距離を詰めようとする羅刹に、待ち構えていて回し蹴りを叩き込む。羅刹は慌てて防御するが、吹っ飛ばされて壁に叩きつけられた。だが、跳ね返ってきた勢いで、正拳をヴリトラの右肩に打ち込み、そのまま前転して浴びせ蹴りを叩き込む。ヴリトラの額に羅刹の踵が直撃して、吹っ飛んで地面を転がった。起き上がったヴリトラの額から、夥しい血が流れる。右肩も痛みで痺れている。とんでもない力だ。

「‥ガーゴイルのような下等級悪魔とは訳が違う。覚悟してもらおう」

羅刹がヴリトラに言う。

「‥覚悟すんのはテメェだ。悪魔だろうがなんだろうが、負ける訳にはいかねぇんだよ」

ヴリトラが構え直す。するとこれまでで、最速の羅刹の突きが飛んでくる。だが、少し距離が離れていた。ヴリトラは避けれると踏み、体制を取ろうとした時だった。両足が動かない。見ると両足が凍りつき地面に固定されたいる。しまった!その瞬間、羅刹の石の様に重い拳がヴリトラの顔面を捉えた。

「ガハァァッ!」

ヴリトラの両足の氷は衝撃で砕け散り、ヴリトラは吹っ飛んだ。辛うじて起き上がる。だが、またすぐに両足が凍りつき地面と固定された。そして今度は両手まで凍りつく。夜叉の仕業だ。遠くで右手をこちらに翳している。まずい‥。目の焦点が定まらない。顔面を殴られた衝撃だ。そこへ羅刹の無情の拳が飛んできた。



キィン!キィン!

激しい金属音が響く。神楽が短剣で斬り込むが、バドは難なく捌いていく。その隣では阿右と左吽がネロと戦っていた。本来、槍を使うネロは長いリーチを生かした戦い方を得意とする。素手の阿右達とは至近距離での戦いになる為、苦手とする相手の筈なのだ。その為かネロはイラついていた。

「‥えぇい!こんなものいらん!バド、使え!」

ネロは自分の槍をバドに投げてよこす。バドはネロの槍を受け取ると両手で二本、槍を構える。

「ウオォォォォ!」

バドが二本の槍を力任せに振り回す。神楽の使う華隠心眼流は、距離を取られるのと力技に弱い。そう。今のバドがまさにそれで、苦手とする相手なのだ。槍をかわしながら、なんとか距離を詰めようとするが、バドがさせない。すると、バドの槍が神楽の短剣を力で叩き落とした。しまった!バドは神楽に肩で体当たりをして体制を崩す。そして硬い牛の兜で、神楽の顔面に頭突きをする。神楽は勢いで壁に叩きつけられた。そこへバドの槍が、神楽の右脇腹を突き刺す。

「うぐぅぅ!」

痛みで呻く神楽。鼻血で顔が真っ赤になり、脇腹に突き刺さった槍からも血が滴る。

「神楽!」

左吽がトドメを刺そうとするバドの顔面に、横から跳び膝蹴りを叩き込む。その左吽の左肩にネロの短剣が突き刺さった。左吽はたまらず、左肩を押さえて下がる。ネロは槍をバドに渡した後、腰から短剣を二本抜いて両手に持ち、短剣二刀で戦っていたのだ。そのネロに阿右の連続しての突き。ネロはかわしながら後ろへ下がり、すぐに前へ出ながら短剣で斬り込む。そこへ左吽が回し蹴りを打ち込もうとするが、左吽の背後からバドが槍を振り下ろす。左吽の背中が斬りつけられ血飛沫が上がる。

「ぐあぁぁぁっ!」

左吽がその場で蹲る。

「左吽!」

阿右がバドに突きを放つが、槍の柄で防御されてしまう。すると横からネロの肘打ちが阿右の顔面を捉える。そしてバドが槍の柄で阿右の鳩尾を突く。阿右は悶絶して壁に叩きつけられた。そこへネロが短刀を振りかぶり、バドが槍を突き立てようと迫っていた。



両足が凍りついて動けないヴリトラに羅刹の拳が迫る。

「あの女剣士と同じ死に方だな!」

羅刹が叫ぶ。あの女剣士?シーマの事か?シーマも足の自由を奪われて、二人がかりでやられたのか?シーマは強いんだ。一人づつなら、負けはしない。負けはしないんだ!だから俺も!俺も!くそっ動けぇぇ!動けぇぇぇぇ!必死に足を動かそうとするヴリトラ。その時

「‥‥なんじゃ?いつもの馬鹿力はどうした?」

と声が聞こえ、両手両足が突然動く様になった。慌てて防御する。その瞬間、羅刹の拳が叩き込まれ後ろに吹っ飛んだ。ヴリトラが声のした方を見る。真っ白な煙の中に赤い何かが見える。ヒルダの炎だった。いつもより小さいが、ヒルダの体を包み込む様に燃えている。全身を氷で固められたヒルダは、全身の炎で少しずつ氷を溶かしていたのだ。そして氷が溶け切って動けるようになると、ヴリトラの氷を溶かしたのだ。

「‥絶対零度だぞ?なぜ炎が起こせる‥?」

挿絵(By みてみん)

