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第一話 プロローグ




これは遠い遠い異世界のお話し。人間の世界に当たり前のように魔物がいて、人間を脅かしている世界のお話し。

 

西の大きな大陸、ユーバニア大陸では魔王ルーファウスと魔物達が人々を苦しめていた。

そこに一人の勇者が現れ、仲間達と共に魔物達を倒す旅を始め、五年の後に魔王ルーファウスを見事討伐した。




 

そして、さらにその旅から三年の月日がたった。







ここは東の大陸、オルタニア大陸の北西に位置するラズベリア共和国。複数の国々と隣り合わせてなる多民族国家だ。そのラズベリア共和国の北東にあるベラド平原。この辺一帯はノーステルム地方と呼ばれている。気候はとても穏やかで緑が豊か。平原の中にはラス湖という湖もある。僕はそのラス湖の近くで鍛冶屋をしている、デンゼル親方の弟子のアデル・フィルナンド。親方と二人で平原にある小さな小屋で暮らしている。仕事場兼の小さな小屋で、親方の鍛冶屋の仕事を手伝いながら、見習いをしている二十二歳だ。両親は隣国のマルセルト公国に住んでいる。デンゼルの親方は無口な職人気質。少々、気難しい所もあるが滅多に怒らない優しい人だ。月に何度か、近くにあるカマリアという街に買い出し行く以外は、ずっと親方と小屋で暮らしている。

 

そんなある時、親方と二人で街から買い出しの帰り道、道端の大きめの石に腰掛けている男がいた。中肉中背でガッチリした体格。髪は綺麗な金色だが手入れされていないボサボサの状態で顔には無精髭。ごく一般的な旅人のような服装だが、酷く汚れていて血の後のようにも見える。荷物も何も持っていないので、旅人には見えない。

男はボーっと遠くを見つめていて、疲れているようだ。ひたすら座り込んでいて、歩きだす気配もない。

声をかけずに通り過ぎはしたが、もうすぐ日が暮れる。この辺りは、うちらの小屋以外は何もない。平原にはごく稀に魔物も出らしい。まだ出くわしたことはないが、去年も旅人が一人犠牲となったそうだ。小屋が襲われたらと最初は怖かったが、鍛冶屋だから武器になりそうな物は沢山ある。それにデンゼルの親方は御年六十を過ぎてるが、昔は屈強な兵士だったらしく、まだまだ現役で大きな鉄のハンマーを片手で振り回す。街で酔っ払いに絡まれた時は、黙ったまま持ってたハンマーで、近くにあった木で出来たテーブルを一撃で叩き割ったのだ。あんなに息巻いていた酔っ払いが、その辺の飛んでる小鳥より早く走って逃げたのが可笑しくてたまらなかった。まぁ、後でテーブルの弁償をする事になったけど‥。

とにかく、親方がいれば百人力だ。


 

男が座っていた場所を通り過ぎてしばらくすると、前を歩いていた親方がふと振り向いて、目だけチラリとあの男の方に向け、僕に向かって

「おい」

と言った。声を掛けてこいという事だとすぐに理解し

「わかりました」

と頷くと僕は男の元へ走った。世知辛い世の中だが、持ちつ持たれつお互い様で助け合いが大事。親方の口癖だ。

 


こうして男に声を掛けて、小屋に連れて帰る事となったのだが、話しを聞いてみると男は記憶喪失だという事がわかったのだ。名前はアストリアというそうだが、名前以外は何も覚えてないという。どこから来て、何をしていて、どこに行こうとしていたのか、全く何も思い出せないらしい。もちろん、住んでいた場所も家族や友人なども。目が覚めると河原で倒れていたらしい。当てもなくなんとかここまで歩いてきたが、疲労困憊であそこに座り込んでしまったそうだ。聞けば三日間、水以外口にしていないらしい。

親方が特製のスープを作ってくれると、アストリアは

「ありがとう、ありがとう」

と呟いて美味しそうに飲んでいた。

年は三十代ぐらいだろうか。胸に鳥の翼のような形の装飾がされた青い宝石のついた首飾りを付けている。服装とは釣り合ってないが、アストリアはよく見るとかなり整った顔立ちだ。髪を整えて髭を剃れば、きっと女性から人気だろうなぁ。そんな事を思いながら三人での生活が始まった。親方が

「こんな状況だからしばらくの間おいてやれ」

と言ったからだ。鍛冶屋の生活は決して裕福ではない。二人でなんとかやっていけてるといった感じだ。それでも男を放り出さないのは、親方が心優しい人だからだ。

挿絵(By みてみん)

 

