ある廃屋にて テラーシ 影
どこかの山に存在する、朽ち果てた屋敷。かつて人が暮らしていた原型を留めつつも、人が暮らせない環境にまで汚れきった事が一目で分かる荒れ具合。
こんな薄汚れた場所に、ドクロとテリーはやって来た。
今回の依頼は、ここに現れるモンスター、テラーシを集めるというものだった。
テラーシはこう言った古びた屋敷に現れるモンスターで、体が光るのだという。沢山集める事で、蛍光灯の代わりになるのだとか。こんな場所で集めたモンスターを蛍光灯代わりに使う依頼主の気も知れないが…。
それに、いくら死神兄妹でもこんな場所は怖い。ドクロはテリーにしがみつき、テリーもまた、骨の体を震わせながら突き進む。
「ああ、いかにもお化け出そうじゃないの。せめてお兄ちゃんみたいなスケルトン系だったらまだ怖くないんだけど…」
「それ、俺がイケメンって事か?」
テリーのボケ面に、ドクロは苛ついた顔で軽くビンタを決めた。だが普段は鬱陶しいこういうノリも、今では癒やしだ。
少し進むと、リビングと思われる部屋に出る。
そこら中に白い光が浮かんでるが、これこそがテラーシだ。暗闇が僅かに照らされ、安心感を覚える。
ドクロはバッグから虫籠を取り出す。空中のテラーシを器用に捕まえ、虫籠に入れていく。
「さっさと終わらせよう…」
ドクロの呟きに、テリーもテラーシに手を伸ばす…。
「ん?我が妹よ。あれは…?」
テリーは妙な物を見つけた。
部屋の隅の暗がりに、何かが立っている…。その姿はまるで亡霊のようだが、ドクロはこの何かから、モンスター特有の魔力を感じた。
亡霊ではない、生物だ。
「あいつは…!最近発見された新種モンスターだわ。もう適当に影と呼ぼう!」
影はドクロの声に反応し、両手を広げる。人型に近いが、少しばかり歪な姿をしているその影は、二人に明らかな敵意を持っている。
狭いリビングで、影は腕を伸ばして攻撃してくる!
テリーがドクロの前に立ち、その腕を殴りつけてカウンター。魔力で空中に骨を召喚し、影に向かって発射!
骨にぶつかった影は、怯んだような素振りを見せる。テリーはそのまま殴りかかるが…。
「うお!?」
骨の拳は影をすり抜ける。どうやら魔力の攻撃でなければ攻撃ができないようだ。
そうと決まればと、テリーは骨を無数に召喚、影を打ち付ける!
その光景を、ドクロは虫籠片手に見守っていた。
「あー、何か大丈夫そうね。ここは任せたわよ」
そう言うと彼女は近くの部屋の扉を開いた。激しい戦闘音が、不気味な屋敷の雰囲気を緩和していたおかげで、ドクロは単独行動もできそうだ。
「お、おい我が妹よ!?加勢してくれよお!!」
ドクロはそれから屋敷の部屋を回っていた。幸い、そこまで広くもない屋敷だ。
住人の個別部屋だったと思われる狭い部屋や、トイレ、浴室くらいしかない。テラーシはその殆どに現れ、複数の虫籠に収める事に成功した。
ドクロがリビングに戻ると、テリーと影は仰向けに倒れてお互いダウン。
「お兄ちゃんお疲れ。テラーシこれだけ集めてきたから、もう大丈夫っしょ」
「お前は調子いいな…」
立ち上がるテリー。影は恐れおののいたのか、窓から外へと出ていってしまう。
邪魔は撃退し、テラーシ達は集まり…この陰気で薄気味悪い屋敷とはおさらばできそうだ。
天井からこぼれ落ちる埃を片手で払いつつ、ドクロはテリーの手を取り、彼を引き起こす。
テラーシ達を格納した虫籠は光を放ち、まるでランタンのようだ。ドクロとテリーはそれぞれ虫籠を持ち、玄関を目指す。
「こうして見ると、確かに綺麗で可愛いわね」
「いやいやお前ほどじゃないぞ、我が妹が最高だからな!」
いつも通りのノリで、この件は終了…。
と思われた時。
「…お兄ちゃん、あれ、何?」
ドクロはテリーのノリにツッコミもせず、ある場所を指差す。
…そこには、影が立っていた。
玄関から少し進んだ、廊下の真ん中あたりで、その影はこちらを見つめてる。
はじめは先程テリーが倒した影か、その仲間だと思ったが…。
魔力を感じない。つまりあれはモンスターではない。
「…?」
となると、人だろうか。いや、違う。
人ではない。あの佇まい、オーラ…。
では…あれこそが、亡霊なのか…?
「…亡霊でもないな…」
テリーの言葉に頷くドクロ。
…何となくだが、そう感じたのだ。
となると、あれは一体…?
死神である二人ですら、得体の知れない、本能が何かを訴えかけるような恐怖を覚える。
その影は、ゆっくり、ゆっくりと姿を消していった。
…残るのは、寂れた玄関のみ。
…凄まじい悪寒に襲われた二人。
「…依頼主には申し訳ないけど…失敗した事にしよう」
ドクロの提案に、テリーも頷く。
彼女は虫籠からテラーシ達を解放、屋敷へと帰したのだった。
…あの影は一体、何だったのだろうか。