コンビニ繁盛大騒動
テクニカルシティはいつも働く人々で埋め尽くされている。
バッグを持つ人、腕時計を見る人、ベンチに座りつつも仕事に関する本を読む人。
この前は歩道のど真ん中であぐらをかき、パソコンと向かい合う仕事熱心な人の姿も見られた。一人一人の労働で、科学の街はその姿を保っている。
そんな中で、れなは呑気にスキップしながらコンビニへと向かっていた。特に大した目的もなく、ただ何か良い物がないか探し求めるだけ。妹のれみは自宅である研究所でゴロゴロと過ごしてる。
深い事を考えずに生きていく。これが一番幸せだろう。
コンビニの自動ドアをくぐり抜け、ずらりと陳列された棚を見渡す。頭を下げる店員に頭を下げ返し、長いツインテール髪を店員の頭に無意識にぶつける。
狭いコンビニを宛もなく旅していると、アイスクリーム棚を発見した。ひんやりとした空気が伝わるその棚の中に…れなのお気に入りのアイスが入っていた!
「うおお!これは激レアなシシャモぶっ刺しアイス!これは手に入れるしかないぜっ!」
一人で騒ぎ立てるれな。そんな彼女を見つめる二人の人物がいた。
「よっ、れな」
横を見ると、白い髪にドクロマークの髪飾りの少女が右手を振り上げていた。赤いツリ目は強気な印象を受け、その口の中をよく見ると牙が生えている。
彼女の横に立っているのは…驚かないでほしいのだが、黒いスーツを着た骸骨だった。
骸骨はかなりの長身で、れなを見下ろしながら意味もなく頷いてる。
少女はドクロ、骸骨はテリー。彼らは死神であり、本来は魂を採集するのが役目なのだが…こんなコンビニにフラリと立ち寄っている姿を見ての通り、魂の採集活動をしているところを誰も見た事がない。
二人はこう見えて兄妹であり、れなとれみの親しい友人だ。
テリーは関節を鳴らしながら、気さくに話しかける。
「こんな所で会うとは奇遇だな」
「二人共、こんな所でデート?」
それを聞いてドクロが目を見開き、甲高い声で騒ぎ散らす。
「はあ!?誰がこんなアホ兄と!?」
「ふふふ、今日も俺と、俺の可愛い妹は絶好調だ」
二人のペースはいつもこんな感じだ。
れなは二人と一緒にレジへ向かい、会計を済まようとした。
「すみませーんこれくださ…」
言葉が途切れる。
…カウンターの向こうに立つレジ係の店員の顔は、疲れ切っている。
いや、疲れてるなんてレベルではない。顔の肉という肉が削ぎ落とされ、青いオーラを纏うその様はまるでミイラだ。
その店員…及びミイラは、シシャモアイスを受け取ると、震える手、激しい息遣いと共にレジ打ちを始める…。
「いっ…てー…ん」
「待ってえええ早まらないでえええ!!!」
れなは、勘が唸るまま、触った事すらないレジを操作し、自分でレジ打ちし、自分で金を払う。そして、店員から話を聞く事に。
店員は、こんな姿になっても両手を体の前で揃え、背筋を伸ばした綺麗な姿勢で話してくれる。
「この所…お客様が鬼のように押し寄せ…少々体力を使いまして…」
「少々どころじゃないっしょ!?」
ドクロが白い長髪を振り乱しながら叫ぶ。白いツインテールが触手の如く揺れている。
その横ではテリーは腕を組みながら、その話を聞いている。
「確かにこのコンビニに行列ができてるのに見た事がある。異常な列だなと不思議に思ってたが…」
…と、その時。
凄まじい地響きが店を襲う。
「うおおお!!!!コンビニへ直行だあー!!」
大勢の人々の熱気に包まれた声が聞こえてきた!
見ると…店の外から、凄まじい人々が集まってくる!
自動ドアを破壊し、人々は己の欲望に引っ張られるままにレジに並び、長蛇などというレベルではない程の列を作る!
手に取るのは弁当に菓子に雑誌に…何の変哲もない普通の商品ばかり。しかしながらその勢いは果てしなく、老若男女、全てが釘付けになっていた。
全てが一段落した頃には、店はすっかり静まり返った。
もはやこの静寂の間、耳鳴りがする程に先程の混み様は異常だった。
「ありがとう…ございます…ぐへえええ!!」
吐血する店員。彼の体を背負いながら、テリーはこの事態の異様さに気づき始めていた。
いや、色々おかしな事には気づいていたが、今はそのおかしさの全貌に気づきつつあったのだ。
「おい。あれはおかしいぜ。だってあんな勢いで買いに来る程このコンビニに行きたいなら、皆事前に行列を作るはずだ。なのに何故、全ての客が全員同じタイミングで駆け込んでくるんだ?」
何というか、全てのタイミングが合いすぎていた。確かにあれだけの量の客が同じタイミングで来るのもおかしな話だ。
店員にもっと事情を聞きたいところだが、あいにく店員は本当にミイラになったかのごとく気を失ってる。
だが、何かがおかしい…三人の戦士としての勘が、事態を悟っていた。
その勘は的中していた。ここから少し離れた森の中で、ある陰謀が呻いていたのだ。
ドクロマークから手足を生やしたような、小さなモンスターが三匹広場に並び、何やら機械を動かしていた。
その機械は無数のボタンがあり、箱型の造形だ。銀色の外装は、まだ新しい事を物語っている。
「さあ!これは闇姫様の輝かしい計画だ!店を繁盛させまくって店員をミイラにしよう計画!引き続き、『爆買い魔波』を放出するぞ!!」
これは闇姫軍の計画なのだ。この機械から放たれる魔力の波動がテクニカルシティに放出され、人々の購買欲求が刺激されているようだった。
魔力は不思議な力だ。肉体に直接作用を及ぼす事もあれば、精神にも影響を与える事もある。闇姫軍はこの魔力の扱いに特化しており、このように悪事に使用する事もある。
しかし、そんな事は正義の戦士が黙ってない!