数日すると、アストリアはすっかり体力が回復したようだ。

「本当に色々と申し訳ない。僕にも何か手伝わせてくれないか?」

と言ってきた。

「う〜ん、そうですねぇ。じゃあ、そこを掃除してもらってもいいですか?」

そう答えると、アストリアは熱心に掃除を始めた。アストリアはただ記憶がないというだけで、受け答えはしっかりしているし感じの良い男だ。その後、家事などを色々と手伝ってくれるようになった。僕は少しでも記憶が戻るお手伝いが出来ればと思い、一緒にやりながら色々と話しをしてみた。今の世界のご時世の事やら、近隣諸国の話し、歴史の事なんかを引っ掛かることなどあればと思い、知る限り話してみた。だが、特には引っ掛かる事はなかったようだ。アストリアも何か思い出すきっかけになればと、色々とやってくれた。掃除に洗濯に料理。簡単な大工仕事や小屋の裏にある畑で野菜の栽培。湖に行き魚釣りや罠での狩猟などなど。どれも教えれば器用にこなすが、これといって何かを思い出す事はなかった。


こうして、アストリアが来てから二週間が経とうとする頃、カマリアの街に恒例の買い出しに行く日が来た。

「親方、街について行ってもいいかな?」

アストリアが言うと親方は軽く頷いた。

そう、アストリアは街に行けば何かわかるかもしれないと考えていた。確かに、色々と話しを聞いて回るのも良いかもしれない。何か小さな手がかりでもといった思いだろう。自分の名前以外、記憶がないとはどんな感じなのだろうか?きっと不安しかないんだろう。もし僕なら心細さに押し潰されそうになる。それにもしも家族がいるなら、心から心配してるはずだ。早く元の場所に帰してあげたいな。


カマリアの街へは歩いて片道二時間ほど。平原を抜けた先にある。

僕たち三人は身支度をすると、街に向かって出発した。

 




ここはラズベリア共和国ノーステルム地方の街、カマリア。ラズベリアの中でも北東に位置していて、隣国ドルギア帝国との国境も近い。さほど大きな街ではないが、この辺一帯の商業の中心となってる街である。多くの店が立ち並ぶ市場なども有り、旅の行商なども大勢行き来している活気のある街だ。


「意外と活気があるなぁ‥」

誰に言う訳でもなく、僕は呟いた。僕はアストリア。下の名前は思い出せない。そう僕は記憶喪失なのである。二週間ぐらい前に、何も思い出せず道端で途方に暮れている所をデンゼル親方と弟子のアデルに声を掛けてもらい、それから二人にご厄介になっている。デンゼルの親方は、いかにも職人といった感じで無口で少し怖そうだが気は優しい。濃い茶色の髪を短く刈り込んでいて立派な髭をたくわえている。体は大柄で筋骨たくましい。昔はどこぞの兵士だったとか。アデルは両親想いの優しい好青年。働き者だし何より親方をとても慕っている。見た目は痩せ型で少し気が弱そうに見えるが、芯は強いものを感じる。ソバカスと赤いサラサラの髪が特徴的だ。二人には、こんな素性も知れない男の世話してくれたという思いで、本当に感謝してもしきれない。一刻も早く記憶を取り戻したいのと、せめて自分が何者なのかを知りたい一心で、親方達に同行してカマリアの街にきた。街で色々聞いて回れば何かわかるかも知れない。

「僕と親方は市場の方へ行きますが、アストリアさんはどうします?」

アデルが聞いてくる。

「そうだな‥。とりあえず一緒に市場に行くよ。市場から聞き込みしてみる」

僕が言うと、アデルは頷いてついて来てという手振りをした。

建物と建物の隙間を、右へ左へいくつか通り抜けると沢山のテントが並ぶ通りへと出た。多くの人が往来している。ここがカマリアの街の市場か。


挿絵(By みてみん)


早速、アデル達は買い物を始めてる。親方が欲しい物を指差すとアデルがすぐに店の人と値段交渉を始める。息の合った連携だ。大勢の人々でごった返している為、二人とはぐれないように注意しながら僕は聞き込みを始めた。記憶がない事を説明して、僕に見覚えがないか?とか、僕みたいな人を探してる人を知らないか?とか、片っ端から聞いて回った。だが結果は散々だった。聞いても聞いても誰も知らないみたいだし、何かを思い出すきっかけにもならなかった。こうなる事は少しは予想していたが、厳しい現実を突き付けられると、体中から疲労とか不安とか色々溢れ出てくる。

「大丈夫。明日もありますよ。きっと明日は何かしら知ってる方が見つかりますよ」

アデルが、明らかに落ち込む僕に声をかけてくれる。

「こんなに人が沢山いるのになぁ‥」

市場で右往左往してる大勢の人々を見ながら僕が言う。世の中にこれだけ沢山の人がいて、みんな誰かと繋がって生きているのに、僕だけが一人のような気さえしてしまう。すれ違う人々がとても幸せそうに見えて、何故か寂しい気持ちになった。

