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怪獣ボクシング クロジダ ムチルドン ナカマワレ

ある岩山で、壮絶な戦いが繰り広げられていた。


頑丈な岩が立ち並ぶ岩山。

その岩のリングの中央で争う二つの巨影…。


二体の怪獣だ。

片方は黄色い体の怪獣で、もう片方はしなやかな腕の先端に鎌を備えた怪獣。

二大怪獣が争う中、その周囲の高い岩の上から、二人の人間が指示を出していた。

髭を生やした男が黄色い怪獣に叫ぶ。

「やれ、ドラス!火炎攻撃!」

黄色い怪獣、ドラスは口から煙を吹き上げる。

もう片方の、帽子を被った男が鎌怪獣に指示。

「ダタラガマ!ドラスの腹部を切りつけろ!」

ダタラガマはしなやかな腕を伸ばし、ドラスの腹部を鎌で切りつける!

効果ありだ。ドラスはバランスを崩して火炎攻撃は不発。その隙に更なる鎌攻撃で両腕を切りつけられ、ダウンする。



「そこまで!」

他の岩の上から声がした。

その岩に乗っていたのは、赤い髪に眼鏡を掛けた女。

ルミだ。


彼女のそばには、巨大アンドロイドパープルGが、退屈そうに寝そべっている。


…二人の男が握手を交わし、二大怪獣が互いに下がり合う。

辺りを取り囲んでいた観客が騒ぎ立てる。観客な混じっていた葵と粉砕男は、この奇妙なイベントの調査にやってきていた。

怪獣同士を戦わせる、いわゆる怪獣ボクシング。このイベントは時々開催されるらしいが、直接目の当たりにしたのはこれが初めてだ。

「マジで怪獣戦わせてるわ」

「だが一応ここは人間は勿論、他の生物も暮らしていない場所だ。安全性は設けているらしい」

怪獣の胸をよく見ると、制御装置が装着されている。彼等がもしも暴れ出せば、この制御装置、そしてパープルGが止めにかかるのだろう。


何より、ドラスもダタラガマも、それぞれの主人に素直に従ってる。見た目の派手さによらず、安全なようだ。


「さあ次の戦いだ!」

ルミの声と共に、岩の上にまた二人の男が登る。

一人は平凡な見た目をした三十代程の男、もう一人の男は対照的で、黒いマントを羽織り、紫の服にピンクの蝶ネクタイをつけている。

「まずはヤマダ&ムチルドン!」

平凡な男…ヤマダの相棒が、どこからともなく現れた。

四足歩行の緑色の怪獣だ。鞭のようにしなやかな尻尾を持つ恐竜のような怪獣だ。

「そして…グロジダ&ナカマワレ!」

グロジダと呼ばれた怪しげな男の相棒もまた、どこに隠れていたのか、突如現れた。

鋭い爪を持ち、頭部からは短い二本の角、吊り上がった黄色い目…いかにも凶暴な印象を受ける灰色の怪獣。

葵はそいつを見て反応する。

「あいつ、ナカマワレ!凄く凶暴なモンスターと聞いてたけど、調教可能だったのね」

この時点で、グロジダの怪獣使いのスキルを見せつけられる。ナカマワレを従えているのはそれほどの事なのだ。


「ではスタート!」

ルミの声と共に、二大怪獣の目に闘志が宿り始める。

まず仕掛けたのはムチルドン。太い首をナカマワレに叩きつけようとしたが、ナカマワレは爪を叩きつけて反撃。

ムチルドンの分厚い皮膚がダメージを緩和する。次にムチルドンは鞭の尻尾で叩きつけようとするが…。

「毒を吐け!」

グロジダの指示と同時に、ナカマワレは口から紫色の粒子を吐き出してムチルドンの動きを止める。麻痺毒だ。

動かなくなったムチルドンに蹴りを浴びせるナカマワレ。ムチルドンは麻痺しつつも、持ち前の体重で何とか持ち堪える。それを見て、グロジダはあからさまに嫌味な笑顔を見せた。

「ならば…ズタズタにしてやれ、ナカマワレ!!」

ナカマワレは爪を突き立て、ムチルドンの体を切り刻む!

血を流しながら、ムチルドンは近くの岩盤に叩きつけられる。

思った以上に負傷したムチルドンを見て、ルミは慌てて片手を振り上げた。

「こ、ここまで!試合終了!」

…しかし、ナカマワレは倒れたムチルドンに接近していく。両手の爪を擦り合わせながら近づくナカマワレを、グロジダは止めようとしない。むしろその後ろ姿を誇らしそうに見守ってる。ルミは冷や汗を流しながらグロジダに叫ぶ。