「やっぱり闇姫達の仕業だー!!」
突如大声がその場をつんざいた。
現れたのは、れな、ドクロ、テリー。
三人は茂みから姿を現した!つい先程までは店にいたのだが、戦士である彼らは驚異の瞬発力でここまで走ってきたのだ。
兵士達は当然大慌て。短い手を振り上げ、どこかわざとらしい動きで驚きを体現する。
「げええ!?な、何で俺達の計画がバレたんだ!!?」
「そんなもん決まってるだろ!!勘だ!!勘!!」
れなは強引に会話を終わらせようとしていた。話すよりもまずは行動。れなの性格だ。
この機械さえ止めれば!そう頭で感じ取ったれなは、機械めがけて蹴りを放とうとした!!
が…闇姫軍はそう簡単に攻撃を許さない。
機械から突如、異音が響く。
れなは足を構えたまま、キョトン、と表情を固める。まるで顔だけ時間が止まったかのよう…。
直後、機械からは…鋼鉄の手足が出現した!!
「げえええっ!?」
叫んだのはれなではなく、一部始終を観察していたドクロだ。兵士達は短い手でれなを指さし、得意げに笑う。
「フハハハ!無抵抗な訳がないだろ!」
機械は手足を振り回しながら、れなに向かっていく!鋼鉄の拳が突き出され、れなもまた手でそれを受け止める。
機械はもう片方の拳を突き出してきたが、れなはそれをも受け止める。
「ふん!ガラクタ野郎!」
そのまま鋼鉄の拳を握り、機械を持ち上げ…地面に叩きつけた!!
機械は手足をばたつかせ、何やら発光する…。その時!ドクロが叫ぶ!
「れな気を付けて!」
魔力の波動を感じたのだ。れなは急いで離れようとしたが…残念ながら間に合わない。
機械から魔力の波動が放たれる!見えない未知の力が大気を振動、周囲に流れていく。
…何かが、変わった。
「や、やば…何か買いたい!!」
れなも購買意欲に支配されたのだ!
ドクロとテリーも、しまった、と言った感じの顔でれなを見つめている。
れなの足が自然に動く…森の出口の方角、つまり街の方向。そして人工頭脳が思い浮かべる光景は、あのコンビニ。
兵士達はれなの滑稽な様を見て、大爆笑。
「ははは!!このままコンビニであれこれ商品を集めてる間にやっつけてやる!」
ドクロとテリーは何とかこの状況を打破しようとする。自分達も機械に戦いを挑みたいが、あの魔力波がまた飛んできたら…。
せめて三人で協力できれば良いのだが、れなはこの状態。良い攻撃タイミングを逃してしまったのだ。
そんな中、テリーはある事に気づく。
「そうだ!おいれな!!お前今金持ってないじゃんか!!」
テリーの言葉に、れなはハッ、とする。
実は彼女、ここへ来るまでの間に自宅に一旦帰り、財布を置いてきたのだ。
「…!スカートに入れておいた財布がない!」
れなは確認すると、兵士達に向き直る。どうやら財布を持っていないと気づくと無効になるようだ!
弱点を知られた兵士達は、もはや機械を盾にして逃げ腰になるしかない。
勿論三人はそれを逃さない。
れなは拳を構え、ドクロとテリーは両手に魔力を集め、黒い光を放ちだす。
飛びかかるれな!機械は呆然とそれを見つめるだけで、ほとんど動かない。攻撃をかわす機能は十分に備わっていないらしい。
ドクロ、テリーの手から黒い光弾が発射され、同時にれなが拳を突き出す!
機械は真正面から攻撃を受け、悲惨な音を立てて潰れてしまう。倒れこむ機械を見て、兵士達は涙目。
こうして、コンビニの危機は去ったのだ。
…その後、兵士達を警察に突き出した後、コンビニへと帰還した。
達成感に胸を張りながら、自動ドアをくぐり抜けると…。
「皆さんありがとうございます!」
…レジに立っていたのは、清々しい顔立ちの整った姿の男性。爽やかで、見ただけでも安心するような、まるでレジ係をする為だけに生成されたかのような美しい顔立ちの中年男性が、背筋を伸ばして立っていた。
無論、その男性は…。
「ええええ!?店員さん治りすぎでしょおおおお!!?」
ドクロの声が響く。幸い他の客はおらず、迷惑客にはならなかった。
店員は頭を下げ、自身に起きた事を説明する。
「あれからお客様が落ち着いてきて…安心したら治りました!」
単純…その一言に尽きた。
ひとまず、テクニカルシティの騒動はまた一つ、終わりを迎えた。
爆買い魔波を放つ機械は出力を低くすれば普通に使えます