「この世界で、一人の人間なんてちっぽけだからなぁ。大草原で一輪の花を見つけるようなもんだ。まぁ、根気よくやんな」

デンゼルの親方も珍しく口を開く。よほど落ち込んでるように見えたのだろう。いかんいかん。

「そうですよね。そんな簡単にはいかないですよね。」

明るめの声で答える。そうだ。一日で何かわかるなんてそんな都合の良い話なんてない。落ち込んでいても何も変わらないし、明日も根気よく聞いて回ろう。

そう、今日はこのままカマリアの街で一泊するのだ。そして明日、小屋に戻るという予定だ。宿は先ほどアデルが取ってきた。

「そろそろ日が暮れます。どこかで晩飯にしましょう」

アデルがそう言ったので、どこか美味そうな店を探し始めたその時だった。

「あの、アストリア様ではありませんか?」

振り向くと、見た事ない女性がこちらを見ている。髪は長く黒髪で顔は日に焼けているが可愛らしい女性だ。十代か二十代前半だろう。アデルと同じぐらいにも見える。見なりは市場の売り子の娘といった旅商人のような服で、痩せて小柄だが手に大きな籠を両手で抱えている。

「あ、ああ。そうだけど‥」

君は?と続けようとした瞬間に彼女が喋り出す。

「やっぱり!その節は大変お世話になりました!まさか、こんな所でまたお会いするなんて」

彼女が少し興奮気味に言う。どうやらこの女性は僕の事を何かしら知っているようだ。そこで僕はこれまでの経緯を簡単に説明した。

「そうですか‥。記憶喪失に‥」

彼女が少し悲しそうな顔をする。

「あ、私ミリアと言います。以前、西の大陸でアストリア様に命を助けて頂いたんです」

聞けば、彼女は家族で旅の行商人をしていて、前に魔物に襲われている所をアストリアに助けられた事があったのだと言う。

「本当にあの時はありがとうございました」

「あぁ〜いやいや。今は記憶がないから、そんなそんな‥」

慌てて首を振る。なにしろ覚えてないからなぁ。感謝されて嬉しい感情も少しあるが、とにかく驚いた。自分が人を魔物から助けるような人間だったとは。僕は一体何者なんだ?

そこで、彼女に詳しく話しを聞きたいと申し出ると、彼女は快く引き受けてくれた。僕達はアデルが見つけたお店で彼女から話しを聞くことにした。


 

「アストリア様は西の大陸の勇者様ですよ」

僕は飲もうとして口に含んだ水を吹き出した。ちょっと待てくれ?何だって?何を言い出すんだ?

見ると隣のアデルも咽せている。同じ反応だ。デンゼルの親方だけ動じる事なくゆっくり酒を煽っている。

「ゆ、勇者?西の大陸の?」

僕は口を拭きながら彼女を見る。

「はい。あれは四年ぐらい前だったと思います。私は当時、西のユーバニア大陸を家族で旅をしながら行商をしていました。ある時、私達家族は森の奥深くで魔物と遭遇してしまったんです。逃げる間もなく取り囲まれてしまい死を覚悟した時、アストリア様がお連れ様達と通り掛かり、魔物を瞬く間に倒してしまったんです」

話しを聞きながら

「へぇ、そうだったんだ‥」

まるで他人事のように相槌を打つ自分に可笑しくなってしまった。これは自分の事なのに。

「その時に、自分達は西の大陸の魔王ルーファウス討伐の旅の最中だと仰ってました。そしてそれから程なくして、魔王が勇者アストリアによって討伐されたと言う話しが大陸中に流れたんです。行く先々で色んな人達がアストリア様の話しをしていました。みんな勇者アストリアの数々の武勇伝に夢中でしたよ。どこかのお城で凱旋の式典が行われたそうですし、西の大陸でアストリア様の名を知らない人はいません。魔王には沢山の人々が長年苦しめられてきたので」

彼女が言うとアデルが聞く

「例えばどんな武勇伝があったんですか?」

「え〜っと、片手で巨大な岩を叩き割ったとか‥。百体の魔物の群れを一瞬で切り倒したとか‥」

こらこら。そんな事出来る訳ないでしょ。噂が一人歩きしているんだな‥。

チラリと隣を見るとアデルが目を見開いてこちらを見ている。いやいや、信じるんじゃないよ。そんな大袈裟な話しある訳ないでしょ。だいぶ過剰演出されてるんだって。

「あくまで聞いた話しだもんね!きっとただの噂話だよ」

僕は慌てて否定する。

「えっと、僕と会った時に他には何か言っていなかった?」

「そうですねぇ‥。他は特には何も‥。あの時は魔物に襲われた恐怖で気が動転していた事もあって、お礼を言うので精一杯でしたので」

そうだろうなぁ。魔物に襲われたら誰でもそうなる。

「なので、アストリア様の個人的な事まではわかりません。ごめんなさい、力になれなくて‥」

「いやいや、とんでもない。かなりの情報だよ。ありがとう」

お礼を言いながら、僕は宙を見つめ何か思い出そうと試みるが、何も思い出せない。そんな僕を隣のアデルがまじまじと見てくる。

「どう見ても勇者様には見えないですね」

ここはきっと『大きなお世話だ』と言う所なんだろうなぁ。でも、何よりこの僕が一番信じられない。

するとデンゼル親方が

「西の大陸で話しを聞いた方がいいんじゃねぇのか?」

と言う。それはそうだが、ここは東の大陸。大きな海を隔てた向こう側に西の大陸がある。行くには海を渡らなければならない。かつて勇者だった、というだけで今はお金も仕事も記憶すらない僕には、簡単に行ける場所ではない。僕が返答に困った表情をしてると

