鏡騎士
テクニカルシティは昼も夜も忙しい街だ。そこらかしこで人々が様々な用事で動き回り、目まぐるしく人混みの色合いが変わる。
そんな街でも、月が天高く登る深夜はひっそりと静まり返っている。夜は家にこもる時間。人々の本能に、そう刻み込まれているのだ。
そんな深夜の闇の中に、月明かりを受けて輝く何かが置かれていた。
ゴミ捨て場に寄り添うように置かれた異様に綺麗な物。それは鏡だ。
暗黒に閉ざされた天空を映し出す鏡。その異様な輝きの通り、これは普通の鏡ではない。
…鏡は突如、激しく震えだし…人知れず、一際強い光を放出した。
その光から…ある巨影が現れた。
「れな!大変よ!」
翌日…。
何事もなかったかのように陽の光が呑気に地上を照らし出す朝方の時間。事務所にドクロが駆け込んでくる。
れなはソファーに座り、慌てたドクロとは全く対照的な様を見せている。
「何ね、ドクロちゃん」
れなははじめこそ呑気ではあったが…。
…外に出て、いかに不思議な事態が起きているのかを理解すると、その余裕はすっかり消え去った。
まずおかしいのは周囲の光だ。そこら中の建物という建物から光が射出されており、まるで無数のライトのよう。
何より…街の人々の姿だ。
一見特に変わらないように見えるが…よく見ると、服のプリントが不自然な見た目になっている。通常の模様を左右反転させたような…ファッションの一つだとしても、街の人々全員が着用するのは、あまりに不自然な格好だ。
呆然としてるれなに、一人の見知らぬ青年が話しかけてくる。
「いかきんげ、あや?」
「え?」
…こんな訳の分からない事を言われては、肝の座ったれなも上手く反応できない。
街がおかしくなっているのだ。ドクロが朝起きたらこうなっていたのだという。
幸い他のワンダーズメンバーは無事のようだが、明らかな異常事態に皆は混乱している。
実害こそないが、道を歩いていると周りの人々のおかしな会話が耳に入ってくる。このままではこちらの精神が持たない。
「一旦隠れよか…」
ドクロがれなを連れて、適当な路地裏に入る。
薄暗く、ゴミの臭いが所狭しと立ち込める路地裏。嫌な場所だが、ここなら人は少ない。
とりあえずここで、これからどうすべきか相談しようとする…。
「あれ、ドクロちゃん見て!」
ある物を見つけたれなが指を指す。その先には、鏡が落ちていた。
鏡を手に取るれな。その異様に磨かれた鏡には、れなのとぼけた顔が映ってる。
「うーんやはり私は美しい。これ以上の美しさはない。世界を破壊してしまうレベル」
「そんな事言ってる場合?てゆうか、何でこんな綺麗な鏡がこんな場所に」
ドクロが話してる最中に、鏡が突然光りだす!
驚いて鏡を手放すれな。地面に落ちた鏡からは光が少しずつ分離し、形を変えていき…。
…鎧を纏う騎士の姿が現れた!
その騎士は、鎧で光を反射して光り輝いている。鏡で鎧を形成したような、特徴的な姿だった。
今の鏡は罠だったのか…?突然の状況にも狼狽えず、二人は構える。
その騎士は、剣を抜き取る。そして、こう言い放つ。
「るせみてめさおにうゅちゅしのいかせみがかられわ、いかせのこ!」
「日本語話してくれ!!!!」
れなが叫ぶと同時に、騎士は剣を振り下ろす!
かわす二人。
相手は明らかに敵。迎撃の準備だ。
ドクロが両手から黒い光弾を発射して騎士に当てる。
…が、光弾は鎧にぶつかると同時に、跳ね返ってきた!
自分の光弾にぶつかり、倒れるドクロ。
「あ、あいつ…鏡なのは見た目だけじゃないわ!」
騎士は剣を振りかぶって接近してくる。急いで立ち上がり、咄嗟に飛行するドクロ。
飛行しながら、下にいるれなに注意を呼びかける。
「気を付けて。あいつに光線攻撃を仕掛けると危ないわ」
「分かった!オメガキャノン!!!!」
…青い破壊光線を放つれな。全く話を聞いていない。
騎士はその激しい光線も跳ね返し、れなは爆発に巻き込まれ、空高く飛んでいった。
騎士は剣を振るい、ドクロにも変わらぬ敵意を向ける。
狭い路地裏であちこち飛び回るドクロ。騎士も狙いが定まらないようだ。
「なだかろおはのものいかせのこりはや!とかまこょち!」
そう叫び、騎士は飛翔、ドクロの頭上から剣を振り下ろしてくる。
撹乱に集中していたドクロはスムーズに回避する事ができた。騎士の動きを見定めながら、攻撃のチャンスを伺う。
「魔力攻撃が駄目なら!」
魔力を反射するなら、物理はどうだろうか。ドクロは騎士の胸元を蹴りつけた!
が、硬度も抜群だ。騎士はほとんど怯まず、剣を振るう。
バク宙しつつかわすドクロ。
「くっ…手強い」
辺りを見渡すドクロ。何か使える物はないか…。
…と、彼女はある物に目をつけた。
それは、騎士が出てきた鏡だ。先程から騎士はこの鏡の前に立ち、全く近寄らせようとしない。
つまり…あの鏡は騎士にとって重要な物なのだ。
「よし…!」
標的を鏡へと変える。まずは光弾を騎士に連発。
跳ね返ってくる光弾。ドクロは腕を構えて防御しつつ、わざとぶつかっていく。
「ぐっ…!」
苦悩の表情を見せる彼女に、騎士は妙な笑い声をあげる。
(今だ!)
今度は、騎士のすぐ近くに向かって光弾を発射!
光弾を反射できる騎士にとってドクロの光弾は一種の攻撃手段なのだ。逃さぬとばかりにその光弾の方へ走っていく。
その瞬間、鏡が無防備になる。
「かかった!!」
ドクロは飛び出し、鏡に拳を叩きつける!
鏡は割れ、周囲に破片を散らす。光を放ちながら飛び散る破片を見て、騎士は頭を抱える。
「たっまし!」
すると、騎士の全身が白く輝いていく。
両手を地面につけながら、落胆している。何を言っているかは分からないが、悔しがっている事は一目で分かる。
光となった騎士は少しずつ姿を消していく…。
割れた鏡を見下ろしながら、ドクロは息を切らしていた。
「結局何だったの…」
その後、ドクロは図書館で興味深い本を見つけた。
それは、今いるこの世界とはまた別に存在する異空間について記した本だ。
そこにあった異空間の一つに、全てが反転した世界、鏡の世界が記されていた。
その世界は鏡の向こうに存在し、百年に一度、鏡世界とこの現世が繋がると言われているらしい。
百年に一度の機会に巡り合ったのだろうか。だとすれば、とんでもない不運であった。
幸い街は元通りになり、人々も前と変わらぬ人混みをなしている。
全て元通りだ。
…吹っ飛んで、どこかに飛んで行ったれなを除いて…。




