ここは不思議な世界!!
ワンダーワールドシリーズ、原点回帰します。
というか…また新たなるスタートといった作品にしていきます!
今度はできる限り気楽に読めるように書いていきます!!
地球のどこかに存在する、科学が発展した街、テクニカルシティ。
これは、この街に暮らす不思議な戦士達の戦いの物語。
多くの高層ビルが立ち並ぶ中、一人の少女が駆け抜けていく。
黄色く輝くツインテール髪に緑の瞳、ピンクのリボンを胸につけている。その姿は普通の人間のように見えるが、実際は違う。
彼女はこの街のアンドロイド。その名は「れな」。
れなに続き、彼女の後ろから走ってくる小さな影も見える。れなとよく似てるがツインテールが短めだ。
星マークがプリントされた服を着ている。
「待て待てー!お姉ちゃん!」
彼女は「れみ」。れなの妹である。
アンドロイド姉妹が追っているのは、風呂敷を背負った昔ながらの泥棒だ。
だがそいつは人間ではない。丸い一頭身の小さな体だ。
ボールから手足が生えたようなその小さな泥棒は、物凄い速度で街を駆け抜ける。
「やーいここまで来てみろ!」
泥棒は街の曲がり角でわざと止まり、飛び跳ねながら二人を煽る。余裕の様子に二人は怒り心頭。
「何としてもあいつを捕まえて、奪われた私達のゲームを取り返さないと!!!」
れなの足が地上から離れだす。アンドロイドである彼女は空を飛べるのだ。
れみも姉に続いて飛行を開始。泥棒目掛けて真っ直ぐに突撃する!
余裕そうな泥棒だったが…二人の体当たりにあっさり突き飛ばされ、あっさり転倒した。
「いや避けろよ!!」
れみが突っ込む。押さえつけられた泥棒は悔しそうに泣き喚く。
「畜生!!闇姫様、お助けください!闇姫様ー!」
闇姫様、その言葉にれなの体に力が込もる。
直後…住宅街の空に何かが現れる。
それは…例えるなら黒い流星。黒い闇の塊が、地上目掛けて降ってくる。
「っ!れみ気をつけろ!あいつが来る!」
左手を伸ばしてれみを守るれな。泥棒は立ち上がり、逃げてしまう。
一見逃げた泥棒を追うべき状況に見えるが、実際は降りてくる闇の方を優先すべきだった。
この闇の正体を、れなは知っている。
闇は地上に降り立つと、徐々に晴れていき…やがて、一つの人影が現れる。
黒いツインテール髪に、右目を隠す眼帯、赤い左目に紫のペンダントを提げた怪しげな女…その目は冷たく、しかし真っ直ぐにれなを見つめていた。
「闇姫!!またお前か!」
女の名は闇姫。れな達の昔からの敵であり、最も長く対立し続けてきた存在。
その正体は悪魔であり、一つの軍を従え、世界に悪事の種を振りまく事を目的としている。
闇姫はポケットに手を突っ込み、れなとれみを睨みつけた。
「相変わらずの間抜けヅラだな」
闇姫の挑発に飛び出していきそうなれなを掴みながら、れみが言う。
「おい闇姫!目的は何だ!?」
「今日はこいつにこの街の宝を盗ませようと思ってな」
泥棒の頭(?)を片手で軽く叩く闇姫。泥棒は短い手足をバタつかせる落ち着きない挙動で言う。
「そう!!俺は闇姫様の為にこの街の秘密の宝を狙ってるんだ!世界一美味いと噂のドーナツ、黄金のドーナツを!」
それだけ言い残すと、彼はその短い足を高速で動かしながら走り去る。
姉妹は慌ててそれを追いかけようとしたのだが…闇姫は二人の前に立ち塞がる。
「おっと、私が相手だ」
舌打ちと同時に、れなは両手を構える。闇姫と向かい合い、互いのツインテール髪を風に揺らしながら、一瞬も視線を外さない。
「れみ!ここはこの頼れる姉に任せてあの泥棒を追え!」
「分かった!」
れみが飛び出す。
れみは体が小さい分身軽で、動きが素早い。泥棒は必死に走り続けているが、れみは通行人を上手くすり抜けながら、泥棒との距離を一気に詰めていく。
強風が吹き荒れる中、街はちょっとした騒ぎになっていた。
「捕まえたぞ!!!」
れみは泥棒の風呂敷に手を伸ばし、掴む!
