槍使いの依頼 スピアマルマン
ラオンはナイフによる戦いを好んでいる。どんな戦いでも決まって愛用のナイフを持ち出し、その白銀の刃を鋭く光らせる。たとえナイフでは倒せない相手が現れようと、意地でも使い続けるつもりらしい。
その日も、事務所でナイフを磨き上げていた彼女。
「ラオンー、ちょっとこの依頼頼まれてくんない」
れなが一枚の手紙を出してきた。
「何じゃこりゃ?」
その手紙は何やら異様だった。無数の穴が空けられてるのだ。自然に空いた穴ではなく、明らかに何者かが刃物で空けた穴だ。
そのボロボロの手紙には、こう書かれている。
「ナイフ使いのラオン。お前の刃と我が槍を、ぜひとも交えたい…。…上等じゃねえか!」
ラオンは立ち上がり、ナイフを構える。
これは依頼ではない。挑戦状だ。
決闘場所は、テクニカルシティから少し離れた岩山だった。風が吹き荒れ、石が転がる荒れ果てた山だ。乾ききったこの岩山、多くの戦士達の戦場になる事も多い場所であり、所々戦闘でついたものであろう傷が残されている。ラオンと、ラオンの付き添いのれながここへやって来た。
その挑戦者は、山の頂上で待ち構えているらしい。地上の町並みを一望できる高い山。登れば大きな苦労だろうが、空中飛行すればすぐだ。
「よし。あっという間についたね」
飛行して、一気に頂上に辿り着いた二人。途中、何人かの登山家が「飛行など邪道だ」と怒鳴ってきたが、全て無視した。登山に来た訳では無いのだ。
頂上につくと、風の質も、より自然に近い物に変化した気がした。透明感のある、汚れ一つ無い天空の風が、岩の表面をすり抜ける。
地上とは異なる大気の中、ラオンはナイフを振るって、視線をある方向へ飛ばす。
そこには、球体から手足を生やした生き物が立っていた。背中には槍を装着している。
間違いない。あいつが挑戦者だ。
「よく来たね。俺はスピアマルマン。突然の依頼に答えてくれた事、感謝するよ」
スピアマルマン。名前からも見た目からも、槍使いである事が分かる。
槍という事は一直線の攻撃が強力だろう。ならば横に動いて撹乱するか…。しかしある程度の突き攻撃ならば、真正面から受け止めて大きな隙を作らせられる。ならば真正面からゴリ押すか、いや、やはり安全に立ち回る方法は…。
ラオンは様々なシチュエーションを脳内で巡らせる。相手の姿を見て、出方を予想する。戦闘狂のラオンにとっては楽しい時間だ。
…スピアマルマンが槍を取り出す。ラオンもナイフを向け、ニヤリと笑う。
「よし、かかってこい!」
「…よーし!では一枚!」
スピアマルマンはカメラを取り出した。
目を丸くするラオン。一瞬、このカメラも武器なのかと思ったが…。
彼はラオンの横のれなにカメラを渡した後、ラオンに近づき、槍を差し出した。
「じゃ、君のナイフと俺の槍を交わらせよう!」
言われるがまま、ナイフを槍に軽く当てるラオン。相手のペースとはこの事。
れなは迷いなく正面に立ち、カメラのシャッターを切る。
フラッシュ光が、二人の切っ先を光らせた。
れなは笑いながらフラッシュを連発。
「がははは!刃を交えたいって、こういう事だったんだね!」
呆然とするラオン。
その日は、スピアマルマンとの握手で締められた。ラオンは最後まで呆然…。
スピアマルマンは実に嬉しそうにカメラを持ち、槍を背中に戻す。
「実に有意義だった…ありがとう!!!」
飛行して去っていくスピアマルマン。
「ラオン、ゆういぎ、って何?」
言葉の意味を聞くれな。ラオンは…完全に白くなっていた。
「…楽しい時間って事だよ」
風が、虚しく吹くのだった。