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粉砕男の下山騒動

ある山奥にて。

盗賊達が、木々に隠れながら獲物を探していた。

風が吹き、木々が揺れ動き、山は神聖な雰囲気に包まれる。しかし、盗賊達の悪意は揺らぐ事はない。

むしろこの風に血の臭いをのせる気でいたのだ。自分達のターゲットとなった、哀れな「犠牲者」の血の臭いを。


「おい、来たぜ」

一人の盗賊が、小さな声で呟く。


山道を歩いてきたのは…大柄な男だ。

その筋肉の質感は…岩や鋼をも彷彿させるようなあまりにも逞しいものだ。その筋肉に覆われたボディは、日に焼けて黒く焼けている。筋肉を収納する皮膚も岩盤のように硬く、そして分厚そうなものだった。

目は白目を剥いており、人間ではない事が分かる。モンスターだろうか…?いや、それとも違う。

その大男は盗賊の包囲の中、彼らに目もくれずに山を下りていった。



「…何だよあの大男は…!」

盗賊達は青ざめ…手に持つ短剣を落としていた。




場面は変わり、テクニカルシティ。


建物が並ぶ中、れなとれみは事務所の庭を掃除していた。

箒とチリトリを壁に立てかけ…何故かわざわざ素手で落ち葉を拾っている。

れみが小さな手で落ち葉を拾い、

「信じられるのは己の手だけ!お姉ちゃんもそう思うよね?」

「勿論だとも、どちらが落ち葉を多く拾えるか勝負だ!!」

落ち葉も沢山落ちているのだが、それ以外にも風で転がってきた空き缶や新聞紙も転がっている。それなのに、二人は落ち葉しか拾わない。

ラオンがデッキに座りながら声を掛ける。

「おーい、落ち葉縛りするなよ…」

二人の落ち葉競争は始まったばかり。凄絶な落ち葉拾いが始まろうとしていたが…。



「皆ー!良い知らせがきたわ!」

ドクロが、事務所の中から声を掛ける。振られてる手に握られているのは一枚の紙。

あれは…手紙にようだ。

ドクロの顔は妙に嬉しそうだった。口角が上に向かってつり上がっている。


その手紙は、れなたちの仲間、粉砕男からのものだった。

今粉砕男は山に修行に出ている。しばらく事務所に顔を出していなかったが、どうやら彼が帰ってくるらしい。

ソファーに座りながら、ドクロはニヤけている。

「うふーふー…粉砕男に久々に会える…へへへへ…」

彼女は粉砕男に恋心を寄せているのだ。彼女の横では、テリーが不愉快そうな顔をしている…。妹を渡したくないのだろう。


だが、ただの帰省予告でもなさそうだった。

手紙の一番下に、深刻な文章が書かれていた。ドクロの顔が一変する。

「ん!?これは…!?」



どうやら山から帰る途中、厄介なモンスターに絡まれ、彼一人ではどうにもならないので助けに来てほしいらしい。

彼のヘルプメッセージに、メンバーは応える事になった。

彼がいる山はテクニカルシティから少し離れた距離にあるが、飛行すればすぐそこだ。

家々やビルをすっ飛ばしていけるので、飛行能力は何かと便利だった。

「さあ、行くぞ!!」

れなを先頭に、皆は山へと飛んでいく。




目的の山についたのは午後二時頃。

そこは、特に変わった所もない平和な山だった。しかしここにモンスターがいるというのだ。

草むらが生い茂る中、皆は山道を歩いて山登りを開始する。

「足元に気をつけないとね…」

葵が周囲に気を配る。草同士が互いに擦れる音が時々聞こえてくる中、テリーが地図で粉砕男との合流地点を確認していた。

「えーと、ここから北か。もうすぐだな」


…その時、草むらから騒がしい音が聞こえてきた。

皆の肩に力が入る。その音は草むらの中を泳ぐように進んでいき…。


…小さな蛇が現れた!

山のモンスター、ミニスネークだ。

ミニスネークは気が立っているようで、皆を見上げるなり舌を出して威嚇してくる!

「くっ!」

葵はハンドガンを構え、発砲!小さな弾がミニスネークにぶつかる!

その弾は、威力を大きく落とした、本来威嚇用の弾丸だった。ミニスネークは大きな怪我はなく、驚いて逃げていった。

難は一旦去った。進行を再開だ。


それから合流地点に近づくにつれ、草がだんだん無くなってきた。人工的に草が撤去されているのがよく分かる光景だ。

少し開放的な感覚に身を投じながら歩いていくと…木々の隙間に大きな人影が見えてきた。

あれは…間違いない。粉砕男だ。

「粉砕男ー!!」

れなが手を振りながら走っていく。その声に反応した粉砕男は、素早く振り返り…。


「待て!!来るな!!」

激しい声で、れなを静止した。

驚き顔のれな…。


その直後、彼女の目の前に棘だらけの岩が落ちてきた!