「ああ、まぁでも今すぐは無理ですよね‥」

アデルがすかさず助けに入る。

だけど確かにこのまま東の大陸で聞き込みを続けるよりも、西の大陸で聞いた方が色々分かる可能性は高いはずだ。それだけ有名なら住んでる所とか、すぐわかりそうだな。僕に家族とかいるのかな?恋人は?両親はどうしているんだろう?兄弟とかいるのかな?疑問は尽きない。

「お連れの方が何人かいらっしゃったので、その方達をお尋ねするのがよろしいかと」

ミリアが言う。そうか。それが一番の近道かな。時間は掛かるかもしれないが、何とか西の大陸に行く方法を探そう。それより何より、僕が西の大陸の勇者だということがわかっただけでも大収穫だ。実感は何もないし、何も思い出さないが。

「ところで、アストリアさんだとどこで気付いたんですか?」

アデルが聞く。確かにそうだ。当時と身なりは違うはずだし髪もボサボサで無精髭だから、普通気付かないはずだ。

「首飾りです。助けて頂いた時にお見かけしたんですが、とても綺麗な物だったのでハッキリと覚えていたんです。それと同じ物を付けていらしたので、まさかとは思い声を掛けたんです」

そう僕の唯一の持ち物。少し変わった形をした首飾り。そうか。前から身に付けていた物だったんだ。ミリアはこれを見て気づいたのか。もちろん自分で買ったのか、作ったのか、もしくは誰かからの頂き物か、全く思い出せないが‥。


僕達は食事を済ますと、ミリヤに再度お礼を言って別れた。

あたりはすっかり日が落ちている。宿に着くと、アデルは少し興奮気味に

「いや凄いですよ。僕達と一緒にいたのが勇者様だったなんて。しかも魔王を討伐するなんて、誰にだって出来る事ではないですからね」

と言った。でもだとしたら、何故僕はこの東の大陸の河原で倒れていたのだろう。何故記憶をなくしたのだろう。どこに行こうとして、何をしようとしていたのだろう。疑問はまだまだ沢山あるし、何より記憶がまだ何も戻らない。でも焦ってもしょうがないよな。一つ大きく前進したんだ。今はこれで良しとしよう。

するとデンゼルの親方が僕の肩に手を置いて

「よかったな。少し自分の事がわかって。だがな、ワシはお前が何者でもいい。勇者だろうが何だろうが、お前はお前だ。それは変わらん」

アデルもうんうんと頷く。

「それにきっと、お前の帰りを待ってる人がいるだろう。早く帰れると良いけどな」

親方は普段あまり喋らない。必要ない事は言わない主義なのだろう。だから言葉の一つ一つになんか重みがある。

そうだ。親方に西の大陸へ渡る方法を聞いてみよう。何かいい方法を知っているかもしれない。

だがその時、外が何やら騒がしい事に気づいた。


何事だろうと思い、僕とアデルは部屋を出て宿の外に出てみた。異変はすぐにわかった。もうすっかり日は落ちてあたりは暗くなっていたが、空が赤く染まっている。焦げ臭い匂いも漂っている。どこかで火の手が上がっているのだ。

「帝国軍だ!」

「ドルギアが攻めてきた!」

「逃げろー!こっちだ!早く!」

「くそ!向こうも火が!」

「自警団は何やってんだ!」

通りを人々が走りながら叫んでいる。さっきまでの平和な日常が一変した。あまりに突然の大きな変化で思考が追いつかない。なんだこれは?何が起こってる?帝国軍?攻めてきた?

アデルも突然のこの状況の変化についていけてないようだ。オロオロと周りを見ている。いかん。僕がしっかりしないと。とにかく、理由はわからないが隣国のドルギア帝国軍が、カマリアの街に侵攻してきたようだ。僕はアデルに逃げようと呟くと、走って宿の部屋に戻った。

「親方!帝国軍が攻めてきたそうです!逃げましょう!」

親方も窓から外の状況を見ていたようだ。軽く頷くと素早く身支度を始めた。アデルも急いで荷造りをしてる。僕は急いで外に置いておいた荷車を取りに行く。以前、アデルが教えてくれた事がある。僕らの今いるラズベリア共和国は複数の国々と隣あっていて、そのうちの一つがドルギア帝国という大きな国で、最近は軍事力に力を入れているらしく、不穏な動きも見せているとの事だった。ドルギアはラズベリアの北東に位置していて、カマリアの街はドルギアとの国境近くにあるのだ。でもなぜ突然ドルギアは攻め込んできたんだろう?とにかく巻き込まれるのはごめんだ。早く逃げよう。

