愛のリボン
事務所には様々な依頼が来るが、中には依頼だけでなく、何かと役に立つ情報が送られてくる事もある。
その情報は、ワンダーズに助けられた人々が送ってくれるものらしい。それまで多くの人々を助けていたワンダーズには仲の良い人々も多く、この送られてくる情報は彼らとの友好関係の証だ。
その日は、ドクロのもとに良い情報が飛び込んできた。
「…結び合う事で結ばれる、愛のリボン…」
震える手で手紙を持つドクロ。
それは、手を結びあった者同士が永遠の愛を約束されるという伝説のリボン。そのリボンが、森で発見されたのだという。
そんなリボンがもし本当にあれば、今や大ニュースになっていそうなところだ。普通なら疑うところだが…粉砕男の顔が脳内に浮かび上がったドクロは、直ぐ様行動を開始してしまう。
こう見えて、ドクロは少々…というより、かなり頭が弱い。疑う事も無く、彼女は事務所の玄関のドアを殴り開け、森へと直行していった。
それを見守る葵とラオン…。
「ドクロちゃん、単純ね」
「あいつらしいな」
周りの人々が思わず足を止めてしまうような速度で歩道を駆け抜け、森への入口へとダイブ、草まみれになりながら、でたらめに森を探し出す。
一応、先を越されてはまずいと思ってはいるのだろう。その動きには焦りが見える。
必死に探し続けるうちに、花に水やりをしている四葉に出会った。
「あっ、ドクロさん!良かったら私と遊んでくれませんか…」
「四葉!!この辺でリボン見なかった!?」
凄まじい形相で聞いてくるドクロ。困惑しながら、四葉は知らないと答えた。
ドクロの大捜索は終わらない。茂みという茂みを搔き分ける彼女を見て、四葉は話しかける。
「も、もし探してる物がありましたら、私もお手伝いしましょう」
「本当に!!?なーんて出来た子なの!!」
ドクロは四葉を抱き上げて大いに喜んだ。
その後、四葉はドクロを案内してくれた。どうやら森の物ではないような物が落ちていた場合、森の一部の広場に届けられるのだと言う。
もしかしたらそこにあるかもしれない。四葉はそう睨んだのだ。
広場へ続く小道を進みながら、ドクロの心臓は高鳴っている。もしリボンを手に入れたら、あの粉砕男と…長らく好意を抱いてきた相手と、ついに結ばれるのだ。
「ああ、楽しみ!!」
思わず想いが口に出てしまう。道案内をしてくれている四葉をつい追い抜かしそうになるほど、ドクロは心を躍らせていた。
しばらく歩き、広場に到着した。そこには一匹の熊がポツンと座り込んでおり、熊の横には様々なガラクタが積み重なっている。
タイヤに電子レンジ、掃除機、冷蔵庫…恐らく誰かがこの森に不法投棄した物であろうガラクタ達。
捨てたのは人間だろう。彼等は森を粗末に扱う事がある。
四葉も熊も、もはや慣れっことばかりに、ガラクタの中からドクロが求めるリボンを探し出す。もし出てきたとして、こんなガラクタの中のリボンなど使いたくないが…ドクロの決意は変わらない。
「んー、それらしき物はないですね…」
申し訳無さそうに語る四葉。そもそも存在するのかさえ怪しい代物だ…。
この辺りから、ドクロは徐々にテンションが落ちてきた。テンションが落ちるのを自分でも感じ始める瞬間…その感覚は不快なものだ。
「そ、そんな…どこにあるのよ…」
地面に手をついて、落胆するドクロ…。
「あ、もしかして…!」
そう呟いたのは四葉だ。何か思い当たる節があるらしい。
顔を上げ、僅かな期待を見せるドクロ。
四葉は…ピンクの髪の毛に手を差し込み、何かを漁りだす。
すると…髪の毛の中から、一本の赤いリボンが飛び出してきた。
「少し前に拾って…髪の毛にしまっていたのを忘れてました!」
「そそそ、それかも…!」
ドクロは四葉からリボンを受け取り、目を輝かせる。
リボンを手に入れたドクロは、鼻歌を歌いながら歩道をスキップで進んでいく。
もはや時間が惜しいのか、既に自分の腕にリボンを結びあわせ、準備万端だ。あとは粉砕男の腕にこのリボンを結べば…。
「ふへ、うへへへへ…」
リボンを片手に結んだまま、薄気味悪く微笑むドクロ…。傍から見れば、不気味な怪人だ。
それでも気にしない。ドクロは今、長年の夢が叶うところなのだ。
…が、悲劇は起きた。
ドクロは、ある中年男性と偶然ぶつかってしまった。
「おっと、すみません」
「あっ、ごめんなさ…いっ!?」
ドクロの声が乱れた。
…リボンが…。
ぶつかった際の何気ない動きで、偶然にもリボンがその男性の腕に結ばれてしまったのだ。
硬直するドクロ。
「あー、ドクロちゃん。良い相手を見つけたのね。おめでとう」
冷めきった声の葵の声が、事務所に虚しくこだます。
…事務所の玄関には、互いに手を繋ぎ合うドクロと、名も知らぬ中年男性。
そしてその男性の妻と思われる中年女性の怒鳴り声。
ドクロの顔は、リボンの効果で幸せに染まり…同時に、明らかな未練を感じさせる何とも言えぬ表情だった。