今止まってなければ、頭上にこれが直撃していただろう。

一同は周囲を見渡す。


実は、草に隠れた盗賊達がこちらを取り囲んでいたのだ。

茶色い革の服を着た男達が、ナイフや棍棒を手に、ジワジワと接近してくる。

「筋肉野郎だけでなく、その仲間まで登場とはありがてえ…」

盗賊達を睨みながら、ラオンが粉砕男に言う。

「おい、粉砕男。こいつらに苦戦してたのか?でもこいつらはモンスターじゃなくて人間に見えるが」

粉砕男は分厚い両手を振って否定する。盗賊がすぐそこにいるとは思えぬ、何というか、緩い雰囲気だった…。

「いや違う!こいつらは違うんだよ!俺が苦戦してるのは」



…盗賊達の敵意に囲まれるその場に、また一つの影が現れた。

茂みを掻き分けて現れたそれは…人間の老婆と似た姿をしたモンスターだった。

にこやかな笑みだが、頭から角が一本生えている。その姿は人間と近しくも、人間とはまた違う違和感があった。

その見た目によらず、和やかな雰囲気を持つモンスターは、粉砕男に話しかけてきた。

「あらあら、そんなに急いでどこ行くんだい?」

その声を聞いて、葵がとっさにこう叫ぶ。

「あっ!そいつは『喋り婆』!とにかく話好きなモンスターよ!」

喋り婆は周りにいる盗賊が見えていないかのように、粉砕男にひたすら話しかけている。しかもその話の内容は、今日の天気だとか、昨日森で会った動物の様子だとか、今日何回風が吹いたかとか、返答に困るものばかり。実際、粉砕男は適当に相槌を打つくらいしかできない。

「この婆さんに声かけられて…帰れないんだよ!!」

喋り婆の隙をついて話す粉砕男。

隙だらけの一同に盗賊達は近づいてきて…武器を手に、一斉に飛びかかる!

草が周囲に散る中、盗賊達が降ってくる!彼らは落下の助走を使って、より勢いをつけて攻撃を仕掛けようとしてくる。

落ちてくる前にれなは蹴りを

、れみは頭突きを決め、ラオンはナイフに紫電を纏わせて一斉に広範囲を切り払い、葵はは目にも止まらぬ発砲で彼らを撃ち落とす!

ドクロとテリーは喋り婆を説得しようとしてるが、婆は全くこちらの話を聞かず、自分の話題を進めるばかり。


気絶した盗賊達が地面に落ちる中、リーダーの盗賊がれなの前に立つ。一際大きな剣に陽光を滑らせながら、盗賊らしからぬ流れるような動きでその剣を向けてきた。

「ふっ、俺達を相手にここまで抗うとは中々腕が立つな。俺の流籐(りゅうとう)刀術、これを見せる相手が来ようとは」

剣を振りかぶるリーダー。その動きは、並の盗賊の比ではない。

「この剣術で俺は巨人族の精鋭、悪魔の英才、魔王軍1の最強剣士…数々の敵を倒してきた。貴様ごとき、この歴戦の剣の前では敵ではないわ!」

明らかに盛っている…。しかし今は突っ込んでる場合ではない。

剣の先端が一瞬光り、その直後、リーダーは剣を振り下ろしてくる!

れなは何とか回避するが、れなの後ろの岩が真っ二つに叩き切られた。岩の残骸を見下しながら、リーダーはニヤリと微笑む。

「日光の魔力で切れ味を更に高めるこの刀術。昼間の俺は最強だ!」

更なる一撃を決めてくるリーダー!だが、何度も同じ攻撃に引っかかるれなではない。

「…はっ!!」

気合のある掛け声と同時に、拳法の足取りを活かしてリーダーの間合いに入り込み、体を屈めてリーダーの脇腹付近へと拳の狙いを定める。

リーダーはれなの素早い動きに対処できず、隙ができた。ここだ!


れなは拳をリーダーの脇腹に直撃させ、衝撃を与えた!

リーダーはか細い息を吐き…あっさりと気絶した。

両手を叩いてため息を付くれな。

「はあ。いっちょう上がり」


粉砕男に駆け寄る皆。隣では相変わらず喋り婆が話し続けてるが、一応害はなくなった。

申し訳無さそうに頭を下げる粉砕男。

「ありがとう皆。助かった。一緒に事務所に行こうか」

粉砕男は、隣の喋り婆にもちらりと視線を移した。

「…あんたも行くか」

「良いのかい?若い子は優しいねえ。じゃあお言葉に甘えさせてもらうわ!」

皆は横に並び、仲良く話しながら山を下っていった。





しかし、予想通りというか何というか…。



「誰かこの婆さんなんとかしてくれー!!!!」

「お婆ちゃん今作業してるのおおお!!」

「おおおいそれはアタシのパンツだー!!!!」


お喋りなだけでなく、好奇心もある喋り婆。

事務所には様々なトラブルが起き、阿鼻叫喚の叫びが事務所に響いた…。



粉砕男はパワーならワンダーズ最強です

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