太った山賊、ブッチョ
「なに?ワンダーズが動き出した?」
ある山奥の洞窟…悪党のアジトにて。
多くの部下達を左右に並べた巨漢が、玉座に座っていた。その重量感の塊のような体は、玉座にかなりの圧力を与えていた。赤い立派な玉座は今にも壊れそうになっている。
その巨漢の前で膝をつく部下は、実に不愉快そうな顔をしていた。その巨漢の傲慢な態度ではなく、これから報告する事への嫌悪感に溢れていた。
「はい。粉砕男が帰還した事でワンダーズは戦力が揃いつつあるようです。やつらは我々盗賊にとっては最大の敵!早いところ始末するのが賢明かと」
巨漢はゆっくりと立ち上がる。その大きな影が、部下達を覆う。
巨漢が一歩踏み出す度に、地面に足跡が刻まれる。暗い洞窟の中、その姿はまるで怪物のような存在感だ。
「ふん。ワンダーズごとき、このブッチョ様の座布団にしてやる!」
そして場面は変わり…テクニカルシティの隣森にて。
石が無数に並ぶ広場にて、れな達ワンダーズは修行に明け暮れていた。
れな、れみ、葵、粉砕男の四人が、石をかわして動き回り、戦闘をシミュレーションしていた。肉体だけでなく、脳内の想像力も鍛える事でより戦闘に専念しやすくするのだ。
葵がれなに指示を出して、彼女を惑わしている。
「はい!ここで敵がパンチを繰り出してきたと思って!」
それを聞くなり、れなは両手を構えて拳に対する防御姿勢をとる。葵はその上品な声にテンションを上乗せして、脳内の戦いを実況していく。
「おーっと、ここで敵、蹴りを繰り出した!」
れなは腕を振り下ろして、蹴りに対する防御姿勢。彼女の動きを見た葵は更に予想外の事を言ってくる。
「うわー!敵が銃を取り出した!」
「な、なら、ここで頭上をとるぞ!」
懸命に飛び跳ねるれな。葵は容赦しなかった。
「あー、撃たれた!凄い威力の銃だわ!れなの首が吹っ飛んだー!!!!」
葵の気分次第で全てが決まる…このシミュレート戦闘では葵は神より高い存在だ。あまりの理不尽ぶりに、れなはバランスを崩して転んでいた。
二人の横では粉砕男とれみが殴り合い、互いの動きを読み合っていた。粉砕男は力、れみは素早さに特化した戦士。全く異なるスタイルを知り合うのも修行の内だ。
そんな修行が続く、騒がしい一日。日光が森の木々の隙間をくぐり抜けて地上に照射されていた。
そんな何気ない時間の中…突如森に地響きが響き渡る。
れみが真っ先に反応し、周りを見渡す。
「え、地震!?」
その地響きは何度か森を揺るがしたが…次第に、轟音が近づいてきてる事に気づき始めた。
間違いない。生物の足音だ!
…そして、足音の主が茂みを掻き分けながら現れた。
脂肪でその身を包みこんだ大男…盗賊、ブッチョだ!