僕は宿の入り口の前に荷車を止めた。そこに親方とアデルが次々と荷物を放り込む。

「よし!行くぞ!」

荷物を全部荷車に放り込むと、親方が叫ぶ。

僕はとんでもない重量の荷車を引き始める。アデルも後ろを押してくれているようだ。とにかく街の出口に急ごう。僕らは、火の手が上がった方角とは逆の方の街の出口へ急ぐ。周りを見ると、あたりは逃げる人がさっきよりだいぶ多くなっていた。火の手も一箇所ではないのだろう。だいぶ煙たい。その時、僕が引く荷車の前に、横から大きな何かが飛び出してきた。騎馬兵だ。槍のような物を持った全身鎧甲冑の男が大きな馬に跨り、横の通りから飛び出してきたのだ。その後ろにはまたさらに同じような騎馬兵が十人ぐらい続いてくる。カマリアの街の自警団だろう。掲げてる旗がカマリアの紋章だ。カマリアはドルギアと国境が近い。なのでラズベリアの軍だけでは心許ないと、街独自の警備隊をわざわざ雇って配備しているのだという。その騎馬隊は僕らの進行方向へ馬を走らせていく。その向かっていく遠い先に、煙に紛れて無数の蠢く何かが見えた。人ではない。何だあれは?動物?だが次の瞬間凍りつく。いや違う、魔物だ!魔物が街の中にいる!なぜだ?

「帝国の奴ら、魔物を放ちやがった!」

「くそ!人々を非難させろ!早く!」

いつの間にかすぐ後ろにも、鎧甲冑で身を固めた兵士が何人もいて怒号が飛び交う。こちらはラズベリアの国旗を掲げた兵士だ。何だって?魔物を放つ?街の中に?帝国軍とはそんな非人道的なことをするのか?とにかく逃げなければ!

「左!路地に入りましょう!」

アデルが叫ぶ。僕は荷車を左の方へ進行させようとしたその時、目の前の兵士が突然、仰向けに倒れ込む。体の上には黒い何かが乗っている。魔物だ!大きな犬のような黒い毛むくじゃらの化け物で、鋭く長い牙と爪があり目は炎のように赤い。そいつが兵士に飛びかかり馬乗りになっている。他の兵士が剣で斬りかかろうとすると、素早く飛んで後ろに下がる。なんて俊敏なヤツだ。普段は四足歩行だが、今は後ろ足二本で立っている。牙を剥き出し唸り声を上げている。その後ろにも数体同じ奴が見える。倒れていた兵士が起き上がり剣を構えた。僕らの後ろにいた兵士も次々と前に来て剣や槍を構える。まずい!巻き込まれた。完全に戦闘のど真ん中だ。この状況でこの大きな荷車を引いてこの場から逃げるのは難しい。この魔物はとんでもなく素早い。どうする?どうする?必死に最善策を考えていると、親方が僕の前にきた。手には大きなハンマーを持っている。逃げるのを諦めて、この兵士達とここで魔物を迎え撃つつもりか。確かに重い荷車を引いて下手に逃げ回るのは得策ではない。

「アストリアさん!これを!」

振り向くとアデルが何かを差し出している。大きな長い銀色の剣だ。以前、カマリアの街のはずれに住む老騎士から所有している剣の手入れを頼まれていて、手入れし終わった剣を明日届ける予定だったのだ。荷車に積んであった言わば『商品』だし他人の物だが、今は緊急事態だ。この際やむを得ない。しかしそれより何より、僕に剣が扱えるのだろうか。過去に勇者だったと言われたが、実感も何もないし何も思い出していない。しかしそんな事を言ってる場合でもない。振り回してでも何でもいいから、とにかくこの化け物を何とかしなければ。アデルも鍛冶屋で使う大きな鉄のハサミのような物を両手で構えている。よし!腹をくくってやるしかない。覚悟を決め剣を鞘から抜いて構えた瞬間、魔物達が一斉に飛びかかってきた。兵士達は剣や槍で応戦している。親方もハンマーを振り回して魔物を吹っ飛ばしている。凄い。さすがは元兵士。あたりは煙が立ち込めてきてよく見えなくなってきた。僕も剣を闇雲に振り回す。当たればいい。そんな感じだ。剣術なんて呼べる物ではなく、子供が木の棒を剣代わりに振り回しているといった感じだ。兵士の怒号と魔物の咆哮が飛び交う中、ただただ必死に剣を振り回していると。煙の中からデンゼルの親方が飛び出してきた。

「無事か!?」

「はい!大丈夫です!アデルは?」

そう、アデルが見当たらない。親方が飛びかかってくる魔物をハンマーで払いのけながら

「アデルを探せ!」

と言った。僕は頷くと、立ち込める煙を払うようにして剣を振り回しながらアデルの姿を探す。まわりには、兵士や街の人達が数人倒れている。いた!地面にアデルの足が見えた。膝ぐらいまでしか見えないが、あれはアデルの服だ。地面に仰向けに倒れているようだ。くそ!嫌な予感しかしない。

