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森の鬼ごっこ

テクニカルシティの隣森は、動物やモンスターが多く生息する場所だ。科学が発展した街と隣接しているとは思えぬ美しい自然が特徴で、多くの人々の憩いの場となっている。

そんな中、特段不思議な存在が暮らしていた。


ピンクのフンワリとした柔らかい髪、黄色いハートの髪飾りとクローバー型の髪飾り。黄色い着物を着た幼い女の子が歩いていた。

その風貌はどう見ても人間の子供そのものだが、彼女もまた、人間とは少しばかり異なる存在、森の一族クローバー族の、四葉だ。

四葉は楽しそうに、ジョウロで森の花に水をやっている。

鼻歌を歌う彼女のもとに、一つの異形の影が近づいてきた。


「四葉、今日も頑張ってるな」

丸く、大きな一頭身の怪物だ。頭頂部からは木が生えており、体の各所に草を生やしている…まさに森の怪物。

四葉はその姿に少しの恐怖も抱かず、笑顔で答えた。

「森の主さんこんにちは。今日もお花は元気です!」

両手を広げる四葉の姿は微笑ましい。森の主も、その強面な顔つきに穏やかな笑みを浮かべた。

今日の四葉は妙に機嫌が良い。それとなく、何か良い事があるのか聞いてみようとしたのだが…聞かずとも、四葉の方から教えてくれた。

「今日はれなさんが森に遊びに来てくれるんですよ!」



…それを聞いた森の主は、ピクリと震える。

「な、なん…だと?れなが…」

冷や汗をかく森の主。

れなの存在を妙に恐れているような様子だった。

ぎこちない動きをしながら、次の言葉を考える森の主。しかし…彼に平穏は訪れない。


「あっ、れなさんが来ました!」

目を輝かせる四葉。その視線の先には…凄まじい勢いでこちらに向かってくるれなの姿があった。

その目はギラギラと眩しい程に輝いている…というより、本当に光を放ってる。足は今にも転びそうな勢いで駆け抜けており、大地を踏み荒らしている。

「四葉ぁぁぁぁ!!久々に会えて嬉しいいいいー!!!」

四葉を抱き上げ、頬ずりするれな。その時、周りからも動物たちが集まり、騒がしいれなに群がる。

れなは楽しい事はとことん楽しむタイプ。しかしながらこのように過剰に騒がしくなる事もしばしばあるのだ。

森の主はこのテンションが苦手だった。それに、森の主という立場上、他の住人が歓迎してるのに自身が無視している訳にはいかない。

渋々、森の主はれなに歩み寄る。

「まあ、来てくれるのは嬉しい。一応」

「一応って何?アタシ、今日はこの森で大暴れしようと思ってるんだ!!」

大暴れ…嫌なワードだ。しかもれなの横では四葉が期待に満ちた顔を輝かせてる。


「その大暴れとは…森の皆で鬼ごっこをする事だー!!!!」

れなが叫ぶと同時に、周囲の動物達は一斉に散らばりだした!!まるで事前に打ち合わせでもしていたような勢いだ。

れなが鬼となり、皆を追いかけ始める。特に捕まえる標的も決めず、呑気に、何も考えずに追いかけ回す。彼女らしいやり方だ。

「まあ、楽しむのは良い事だ」

森の主は両腕を組んでそれを見守るが…。


れなは、森の主の足に手を置いた。

「何突っ立っとんねん。森の主も逃げるんだよ」

え、と間抜けな声が出てしまう森の主。れなは既に逃げ始めていた。今度の鬼は森の主なのだ。

「ち、畜生、他の森との示談交渉があるというのに!待てええ!!」

さっさと終わらせよう、初めこそそんな思いのまま、皆の後を追いかけていくのだが…。




「また俺が鬼か!?」

しばらく遊び続けるうちに、楽しくなってくるものだった。あれだけ鬱陶しかったれなも、今では良い相手となっていた。

そんなこんなで時間は過ぎていき、あっという間に一時間が経つ。

「なあ、もう一ラウンドしようぜ!」

…一番大人である森の主が、一番はしゃいでいた。れなや動物達は木陰に腰掛け、すっかり息を切らしている。もうこれ以上は走れない。

そろそろやめ時だ。森の主も大人しく引き下がろうとしたのだが…。