…が、直後風呂敷が開き、中から白い何かが飛び散った!
「うわああこれは!!足の爪じゃん!!」
「引っ掛かったな!?我が軍一不潔なおっさんの爪だ!」
頭を抱えながらパニックになるれみを嘲笑いながら、泥棒は逃げていく。風呂敷を失った泥棒は先程よりも怪しさが無くなり、少し動きやすそうにしていた。
その頃、れなと闇姫は、街の中心で激しい戦いを繰り広げていた。
互いの拳を突き出し、それを受け流し、反撃の拳を叩き込む。
闇姫の回し蹴りをれなは屈んでかわし、れなの高速連続突きを闇姫は手の平で全て受け止める。
二人の付き合いは長い。互いに嫌い合っているが、互いの出方をよく理解し合っている。
ある程度打撃を打ち込み合うと、一旦離れ、再び距離を合わせ合う。
「やるな闇姫…いや、やっぱ全然やらない!」
「お前こそだ、れな。まだまだ過ぎる」
一層視線が鋭くなり、怒り心頭で殴り合う二人。れなは叫びながら豪快に怒り、闇姫は静かな怒りを拳に纏わせ…。
その頃泥棒はテクニカルシティのドーナツショップで例のドーナツを探し回っていた。
受付で店員が慌ただしく動き回る中、メニューを見て目をあちこち動かしてる。
「えーと…黄金のドーナツ…金は足りるか…」
バカ真面目に唸る泥棒…そんな彼の耳に、怒号が飛び込む!
「いや、泥棒なんだから盗めよ!?」
ガラスの壁の外から、疲れ切った顔のれみが怒鳴りつけていた!泥棒は慌てふためき、その場から逃げ出そうとしたが、ここはあいにく狭い店内。あまり派手に動けず、あのれみの足の速さから逃れられるとも思えない。
れみは店の中に入り、泥棒に手を伸ばした。
泥棒は、ここで捕まってしまう事を覚悟した。しかし、ここで彼にとって予想外の事が起きる。
「コラコラお嬢ちゃん、何してるの?」
店員の一人が、れみの前に歩いてきた。れみの短い手を遮り、不気味に笑う店員の姿に、泥棒は何故だか希望を感じた。
れみは突然の事に不意を突かれ、一気に挙動不審に。
「えっ!えっと、あの、その、その…こいつは私の兄上で」
「兄上って、どう見ても種族の壁を超えてるよね?」
れみはそれからも色々言い放つが、簡単にあしらわれてしまう。その隙に泥棒は、周囲の座席の裏に隠れて外へと逃げ出した。他の客はれみと店員のやり取りに目を奪われており、泥棒にとってはこれ幸いと言った状況だった。
「ひゃほー!シャバの景色は最高だ!」
泥棒は歓喜しながら店から飛び出すが…。
「え?」
突如遠くから飛んでくる何かに、泥棒は呆気にとられる。
飛んできたのは…れなだった。
「うぎゃあああ!」
小さな体の泥棒は、れなの尻に押し潰されてしまう。
「た、助けてくれー!」
手足をバタつかせる泥棒…。
その一方で、れなは尻の下の泥棒にはまるで気づいていない様子。すぐ目の前に視線を寄せていた。
目の前から歩いてくるのは…闇姫だ。ツインテール髪を優雅に揺らす様は美しいが、同時に胸元に備えた握り拳はどこか野蛮さも伺わせる。
闇姫の拳は僅かに薄汚れている。
れなを拳の一撃でここまで吹き飛ばしたのだ。
もはや泥棒やドーナツの事など忘れている。お互い喧嘩に夢中だった。
闇姫はれなの前に立ち、拳を振りかぶる。
「とどめだ」
その時!店内から凄まじい音が響き渡った!