「アデル!」

僕が近づくと、アデルの体に魔物が馬乗りになっている。魔物は牙を剥き出しアデルに上から食らいつこうとしているが、アデルは大きな鍛冶屋用の鉄のハサミを両手で開いて魔物の口に押し当て下から耐えている。

「やめろぉ!」

僕は叫ぶと剣を振り回す。魔物の脇腹あたりに剣が当たると

「グアアアアアア!」

魔物が恐ろしい声を上げながら後ろに飛んで下がる。手応えはあった。だが魔物はものともせず、すぐさま飛びかかってくる。慌てて左に飛んで避けるが、あの爪の一振りをくらったらひとたまりもない。すぐにもう一撃。これもかろうじてかわす。駄目だ!こちらが攻撃できる余裕がない。何とかかわすので精一杯だ。連続しての素早い攻撃を必死に避けながら、とにかく相手の動きを止めようと剣を出す。くそ!止まらない!そろそろこっちの息が続かない!動き続けているので、呼吸が限界なのだ。少し動きが鈍った瞬間、足がもつれ体勢が崩れた。まずい!次は避けられない!逃さず魔物が飛び込んでくる。次の瞬間、アデルが大バサミを振り下ろし魔物の横っ面を捉える。助かった!アデルは助太刀の機会を伺っていたのだ。僕が体勢を崩した所に不用意に飛び込んだ魔物の顔を、横からの満を持しての一撃。魔物は地面に叩きつけられた。すかさず渾身の力で剣を振り下ろして魔物にトドメを刺す。魔物が動かなくなると、僕はそのまま座り込んだ。

「ハァハァハァハァ」

呼吸を整えるので精一杯だ。何も喋れない。アデルもその場で座り込んでる。疲れた。疲労困憊だ。魔物一匹倒すのにこの疲れよう。くっっ!あと何匹いるんだ?だがここで座っていても事態は変わらない。ある程度呼吸が戻ると、剣を杖代わりにして立ち上がる。アデルとは合流できた。デンゼル親方の所へ行こう。

「アデル、動けるか?」

アデルは軽く頷くと立ち上がる。擦り傷や切り傷だらけだが、ひどい怪我はないようだ。すると少し離れた所に、煙の合間から人影が見えた。デンゼル親方が跪いている。

「親方!」

僕とアデルが急いで向かう。親方は左手で右の肩を押さえて、地面に跪いていた。右手にはしっかりハンマーが握られているが、荒く呼吸をしていて血まみれだった。満身創痍。まさにそんな感じだ。

「親方!大丈夫ですか?」

アデルが近寄ってすかさず親方の肩を担ぐ。

「あぁ。心配すんな‥」

かすれたような声で親方が答える。頭からも血を流していて、押さえてる右肩からも出血が止まらない。多分、頭は爪でやられ右肩は噛みつかれたのだろう。アデルに肩を担がれながら、親方が歯を食いしばって立ち上がる。急いで手当をしなければ。せめて止血の応急処置だけでも。周りはまだ兵士と魔物があちこちで戦っている。くっ、まるで悪夢だ。夢なら早く覚めてくれ!そんな事を考えながら、僕らは戦いの間をすり抜けて建物の影に身を隠した。僕とアデルは自分の着ている服の端などを破り、親方の止血をした。幸い臓器などへの損傷はなさそうだし、これで血が止まれば何とかなりそうだ。僕は少し安心すると、周囲の警戒を始めた。

「もう荷物は諦めよう。とにかく街を離れないと」

僕が二人に言う。

「街の南へ抜けましょう。あっちにはカマリアの自警団がいる砦があるはずです」

アデルの提案だ。なるほど。なるべく味方が多い方へ逃げて、そのまま街の外へ出ようという事か。

「よし、行こう。建物伝いに南に向かえば、魔物と遭遇しないかもしれない。親方、動けますか?」

親方が頷く。僕は周囲を警戒しながら、先に歩き出す。親方の肩をアデルが担ぎ、二人が後に続く。建物の間を抜けて、うまく身を隠しながら南へ進んだ。幸い魔物と出くわす事なく、自警団の砦にだいぶ近づいた。砦はもう目と鼻の先だ。あとはこの大通りを抜けるだけ。僕は細い小道から顔だけ出して大通りの様子を伺う。大通りには人も魔物もいないようだ。その時、煙の向こうから誰かがこちらへ向かってくるのが見えた。誰かは遠くてわからないが、右足を引きずるように歩いていて、大通りを砦に向かっていた。煙が途切れた瞬間、見覚えがある服が見えた。ミリアだ!彼女も何とか無事だったのか。だがきっと怪我をしているのだろう。彼女は血まみれで、右足を引きずりながらこちらへ向かってくる。彼女も砦へ逃げ込むつもりなのだ。

