勘違い野郎現る!! モイコミ
テクニカルシティは一般市民、一般とは言えない者も多く集う街だ。
街を守る戦士達も多く配備されており、彼等は日々戦いに明け暮れ、街を守っている。ワンダーズもその一角。
そんな戦士の中に、これまた一人、曲者が登場した。
「誰か俺と戦いたいやつはいないかーー!?」
街のど真ん中で大声で叫ぶそいつは、茶髪に、Tシャツを着た平凡な見た目の男。そいつは両手の拳を合わせ、いかにも戦闘態勢といったポーズをとりながら、周囲に大声で叫びちらしてる。
「誰か俺と戦いたいやつは!!いないかーー!?」
その騒ぎは、勿論ワンダーズの事務所にも伝わった。
テリーが手紙を読みながら、面倒そうな顔でメンバーに伝える。
「街で、戦いたがってるやつが出てきたらしい。そいつに関して分かってる事は、少なくとも見た目はあまり強くなさそう、との事だ」
粉砕男、葵、ラオンがソファーの上で、膝に手を置きながら話を聞いていた。
まあ見た目などどうでもいい。肝心なのは、そいつが何故戦いたがってるかだった。
早速街へ出向く四人。依頼主が書き記した情報によれば、そいつは一般人の姿をしているのだという。ならばこの街の人々に紛れ、巧妙に活動しているのではないかと思われたが…。
「誰か俺と戦いたいやつはいないかーー!」
…すぐに見つけられた。
道路の真ん中で、多くの自動車からクラクションを鳴らされ、そのクラクションにも負けじと大声をあげる男が立っている。
間違いない…。
「おい、お前!交通の妨げだぞ!」
粉砕男が手を振り上げながら近づいていく。その男は粉砕男を見ると、両手の拳を構えて突然戦闘態勢に。
「お前、強そうだな!俺と勝負しろー!!」
男は拳を構えながら走ってくる!一体何だと言うのだ…。
その走り方、拳の握り方、目線…全てにおいて、素人の動きだった。
それでも何かを隠しているのではないかと考えた粉砕男は、慎重に動いて攻撃を回避する。かわされた男はよろめきながらも、体勢を立て直す。
「このモイコミ様の拳をかわすとはやるな。だが、次はこの拳法を食らわせてやる」
モイコミと名乗るその男は、両手をゆっくりと振り上げ、片足をあげる。
その動きを傍から観ていたラオンが、真っ先に口にした言葉。
「何だあの動き」
モイコミはゆっくりと地に足をつける。動作が終わったようだが…。
「あれ拳法じゃないわね。その場で考えた動きよアレ」
葵は呆れ気味。
モイコミは地を蹴り、粉砕男へ向かっていくが、先程の動きが全く活かせていない動きだ。攻撃自体も、拳を構えて突撃するだけと、単純かつワンパターン。
粉砕男は足を踏み込み、その拳を身で受け止めてみた。モイコミの拳が、粉砕男の鉄板のような筋肉に直撃する。
「…いでえええええー!!!!!」
手を抑えてのたうち回るモイコミ。やはり、こいつは素人だ…。
粉砕男はため息をつき、その大きな腕でモイコミの体を拘束してみせた。モイコミは手足をばたつかせながら、粉砕男の足を蹴飛ばして反撃するが、子供の抵抗にすら及ばない。
「拳法を舐めるんじゃないぞ」
「うるせえ大男!お、お前なんて、俺の敵じゃねえ!」
粉砕男はわざと腕の力を抜く。モイコミはスルリと脱出し、前に立つ。
「ははは!ほら、俺の前ではお前のパワーなんてその程度だ!」
笑い狂うモイコミ。どうやら粉砕男が力を抜いた事に気づいていないらしい。
「今度はこの拳法を見せてやる!はあああ…!!」
今度は足を広げ、手を自身の前で合わせる動きを始める。また偽拳法を使ってくるのかと思いきや…。
「ぐはっ!」
彼は、一瞬にして手足を封じられ、仰向けに倒れた。
攻撃を仕掛けたのはラオンだった。見えない速さで、モイコミの手足を殴ったのだ。
「あまりに目障りだったからな…。粉砕男、おまえもこんなやつに合わせてないで、早くとどめを刺しとけよ」
「いやあ、何か倒すのが申し訳なくなってな」
モイコミは震えながら、必死に立ち上がろうとするが、手足の筋に衝撃を与えられた今、復帰にはまだ時間がかかるだろう。粉砕男は彼に近づき、聞く。
「何でこんな事をしたんだ?」
モイコミは粉砕男を睨みつける。
これだけの騒ぎを起こしたのだ。さぞ深刻な状況にあるのだろう。
「…今朝、朝食に近づいてきたハエを潰したのだ。ハエは抵抗する間もなく、俺の手でペシャンコになった。その時、俺は気づいたんだ…あれだけ速く飛ぶハエを一撃で仕留める俺…最強の実力を秘めてるのかもしれないとな」
四人は、互いの顔を見合わせた。
「…ああ、俺の力を持ってしても及ばない相手がいるとはな。だが…大男よ。お前のような相手に出会えて…俺は幸せだった…この世に生まれて良かったよ。さ、さらばだ…がくっ」
「…起きろやオラァアァ!!!」
ラオンは、モイコミの顔に痛烈な平手打ちを食らわせ、無理やり立たせたのだった…。