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人形使いの死闘

テクニカルシティに、とある人形使いが現れた。黒いローブを身に羽織った、一見怪しげな格好の彼は街の公園にテーブルを置き、その上で熊の人形と少年の人形を愉快に動かし、観客を楽しませる。

観客の多くは子連れだった。子供達はその人形劇に夢中の眼差しを向ける。


観客の中には、れみとドクロの姿もある。二人は物珍しい人形劇に、他の子供と同じように目を輝かせた。


人形劇は約十五分程であっという間にラストスパートとなる。少年と熊が、冥界の神々と戦い、望まずども覇者の証を手にした悲劇の戦士を救出、世界の調和と秩序を守り抜いた…というハッピーエンドで終了した。

「面白かったねー!!」

子供達が笑いながら去っていき、中には人形使いと握手する子供もいた。

ドクロとれみもまた、人形使いの前にできた列に並び、彼と握手を望んでいた。


列もまた、あっという間に終わり、人形使いと手を繋ぎあう。他の子供達はほぼ全員が帰っており、残るのは公園の遊具で適当に遊ぶ数人の子供のみ。

ドクロとれみも握手を交わす。

人形使いの、多くの人形を扱ってきた手の感触。その手は硬く、しかしどこか温かいものだった。

その不思議な感覚に、二人が浸っていると…。

「…君達、ワンダーズだよね?」

人形使いは、突然こう聞いてきた。一瞬戸惑うが、すぐに首を縦に振る二人。人形使いは一瞬安心した顔をしたが、直後、暗い顔になる。

「実は、頼みたい事がある」



子供達が無邪気に遊ぶ中、人形使いは彼らに聞こえぬように、近くの木々のある場所へと二人を誘導した。


「私はこうして人形劇で皆を楽しませているのだが…実は、元々私には相方がいたのだ」

相方…しかし今、彼は見ての通り一人で旅をしている。何かがあったのだ。


「…その相方…ドルゾは、はじめこそ人形劇を楽しんでいた。しかし、次第に利益を求めるようになり、インパクトのある人形劇を求め始めたのだ。その為には、より斬新な人形が必要になると考えた。そして彼は、怪しげな教団から手渡された人形を使い…人形劇を開始した」

人形使いの声は、ますます暗くなる。目線も外し、二人とは違う方向を見て話していた。

「…そして、その怪しげな人形は本性を現した。やつはドルゾの邪悪な心に漬け込み、あろう事か、人形劇を観に来た人々の首をはね飛ばし、皆殺しにした。子供だって同じ惨状だった。…そして私だけが、その悪夢から逃れられた」

二人の方に向き直る人形使い。ここからが本題のようだ。二人の顔もまた、暗くなっていた。

「君達、強いんだろ?私の相方は…ここから北の人形館にまだ囚われている。私と共に、彼の元へ向かってほしい」




北の人形館は、森の中にひっそり佇む場所だ。昔は広々した場所だったが、今ではすっかり寂れ、木々に囲まれたのだという。

飛行すればひとっ飛びだが、人形使いもいるので電車を経由して向かう事になった。

車内の椅子から外を眺めつつ、ドクロは思った。


「…この人形使いの歳を見る限り、そこまで年月が経っていないはず。どうして人形館はそんな短期間で寂れたのかしら…」



そして、とある駅で降り、辿り着いた人形館。

そこは…まさしく廃墟であった。

紫の外装の小さな建物だ。看板らしきものが建物に張り付けられているが、台風に見舞われたようにボロボロ。窓は割れ、壁にも小さな風穴がいくつも空いている。

木々に囲まれるその人形館からは、異様な風が放たれている。


「本当にここなの?」

れみが人形使いを見上げる。人形使いは、黒ローブを片手で整えながら、冷や汗をかく。


「…ここなんだ」



中に入ると、埃を被った受付、ネズミや蜘蛛の姿をそこら中で見かける長い廊下…もはや人形館ではなく、遊園地のお化け屋敷だ。勿論、遊園地のように活気のある場所ではない。