「よお、ワンダーズ。噂には聞いてるぜ。街を荒らすモンスターと戦ってる正義のヒーロー気取りの連中だとな。そんなお前らを…このブッチョ様の座布団にしてやるぜ」
ポカン、と目を丸くする四人。いきなり現れていきなり何なのだと、困惑しっぱなしだ。一方のブッチョは彼らの困惑顔を見て得意げに胸を張る。
ブッチョは両の拳を合わせてファイティングポーズ。その姿で、ようやく挑戦者である事を理解する四人。
粉砕男が三人の前に出て、ブッチョの前で腰を落とす。その姿は、まるで石柱のような重みに溢れていた。
粉砕男はブッチョの体型を見る。楽な暮らしをしてきたのだろう、それまで食らってきた贅沢な料理が姿を変えて肉体に張り付いてるようだ。
あちこちに脂肪がついたその太り方は、力士のような整った太り方とは真逆。正直強そうではない。
粉砕男は油断しない男だが、どうしても「弱そう」という先入観が彼の脳裏によぎる。
そんな彼の思考をブッチョは彼の考えを読む。
「ふへへ、お前俺を見かけで判断したな?その甘い思考…!俺の計算通りだ!」
何、と粉砕男が言いかけた時、ブッチョは構えを取る。
すると…彼の体から魔力が吹き出し始めた!その魔力はブッチョの体の隅々まで行き渡り、皮膚、筋肉を硬化、体脂肪は次第に皮膚と同化していき…。
何という事だろうか。だらしなかったブッチョの肉体は、鎧のような筋肉に覆われた逞しい姿となった。それを見た葵が叫び声をあげる。
「うわーっ硬そうな筋肉…!ドクロちゃんが見たら大騒ぎするわね!?」
ブッチョはわざとらしくポーズをとって筋肉を誇張。対する粉砕男は冷静さを保ち続けてる。
ブッチョは両手を振り回しながら粉砕男へ直進していく!
その勢い、パワーは、まるで土砂崩れの勢いだ。粉砕男は何とか踏みとどまるが、何発も食らえば危ういだろう。
あの巨体であの動き…頭上をとるのが賢明だろうか。
粉砕男の巨体が高く跳ね上がり、ブッチョの頭上をとる!
「ふん、見え透いた戦法だ!!」
ブッチョは地を蹴って空中の粉砕男に体当たり!粉砕男は空中から引きずり落とされ、地面に激突。草と泥にまみれてしまう。
膝をついて立ち上がろうとする粉砕男に、ブッチョは更に体当たり!転がりながら木に直撃する粉砕男。
れなが彼に一声かける。
「大丈夫?代わろうか?」
「いや、大丈夫だ。やつの攻略が見えてきたぞ」
ふらつきながらも、尚余裕を保ちながら立ち上がる粉砕男。目の前のブッチョは勝ち誇った笑み。もう既に自身の勝利を確信してるらしい。
だがその笑みも、粉砕男のある予測を確証付けるものとなっていた。
「もう一度攻撃してみろ!」
粉砕男は両手を構える。ブッチョは挑発にのり、更なる突進を仕掛けてくる!激しい足音が荒れ狂うなか、粉砕男の手にぶつかろうとするブッチョ!
が、粉砕男は当たる寸前で身をかわす。勢い余って転倒するブッチョ。
「…っ!野郎!!戦いで攻撃をかわすなど卑怯だぞ!」
更に突進してくるブッチョ。軌道を読んだ粉砕男は先程より軽快な動きで回避する。またもや地面に顔から突っ込むブッチョ。
「ぐ…」
泥まみれの顔のまま、ブッチョは立ち上がる。息を切らす彼に対して、粉砕男は言う。
「さてはお前、その体質に甘んじてまともな戦いをした事がないな?単純な突進ばかりでまともな拳法を使わない」
いかにも悔しげな顔のブッチョ。図星のようだ。それを突かれた事がプライドに障ったのか、更に勢いをつけて突っ込んでくるが…!
もはやかわす必要もない。粉砕男は深く踏み込み、真正面から拳を振り上げてみせた!
ブッチョの腹筋に直撃…ブッチョは悲鳴をあげる間もなく気を失い、全身の筋肉がたるみ、柔らかく垂れ下がっていく。
元の姿に戻り、地面に倒れ伏した。
「お見事、粉砕男」
葵が彼に拍手を送る。粉砕男はブッチョの情けない姿を見下ろし、ため息をついた。
「こいつ、きっと部下にばかり戦いを押し付けてたんだな。ならないとは思うが、こいつみたいにならないように修行再開だ!」
やる気は十分だ。その日も残りの時間を修行に費やしたのだった。
山賊キャラって好きなんですよね