夜叉が表情を変えずに驚く。羅刹も夜叉も感情がほとんど表情に出ない。常に無表情だ。

「‥お主、杖も使わずこの魔力‥‥。恐ろしいのぅ‥」

ヒルダが杖を構える。体を取り囲む炎がみるみる大きくなる。

「絶対零度でなぜ炎が起こせるか、じゃと?そんな事、知らん!妾の方が魔力が高いからじゃ!」

ヒルダが叫ぶと、夜叉は両手をヒルダに向ける。

「なら力比べだ。弱い方が負ける。自然の摂理だ。アブソリュート・ゼロ!」

夜叉の周りが真っ白になり、瞬く間に辺りが凍りついていく。

「残念じゃのう。もしお主が杖を使っていたら、さっきので妾を殺せたかもしれんのに‥」

ヒルダの体を取り囲む大きな炎が消えてなくなった。夜叉の真っ白い煙でヒルダが包み込まれる。

「業火爆炎」

ヒルダが呟く。だが、何も起こらない。

「私の勝ちだな‥」

夜叉が呟いた。

「‥最初に爆風。冷気が飛んでいった後、急激に空気を取り込み炎が飲み込む‥」

さぁっと急に冷気が流れた。真っ白い煙が消えた瞬間、大きな真っ赤な炎が膨れ上がり大爆発と共に夜叉を飲み込んだ。爆風でヴリトラと羅刹は吹っ飛ばされた。

「バカ!船の中なんだから手加減しろ!」

ヴリトラが叫ぶ。

「お主がチンタラしとるからじゃ!」

ヒルダが爆風を物陰でやり過ごしながら、変顔で挑発する。爆発で床には大きな穴が空き、眼下には北州の燃えている町並みが見える。凄まじい炎で焼かれ、夜叉は倒れて煙となって消えた。

「よくも夜叉を!」

羅刹が拳を連続して打ち込んでくる。ヴリトラは下がりながらかわす。まずい。後にはさっきの大穴がある。その時、ベリアルが大きく傾いた。羅刹が体制を崩す。その一瞬の隙をついて、ヴリトラの渾身の連続の突き。

「ガハァッ!」

悶絶する羅刹に、飛び上がってからの右回し蹴り。羅刹の顔面を直撃すると、吹っ飛んだ羅刹は大穴から落ちていった。ヴリトラが穴から下を覗くと、瓦礫が槍の様に尖っているその先に、羅刹が串刺しになっていた。そして煙になって消えていったのだった。



「うぅぅっ!」

神楽は右脇腹に刺さったバドの槍を引き抜く。

カランッ!

引き抜いた槍を地面に放り投げると、阿右が壁に叩きつけられ、ネロとバドが短剣と槍でトドメを刺そうとしている瞬間だった。神楽は急いで肩から掛けていた朱雀の弓を取り、一本の矢を放つ。矢は凄まじい勢いで飛んでいくと、バドの左腕を貫通してネロの顔先を掠める。

「グアァァ!」

バドが痛みで疼くまり、ネロは飛んで下がる。朱雀の弓は凄まじい力で、遠く離れた敵を射抜く事が出来る。その為、至近距離では鎧なども貫通してしまう威力なのだ。阿右が壁を蹴ってネロに飛びかかる。バドは左腕を押さえながら、立ち上がろうとしていた。

バキンッ!

血まみれの左吽が高い位置からバドの脳天に、左踵落としを叩き込んだ。斬られた傷は浅かったようだ。跪いたまま動きが止まるバドの顔面を、左吽の右回し蹴りがまともに入る。倒れたバドに左吽が拳を叩き込んだ。ネロの短剣を阿右がかわしている。ネロの目線の先に、拳が打ち込まれるバドの姿が見えた。

「バド!」

と、叫んだネロに

「どこを見ている!」

阿右の渾身の正拳突きが、ネロの腹に入る。吹っ飛んだネロが壁に叩きつけられ、衝撃で二本の短剣が地面に落ちた。拾おうとするネロの体に、阿右が突きを連続で叩き込む。ネロを壁に押し付けたまま、阿右の渾身の拳が何発も叩き込まれる。そして阿右の連打が終わると、ネロはゆっくりと地面に倒れた。



ベリアルが上空に漂う北州の街。ベリアルの砲撃で街は破壊され、火の海だ。大勢いた逃げ惑う人も今はもういない。そこら中に瓦礫が散乱し、住民の遺体も複数転がっている。ノエルは北州の街に降りていた。

「‥たく。やってられるかよ」

ノエルはベリアルでネロ達に後方を見に行くと言い、操舵室から出た。だが、羅刹と夜叉をベリアルの後方向かわせると、自分は脱出艇を使い北州へ降りたのだ。

「俺は最前線は向いてないんだって‥。功績だけでドルギア四強に選ばれただけなんだから。他の三人とは訳が違う。暗闇からの騙し討ちが一番楽しいんだよ‥」

ノエルは誰もいない北州の炎の中を、ブツブツ独り言を言いながら走っていた。このまま北へ向かえば、リーゼル率いるドルギアの大部隊と遭遇するはず。そこに紛れて本国に戻れば、俺は英雄だ。魔装具、青龍の鍵を手に入れた英雄。また功績が上がり、金と女に一生困らない。薔薇色の人生だ。

「‥やけに嬉しそうじゃないか?何か楽しい事でもあったのか?」

ノエルは突然背後から声をかけられる。聞いた事がある声。まさか‥?恐る恐る振り返るノエル。そこには体のあちこちを包帯で巻かれたシーマが立っていた。




 

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