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南海のリゾート(後)②【先生のアノニマ 2(中)〜35】

 マックルズフィールド(たい)中心部から南西約二〇〇kmの南シナ海上。二月中旬某日午前、そこへ到着したドロシーは、ついにその夜を待ってジーザス(クソッタレ)作戦の口火を切った。その直前のブリーフィング。

「パラセル(西沙)諸島の南東部にボンバイ(浪花)礁という環礁がある」

 朗々と語る紗生子の口から、ようやく作戦詳細が開示されたその内容は、まず地理的情勢の確認から始まった。

「その環礁の東端からマックルズフィールド堆の中心までの直線距離は約二〇〇km──」

 その直線を半径とした全円内を絶対防衛圏に設定した敵方は、そこへ侵入する者を事前通告なく攻撃すると宣言。そのため、その外縁直近を海上民兵という名の中国海軍が取り囲んで二か月だ。そろそろ、

中弛(なかだる)みする頃合いだろう」

 という紗生子の推測は正しい。が、問題は明らかになった敵兵力だ。敵方が実験潜水艦の他に、洋上プラントとイージス艦を有する事は既に出たが、

「新たにドローン専用空母の配備が明らかになった」

 それを聞かされてげんなりしたのは俺だけではないだろう。空母とは言ったものの、実際には最新鋭の強襲揚陸艦に位置づけられるそれは、全長二五〇m超、排水量四万t超という巨大さを誇るとんでもない後出しのおまけだ。ドロシー同様、最新鋭の電磁カタパルトを搭載しており、

「何機いるものやら分からない」

 と、珍しくも紗生子が匙を投げたその航空戦力は、有人・無人機合計で五〇前後は固いだろう。それはちょっとした小国の空軍力に相当する。しかもそれらは、最新鋭にして未把握の手強い機体の集団である事は言うまでもなく、中国軍が手を出したがらない訳だ。まともにやり合えば、只では済まない。

「明確な作戦が見出せない中国現政権側は、当然静観を決め込んだ」

 圧倒的物量を活かして包囲網を緩める事なく、囲む船を交替で入れ替えて兵糧攻めを決め込むぐらいの事だ。

「その流れを利用して、我らは作戦海域を遠巻きに左回りで現海域までこっそりやって来た訳だが──」

 敵方はおろか、中国海軍側にもその存在は認知されておらず、見つかれば友軍と考えて良さそうな後者でさえ攻撃してくる可能性がある

「──勝手気ままな幽霊船状態だ」

 とかいう際どい立ち位置が、安定的に俺達の存在意義としたものか。それでも政治レベルの裏交渉で、

「今次の作戦の成否は、全てこの艦の責任。更に言うなれば私の責任だ」

 が、一人ではどうにもならないため、その生贄(・・)になったのが俺とXF-39(ヒートヘイズ)だ。それは同機による事実上の単騎特攻作戦であり、昨春紗生子が海外出張(ウクライナ派遣)時に、まさにそう(生贄と)(うそぶ)いた機体でそれを決行する事の、これを因縁と呼ばずして何なのか。

 ブリーフィング後。夜が深まり、雲間に欠けた月が上がるのを待って、俺達は静かに出撃した。

「下弦の月ですね」

 つい漏らしたくなる程の、穏やかな月夜だ。それを聞いた後席の紗生子が

「ふは」

 と、返事代わりの失笑を漏らす。

「いや、椿説弓張月(ちんせつゆみはりづき)のようだと思ってな」

「何の昔話ですかそれ?」

「流石に知らんか。【里見八犬伝】は知ってるだろう?」

「滝沢馬琴ですか?」

「本来の戯号(ぎごう)曲亭(きょくてい)と言ってな──」

 その江戸時代の作家が書いた、勧善懲悪ものの伝奇物語らしい。

「保元の乱に破れて伊豆大島に流された源為朝が、そこを抜け出して挙兵するんだが、海で嵐に遭遇して琉球に流され──」

 琉球平定と王朝建国に、その悲劇の英雄を絡めたその話は、南総里見八犬伝に並ぶ大ヒット作となり、

「馬琴は原稿料だけで生計を営めた、日本初の作家と言われている」

「そうなんですか」

 だから、何だというのか。

椿説(ちんせつ)ってのは、珍説(ちんせつ)と同意だ。転じてバカ話って意味で──」

 要するに、下弦の月のバカ話という

「タイトル的な意味合いが、今の状況と被った事がついおかしくてな」

 確かに、こんなバカ話でもしていないとやってられない、そんなやさぐれ具合をつい漏らしたという事だろう。

 それは──

 分からないでもない。狂った単騎駆けだというのに、俺達は失速下限一杯で、のらりくらりと目標へ向かって飛んでいる。一触即発の状況のくせに時間がかかるそれは、イラ症の紗生子からしてみれば堪らないだろう。