「ミリア!」

僕は叫びながら大通りに飛び出す。だが次の瞬間、恐ろしい光景を目にする。足を引きずりこちらへ歩いてくる彼女の後ろから、さっきの魔物が数体走ってくるではないか。

「ミリア急げ!魔物だ!」

僕が叫ぶとミリアは一瞬振り返り、魔物の群れに気づき慌てて走り出す。が、足を引きずっているので早く走れない。いかん!間に合わない!僕は無我夢中でミリアに向かって走り出す。今の僕の力では、あの数を相手にするのは無謀だ。でもミリアが逃げる時間稼ぎをしなければ!砦は近いから兵士もどこか近くにいるはずだ。

「アストリアさん!」

アデルの声が後ろからする。

「アデルと親方は砦へ!」

僕は叫びながらミリヤに向かって走る。後少しでミリアの所へ辿り着く。だが次の瞬間、僕は体の左半身にとんでもない衝撃を受けて真横に吹っ飛んだ。何が起こったんだ?僕は左肩にとんでもない激痛と、吹っ飛んだ衝撃で体を地面に打ちつけた激痛で悶える。どうやら走っていた僕の左側から、魔物が爪の一振りをくらわしてきたようだ。その魔物は他の魔物と同じ黒い毛むくじゃらの犬のような魔物。ただ、そいつは他の奴より一際体が大きかった。

「ぐふぅぅ‥」

僕は呻き声を上げながら、何とか起きあがろうとする。左肩から血が滴り、体がふらつく。動け!動かなければ!今は早くミリアを安全な場所に避難させなければならない。僕はミリアの方を見た。だがそこには地獄のような惨劇が広がっていた。

複数の魔物が背後からミリアの肩やら腕やら身体中に食らいつき引きちぎっていた。血まみれで叫び声を上げているミリアと僕は目が合った。絶望の目だった。魔物達は構わず喰らい付き、そして彼女は目を見開いたまま動かなくなった。

その瞬間、僕の心の中で何かが音を立てて切れた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

叫び声を上げて剣を鞘から抜くと魔物たちに切り掛かる。ふざけるな!ふざけるな!絶対に許さない!死んでも構わないっ!こいつらを一匹残らず切り捨てる!

僕は抑えようのない怒りで剣を振り回す。

ミリアが一体何をした?なんで罪もない人がこんな死に方をしなければならない?ありえない!ふざけるな!

だが魔物たちは、怒りに任せた大振りの剣筋を難なくかわすと、素早く波状攻撃を仕掛けてくる。全身を爪や牙で引き裂かれる。血が吹き出し思わず動きが止まった所へ、あの体の大きな奴が右手の爪を大きく振り下ろしてきた。強烈な一撃。まるで大きな丸太で殴られているような衝撃だ。さらにもう一発が振り下ろされる。僕はたまらず仰向けに倒れる。魔物が僕にトドメを刺しにゆっくりと近づいてくる。全身が激痛で痺れている。もはや感覚がない。当然、力も入らない。くそ!ここまでか。意識が朦朧とする中、覚悟を決めたその時だった。

「待て!」

聞き覚えのない声が響いた。すると煙をかき分けるように、全身黒い鎧甲冑を身につけた騎馬兵が数騎現れたのだ。黒い魔物達は、まるでそいつらに飼い慣らされているかのように、途端に大人しくなり道を開ける。と、先頭にいた黒い騎馬兵が馬を降りると、倒れてる僕の近くへ歩み寄ってきた。そして腰から鞘に入ったままの剣を取り出すと、剣の先を僕の喉元に押しつけた。

「ぐ、ぐうぅぅぅ」

苦しくて呻き声が出る。と、急に剣先の力が緩む。すっと下に下がり首元にある首飾りを剣先で持ち上げるような仕草をした。すると

「貴様、アストリア・バーンシュタインか?」

黒い騎士が低い声で僕に尋ねる。バーンシュタイン?僕はアストリアという名前しか思い出せなかった。僕の正式な名前はアストリア・バーンシュタインというのか?この騎士は僕の事を知っているのか?ミリアもそうだが、この首飾りで皆僕だと気づいている。僕は何とか声を出そうとしたが、声は出そうにない。

「そうだ!」

アデルの声だ。アデルが代わりに答えてくれた。結局、アデルとデンゼルの親方は砦へ逃げずに、すぐ後ろにいたのだ。僕とミリアを置いて砦に行く事は出来なかったらしい。もうすでにアデルとデンゼルの親方は黒い騎士達に取り囲まれていた。

「グハハハハハハハ」

突然、僕のそばに立つ黒い騎士が笑い出す。

「西の大陸の勇者ともあろう者が、こんな所で一体何をしているのだ?」

黒騎士が小馬鹿にしたような言い方をする。すると黒騎士の後ろから別の騎士が近づく。

「コーネリアス様、砦はほぼ制圧したようです」

コーネリアスと呼ばれた黒騎士は、僕の首飾りから剣先を外して腰に剣を戻した。

「そうか。わかった」

そしておもむろに兜を脱いだ。白髪混じりの長い黒髪を綺麗に後ろに束ねていて、切れ長の鋭い目が冷たい光を放っている。初老の歴戦の騎士といった感じか。立派な髭をたくわえている。