目の前にある扉を、ゆっくりと開く人形使い。ドクロとれみは、腰を落として構えを取る…。



…扉の先は、この人形館にしては広い会場だった。

幾つかの椅子が置かれており、ステージにはかつて使われていたであろう様々な機材が残されている。

しかし、最も目を引くのは、ステージの中央に倒れこんだ、大きな人形…。

木製の人形のようで、あちこちに血痕のような赤い染みがついている…。


「おい」

その人形に、人形使いの声が重くのしかかる。その声は、つい先程人形劇をしていたあの者とは思えぬ迫力がある。


「彼を返してもらうぞ」




…その声に反応し、人形はゆっくりと起き上がる。

その人形の顔は…目に当たる部分に真っ黒な穴が空き、口内には人間のような歯が並び、乱れた黒い髪を持つあまりに不気味な姿だ。

ゆっくりと空中に浮かびだす人形。そしてその人形の胴体には…一人の男がくくりつけられている。

…その男は、胸や腹部から針金が飛び出し、血まみれだ。既に息はない死体だった。

その死体をよく見ると糸のような物に繋がれてる。徐々に人形から離れ、床に降りると、操り人形のように奇妙な動きを始めた。

天井付近に浮遊する人形は両手から出した糸で、死体を操っている。あの死体が、人形使いの相方、ドルゾである事は明らかだった。

人形使いはポケットからナイフを取り出す。手ぶらで来たのではないのだ。

「二人共、手伝って欲しい。あの糸を切り離さないと、彼はあの人形に操られ続ける。あの人形が何者なのかは分からないが…とにかく、彼を解放してやりたいんだ」

ドルゾは糸に操られるままに動き、ポケットから小さな鎌を取り出す。その鎌もまた、血塗れだ。この鎌で、先程人形使いが話してくれた人々を殺害した事が、見て取れる。

確かにこれは放っておけない…。

れみとドクロは空中飛行し、浮遊してる人形に向かっていく。人形は素早く動き、二人から距離を離していく。

そこまで動き回れるスペースはないが、人形が動けば下のドルゾも動いてしまう。人形使いもれみもドクロも、追いかけ回すしかない。

「ま、待て!!」

人形使いは、激しく揺さぶられながら離れていくドルゾのもとに駆け抜けていく。


突然、人形は動きを止めた。三人もまた、動きを止めて警戒する。


人形はれみとドクロに突進を仕掛けてきた!

「うわ!」

なんとか回避するが、下の方では人形使いがドルゾに切られかけている。このまま持ちこたえ続けるのは不可能だ。

れみが素早く人形の頭に裏拳を振り下ろし、ドクロは人形の腹部に蹴りを決める!しかし相手は痛覚が存在しないのか、中々怯まない。

そして…ついに、人形使いの腕に鎌が掠ってしまう。

「ぐっ…」

腕から血を流しつつも、何とか持ち堪える。目の前のドルゾは何の容赦も理性もなく、かつて仲間だった自分に切りかかってくる…!

「…」

上を見ると、れみとドクロは人形使いを気に掛けるあまり、人形への攻撃に集中できないようだ。

このままでは自分は足手まといになってしまう…人形使いは苦悩した。


「…」

しばらく沈黙した後…彼は、ある決意をした。




手に持つナイフに息を吹きかけ、一言呟く。


「ごめんよ」




…れみとドクロが人形の体をより勢いよく蹴りつけ、人形は吹っ飛ばされる!

壁に衝突し、人形とドルゾの動きが一瞬止まる。

「ここだ…!」

人形使いはナイフを構えて、真っ向から突撃。


…そして、ドルゾの右腕にナイフを刺し込み、深く突き刺し、一気に切り裂いた!

黒い血を流しながら、ドルゾの腕は深く損傷し、使い物にならなくなり、鎌を落とす。

左腕も同じように切り裂き、損傷させた。


…かつて自分と同じように人形を操り、人々を楽しませていた腕を、切り裂いたのだ。

人形使いは沈黙し…しかしすぐに立て直す。

ドルゾが反撃の腕を無くしたところで、糸を切り裂く!

ドルゾは力なく床に叩き落され、動かなくなる。

これを見た人形はドルゾは使い物にならないと見たらしい。今度は人形使い目掛けて、新たな糸を発射する!

「やめろ、このクソ人形!!」

れみが拳を突き出し、人形の頭を殴りつける!!

その衝撃は人形の全身を貫き、その体を動かす「何か」を破壊してみせた。人形は身を震わせながら全身から黒い煙を噴出し…浮遊能力を失い、地面に叩き落された。

鈍い音が辺りにこだます。



…どうやら戦いが終わったらしい。人形館は静けさを取り戻し、血濡れの怪物が潜む魔境から、寂しげな廃墟へと戻っていく。


人形使いは、無残な姿になった相方を見下ろし、その沈黙を確認する。


その姿は、何もかもがかつてとは違っていた。純粋に人の喜ぶ顔のみを求め、人形と共に歩み続けてきた眩しい瞳。

それが…。


かける言葉も見つからず、人形使いの背中を見つめる二人。人形使いはゆっくり立ち上がり、二人に振り返る。

「本当にありがとう。こんな危険な事に巻き込ませて、すまない」

ドクロは手を横に振って返答する。

「とんでもない。あなたの力になれて良かっ…」

ドクロは何かを感知する。

死神特有の力が、彼女に何かを伝えている。


人形使いの姿が、白く輝き出したのだ。穏やかなその光は人形使いの姿を染めていく。

れみが震えた声を出している中、人形使いはこう言った。

「ありがとう」



…気づいた頃には、人形使いも、あの呪い人形も、ドルゾの姿も消えていた。




「…あっちの世界では、ドルゾと一緒に、皆を喜ばせてくれてたら良いわね」

微笑みながら、ドクロは天井を見上げるのだった…。




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