「皆さーん!大変です!」

四葉の声だ。見ると、何やら焦った様子の四葉が手を振りながら駆けてくる。

れなは立ち上がり、動物達の前に出た。

四葉は叫ぶ。

「森の…森の大切な樹の実が盗まれました!」



その犯人は…森の出口目掛けて駆け抜けていた。球体から手足を生やしたようなその姿は、以前れな達が捕えた泥棒だ。

しかも彼一人ではない。同じような形だが、緑色の草に覆われた姿の泥棒が、森の風景に溶け込みながら走っていた。その草まみれの泥棒は、相方の泥棒に早口で話しかける。

「おい泥棒マルマン!実を盗んでるところをガキに見られたぞ!」

「へへ、心配するな森泥棒!たかがガキだ。そう簡単に泥棒の犯行現場を報告できる訳がない!」

何を根拠に言っているのだろう。勿論、泥棒マルマンのこの推測は外れる事になる。


「おい!あいつら追ってきたぞ!!」

更に早口になる森泥棒。振り返ると、森の主とれなが草を散らしながら、鬼の形相で追いかけてくる!!特に森の主は、神聖な森で盗みを働いた二人への憎悪に満ちた覇気溢れる顔だった。満面にシワを寄せ、頭から伸びた木も激しく揺れている。

「あれ捕まったら殺される勢いだぞ!!?やばいやばい!!」

闇姫への捧げ物として樹の実を沢山盗み出す…この計画を発案したのは泥棒マルマンの方だ。森泥棒は、こんなやつに付き合ったばかりにこんな思いをする事に深く後悔していた。

走り抜けながら、泥棒マルマンはにやりと笑う。策があるらしい。

「心配するな。俺には秘密兵器がある!それは…これだ!」

そう言うと、自身の懐から一本のナイフを取り出し、背後に投げ飛ばす!




…が、ナイフはれなにも森の主にも当たらず、明後日の方向へ虚しく飛んでいくだけだった。

「なーにやってんだよ!」

徐々に距離を詰められ、いよいよ逃げ切る事はできないと判断したのか、二人は止まり、逃げ方を変える事に。

れなと森の主もまた、立ち止まる。


泥棒マルマンは得意げに短い手を突き出し、宣戦布告。

「ふん!実は俺はこう見えてボクシング世界チャンピオン!お前らにこのパンチを喰らわしてやるぜ!くらえ!」

その一言と同時に繰り出してきたのは…ただの猫パンチ。

れなは無慈悲にも小指だけで受け止め、指の力だけで泥棒マルマンを地面に叩きつけ、埋めてしまう。

呻きながらダウンする泥棒マルマン。口ほどにもないとはこの事だ。次はお前だとばかりに、れなは指を森泥棒に向けてみせた。

この調子では森泥棒も瞬殺かと思われたが…こいつはそう甘くはいかないようだ。

「ふん。お前らに勝つつもりはない。逃げが泥棒の鉄則だ」

今れな達に無謀に立ち向かった泥棒マルマンに吐き捨てるように語る森泥棒。


直後、彼は近くの茂みに飛び込む!

「ん!?」

れなは目を凝らす。森泥棒の草に覆われた姿が茂みに保護色し、そのまま姿を消してしまう。

それに、単に隠れただけではない。確実に森泥棒は素早く動いてるはずなのに、草一本動かないのだ。

あちこちを見渡すれな。とりあえず虱潰しでも森泥棒が潜んでそうな場所に拳を打ち込もうとしたが、森の主がそれを止める。

「待て。そんな事をしてたらますます隙ができるぞ。ここは一旦落ち着くんだ」

そんな二人を嘲笑う森泥棒の声が辺りに響く。

「フハハハ!どうやら俺がどこにいるか分からないようだな!」







…れなは声がした方向に飛び込み、拳を振り下ろす。

…声を出したせいで、居場所がバレてしまった。


「ぎゃあああー!!!!!!」

森泥棒は炙り出され、懐から樹の実を撒き散らした。






樹の実は無事回収され、森の動物達は大喜び。森の為に活躍したれなは大いに讃えられる。勿論森の主も、動物達の更なる信頼を得る結果となった。

「さあ、一段落ついたところで鬼ごっこもう一ラウンドしようぜ!」

森の主のテンションは、完全に上がりまくっていた。


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