「これより例の物の捜索に入ります」

後ろの騎士が報告を続ける。

「ふん。わしはヤツを信用しておらん。形だけ捜索したらすぐに退くぞ。嫌な予感がする」

コーネリアスが答える。

「この者はいかがいたします?」

騎士がアストリアを顎で指して聞く。

「そうだな。何かと使えるかもしれん。牢にでもぶち込んでおけ」

少し考えた後にコーネリアスが答えると、後ろの騎士が続けて

「あちらの二人は?」

と聞いた。アデルとデンゼル親方の事だろう。

「必要ない。切り捨てよ」

吐き捨てるようにコーネリアスは言うと、その場から踵を返して立ち去ろうとする。

何だと?今なんて言った?切り捨てよ?殺せと言う事か?親方とアデルは僕の恩人だ。返しても返し切れない恩がある。ミリアだけでなく、親方とアデルまで失う訳にはいかないのだ!動け!体を動かせ!二人を守らなければ!

僕は意識朦朧とする中、最後の力を振り絞り全身に力を入れる。傷という傷から血が吹き出し、激痛が走り身体中が悲鳴を上げている。足がガクガクと震えながらかろうじて立ち上がると、黒い騎士達が剣を抜きながら二人に近づいていくのが見えた。くそ!動け!動け!足がもつれるように倒れ込みながら、僕は騎士達の前へ回り込んだ。

「なんだ貴様!」

二人に斬りかかろうとしていた黒騎士達が叫ぶ。

「アストリアさん!」

アデルも叫ぶ。僕はその場でゆっくりと両手を広げながら立ち上がる。もう体は動かない。立っているのも辛い。剣なんて握ることすら出来ない。だが二人を殺させる訳にはいかない。斬るなら僕も一緒に斬ってくれ。僕は両手両足を広げて立った。もうこれ以上は何も失いたくない。今日、この街で沢山の人が命を落とした事だろう。昨日までいつもと同じ平凡な日々を送っていたのに、それが突然奪われてしまう。こんなに悲しくて理不尽なことはない。もう沢山だ!僕はしゃがんでいるアデルとデンゼル親方に覆い被さった。騎士達が僕をどかそうとする。僕は腹の底から声にならない唸り声のようなものを上げて、必死に二人に覆い被さる。どかされたら、即座に二人は斬られてしまう。僕は必死の抵抗を続けた。

「もう良い!止めよ!」

離れた所から声が響く。騎士達が振り向くと立ち去りかけていたコーネリアスがこちらを見ている。少し見下したような目線だ。

「全員、牢にぶち込んでおけ!」

鋭く言い放つと、踵を返しその場を立ち去った。僕はその瞬間、体の力が抜け糸が切れた操り人形のように、その場に崩れ落ちた。

「アストリアさん!しっかりしてください!」

薄れゆく意識の中、アデルの声が響く。よかった!アデルと親方は助かったんだ。少しだけ安堵した僕はあっという間に意識を失っていった。




 


コーネリアスと部下達は砦の中にいた。自警団は壊滅。まだ数人が砦内で抵抗しているが時間の問題だ。ラズベリア軍はすでに撤退したようだ。

「意外と呆気なかったな」

コーネリアスが少し満足そうに言う。

「さっきのあの者は‥」

後ろの部下がアストリアの事を聞く。

「うむ。西の大陸の勇者だそうだ。何年か前に西の大陸で魔王ルーファウスが討伐され、その祝賀式典が行われた時に我が皇帝陛下も国賓として招待されてな。わしも護衛の一人として同行した時に、挨拶をしているのを見かけてな。あの首飾りを見てもしやと思ったのだが、まさかあんな風に落ちぶれているとは」

コーネリアスが砦の中を見渡しながらさらに続ける。

「‥皇帝陛下も最近すっかり変わってしまわれた。『あのような者』を作戦参謀に任命するなど‥。今回の指令も、魔物の同行やら、得体の知れないものの探索やら、腑に落ちない点が多い」

「とにかく魔力を帯びている物を探せ、との事ですが‥。見た目だけで魔力を帯びてるのか、我々にわかるものなんでしょうか?」

部下が聞く。

「いや我ら一般の人間には見た目ではわからん。魔力を帯びていそうな物を片っ端から集めておけとの事だ。あとで『あの者』が来て自分で判断するんじゃろう」

コーネリアスが眉間にシワを寄せて言う。

「わかりました。では早速それらしい物を集めて参ります」

「うむ。頼む」

会話を終えると部下の騎士達はその場をあとにする。

「‥‥魔装具か‥」

ただ一人残ったコーネリアスは少し遠くを見つめた。





 

 


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