「おい!何をしている!!早く止めろ!」

「こんな所で止まると思うか?弱者は徹底的に痛めつけないとな」

グロジダの笑みは邪悪そのもの。

観客達も何かがおかしい事に気づいたようで、先程とは違う騒ぎ声が無造作に沸いてくる。


…いつの間にか、ルミの横のパープルGが立ち上がっていた。

ルミはまず、ポケットからボタンを取り出し、それを押す。

ナカマワレの制御装置から電波が放たれ、動きを止める魔力を放出するが…装着は十秒と持たず、ひび割れ、バラバラになってしまった。

「無駄だ。こんな装置の対処法など、我ら闇姫軍、とっくに熟知しておるわ!」

グロジダが叫ぶ。彼は闇姫軍の配下だったのだ。

どうりで怪しい格好をしている訳だった。

装置が駄目なら、パープルGだ。

「行けパープルG!」

豪快な足元と共に駆け抜けるパープルG。細かい小岩が崩れる音がこだまし、岩山は更に強く震えだす。


…そして、群がる観客達の中から、粉砕男と葵の姿が消えていた。闇姫軍が絡んでいる以上、呑気に突っ立っている場合ではないのだ。


二人は、飛行によって岩の上へと飛んでいった。グロジダを捕らえるのだ。

ナカマワレは一先ずパープルGに任せる事になった。

速度を上げ、あっという間に岩の上へと辿り着く。グロジダはこちらに背を向け、今まさに衝突しようとするパープルGとナカマワレを見守っている。

「ちょっと、あんた!」

葵はハンドガンを構えつつ怒鳴りつける。二人の存在に気づいていなかったのか、グロジダは驚いて振り返った。粉砕男はグロジダに歩み寄り、圧をかける。

「何故止めようとしないんだ!?」

「そ、それが…」

突然、小声になるグロジダ。皆の前では堂々としてたのに、少人数の前では突然小さくなるタイプのようだ…。


「実は…本当に止め方が分からないんだ…」



「はああ!?」



彼はこの怪獣ボクシングに参加し、優勝する事で賞金を得ようとしていた。そして絶対に勝てるように、彼はナカマワレを選んだのだ。ここまで連れて来る事は割と上手くいっていたのだが、今ここで問題が起きた。ヒートアップしたナカマワレは凶暴すぎて、誰の命令も受け付けないのだ。

止め方が分からなくなったが、大勢の前でそんな事を言うのは恥ずかしい。だから先程のように、さも凶悪な調教師を演じていたのだとか。

「闇姫軍以前の問題ね、あんた」

呆れたため息をつく葵。


パープルGはナカマワレの爪攻撃に表情を歪めつつも、顔面目掛けて拳を打ち込んでいた。

両者は激しい動きをする度に岩盤を砕いていく。ナカマワレの毒ガス攻撃は、アンドロイドであるパープルGには通用しない。

しかしその凶暴性はあまりに凄まじく、爪も足も牙も角も、全身の武器という武器を全て駆使して攻撃してくる。単純な武器より、この凶暴性の方が厄介だ。

蹴飛ばされ、転倒するパープルG。彼女のすぐ横の岩の上で、ルミが慌てている。


ムチルドンも何とか立ち上がり、ナカマワレへ鞭攻撃を決めるが、あまり効果がない。

このままではナカマワレのペース一方だ…。

パープルGとムチルドンの防戦を、粉砕男は不安そうに傍観していた。

「くっ、仕方ない。俺達も参戦するぞ!」

「そうね…」

飛び出そうとする二人。




…が、思わぬ仲間が現れた。


ナカマワレは転倒させたパープルGを踏みつけようと足を振り下ろすが…。



その足を、何者かが受け止めた!


「え?」

葵、粉砕男、パープルG…その他全員の目が、そこに向く。



…受け止めたのは、ムチルドンの主人、ヤマダだった。

平凡そのものと言える容姿の彼が、巨大なナカマワレの足を軽々と受け止めている。

「よくも…ムチルドンを…」

怒りに満ちた声と同時に、ナカマワレを投げ飛ばすヤマダ!

人間である彼が、怪獣を投げ飛ばしたのだ。

皆の理解が追いつくより前に、ヤマダは空高く飛び跳ね、ナカマワレに手を突き出す。

「破壊光線!」

ヤマダの手から放たれる赤い光線!それはナカマワレの胸元に直撃し、一気に大ダメージを与えてみせる。

たまらずナカマワレは、落ちてきたヤマダに爪を突き出すが、ヤマダは滑空しながらそれを回避、逆に腕に蹴りを打ち込んでみせる。

着地しつつ、ナカマワレを見上げる…その目は、明らかに素人戦士の目ではない。

やけになったナカマワレは毒を吐きつつ、その巨体で飛びかかる!

ヤマダは迷いなく飛び上がってそれを回避、真下でうつ伏せに倒れ込むナカマワレに落下し、全力の踏みつけを決めた!

ナカマワレの全身を貫く衝撃!激しい咆哮と共に、ナカマワレは完全にその動きを止めた…。

一分もかからず、気絶へと追い込んだのだ。


皆が沈黙する中、ヤマダはムチルドンに近づき、優しく撫でる。


ハッ、と意識を取り戻したように、ルミが叫ぶ。

「…グロジダ選手は、過剰に相手を傷つけないというルールに反した為に失格!ヤマダ選手の勝利!!」

歓声があがる。


ヤマダの姿は輝いていた。

「怪獣に指示を出すんだ。なら俺が怪獣よりも強くないと、意味がないだろ」

平凡な格好に、そのオーラはあまりに不似合いだった。

葵と粉砕男は…ただただ呆然としていた。


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