見ると…れみが、慌ただしい様子で自動ドアから駆け出してきた!店内は椅子やテーブルがひっくり返っており、正に大惨事と言ったところ。
「伝説のドーナツあったよー!」
叫ぶれみの手には、確かに輝くドーナツが!日光に照らされる昼間でも、その光はよく分かる。周囲の日陰が僅かに明るくなっているのだから。
一番反応したのは泥棒だ。れなの下敷きから抜け出し、ドーナツに駆け寄る。
「これは正に!黄金のドーナツ!よこせ!」
泥棒は軽快に飛び跳ね、れみの手からドーナツをぶんどる。慌てるれみから逃れながら、彼はドーナツを一口咥えてみた。
「…っ!?クッソ不味っ!!!!」
泥棒の口内に、不快な感覚が走る。これは…明らかに度が過ぎたヌメリ気に、舌の髄をくすぐられ、弄ばれるような異物感…明らかに「口に入れてはいけない」という情報を音よりも速く脳に伝達するような…。
ともかく、そんな不快なものだった。
苦しみ、舌を出して丸い体を地面にこすりつける泥棒に、れみが甲高い声を上げた。
「うえーいかかったな!それは店の床下に隠されている蛍光ペンキだ!!さっきの音は、私が床を持ち上げた音なのだ!」
「何で床の下に蛍光ペンキが溜まってんだよ!?」
泥棒はのたうち回り…そのまま気を失う。
闇姫はこの間抜けな泥棒を片手で掴み上げ、肩に担ぐ。まるでバッグでも担いでるような光景だ。
「ふん。今回はこいつの盗みに至るまでの動きのテストが真の目的だった。伝説のドーナツなど本当は興味はない。このまま帰るとする」
激しく息を切らすれなに対し、闇姫は余裕に見える。しかしながら彼女の首元には傷がついており、れなからのダメージを伺わせる。
勿論二人の喧嘩はこれで終わりではない。これからもまた、何かしらの件で現れ、拳を交えるだろう。
闇姫は背中から灰色の翼を射出し、空を飛んで帰ろうとした時だ。
「闇姫、本当に良いのかな?」
れみがニヤリと笑っている。
闇姫は背を向けたまま、れみの言葉に黙って耳を傾ける。無駄口だと分かっていながらも、彼女の余裕溢れる口調に少しばかりの興味もあった。
「このドーナツ、本当に黄金のドーナツかもしれないよ?ほら、輝いてるし」
「馬鹿か。そいつはゲテモノだとこいつが証明した」
泥棒を持つ手をあげる闇姫。れみはやれやれとばかりに首を横に振る。
「そいつの味覚は狂ってたのかもしれないよ。本当はめちゃくちゃ美味しいかもしれない。それとも何?天下の闇姫様がペンキを恐れるの?」
れみの挑発的な口調に、闇姫はゆっくりと振り返る。
そして、乱暴にドーナツをぶん取る。
「ふん、私がペンキなどを恐れると思うか?」
下らない虚言だが、付き合ってやる。こんな遊びに付き合ってやるだけありがたいと思え。
闇姫の心はそんな冷たい言葉で溢れていた。
…しかし、その色のない感情の中に、ほんの僅かにその感情はあった。
本当に黄金のドーナツかもしれないと。
一口、その輝きを齧ってみる。
「…っ!!」
…闇姫は白目を剥き、気を失った。
「作戦成功だああー!!」
れなとれみの歓声が、街に響き渡った。
…これは、不思議で気の抜けた、おかしな物語である。
黄金のドーナツは実在してる設定ですが、デマを疑われるのも無理ないほどに、誰も見たことがない超レアアイテム。