群れ(・・)は順調のようだ」

 とは野生のツバメの事で、俺達より少し先行した敵空域内を、南西から北東方へ向け飛行中だ。その中に、一見して本物と区別がつかない程の精巧さを持つドローン(偽ツバメ)を紛れ込ませる。これこそが紗生子の考えた作戦の要だった。

 南シナ海では二月にもなると、南方を越冬地とする夏鳥の渡りが始まる。何日か前の昼休み中に、学園の主幹教諭室でテレビを見ていた俺が、

「ツバメの渡りに紛れこんで──」

 の特攻作戦に気づくと、紗生子はその上をいく内容を語り始めた。

「その習性を利用する。紛れ込むだけではステルス機といえども敵レーダーに捕まるだろう」

 と、デカいプレジデントデスクの何処からともなく取り出したのが、ツバメドローンだった訳だ。それは、

「佐川先生の──」

 あの模型だった。

「アマツバメモデルだ。中身も中々の優れ物でな──」

 先行する飛行物体に合わせ、自動追尾で、

「数百km!?」

 も飛行する能力があるとか何とか。

「最初にロックオンする必要があるのはミサイルと同じだ」

「ホント凄いですね、佐川先生」

 その貢献度の高さは、毎度恐れ入るばかり。

「あの爺様は毎度いい仕事をする」

 台湾在住時、確かに日本へ向かうツバメの群れをよく見たものだ。それをまさか囮に使うとは。それを作る方も凄ければ、その発想がまた凄い。

「アマツバメは一般的に昼に渡ると言われているが、鳥類の中では──」

 長距離飛行に最も優れた部類の鳥にして、ある追跡調査によると、

「一〇か月以上!?」

 も空を飛び続けていた強者がいるらしい。しかも水平飛行では、一〇〇マイル以上で飛ぶ事もある、鳥類最速クラスの鳥。それが満月などでは、恐らく飛ぶための目印の星を見るためなのだろうが、四、五〇〇〇m上空を飛び、極めつけは、

「空を飛んでいると、寄って来たりするんですよ」

「見た目によらずタフ(・・)な神経を持っているところは君そっくりだ」

 俺の事はよいとして、戦闘機と一緒に飛ぶという話は実際にあり、俺にも覚えがあった。そのタフな連中の中でも、夜に敵勢力上空を渡る群れにロックオンして、佐川先生謹製の偽ツバメ(・・・・)を紛れ込ませる。

「こんな陽動作戦は流石に──」

 聞いた事がないそれは、敵レーダーを欺くための撹乱作戦だった。

 軍用レーダーの精度とは、実は見え過ぎて切りがない。鳥などは余裕で映り込むため、普通はフィルターをかけている。レーダー波の跳ね返り具合などで識別し、それを映さないのだ。精度を落としているという言い方も出来るだろう。

「そこを逆手にとる」

 それはまさに、紗生子の質の悪い魔法だ。フィルターで普通は見えない筈のツバメの群れに、いくつかの偽ツバメ(・・・・)を何羽か紛れ込ませる。偽物の中身は、プラスチックや金属等の固い無機物だ。レーダーは、本物のツバメの群れの中の固い(・・)その物体を拾う。が、偵察機で寄って見たところで、間近で見てもツバメと瓜二つのそれだ。当然見分けがつかず、

「何故ツバメの群れをレーダーが拾うのか──」

 疑いが生じる。が、飛んでいるのは数千m上空だ。捕獲して調べる事も出来ず、理由は分からないまま。となれば、

「周囲を隙間なく包囲された連中の事だ」

 そのまま監視を続けなくてはならない。外ならぬ中国は、ドローンを始めとする無人兵器開発の大家だ。

「必然──」

 何度となく同じ事を繰り返す事で、無駄な物を拾い続けるレーダーを監視し続けなくてはならないその担当者は、

「疲弊すると共に──」

 その異常に慣れる。その上でこの罠の凄いところは、何かの格言通り、敵味方関係なく惑わすところだろう。包囲網を敷く中国海軍内でも、レーダーに鳥が映り込む謎の現象が噂になる。怪奇説、不具合説、作戦説等々。渦巻く疑問が俄かに混乱を招き、密かにそれを盗聴する敵方も、その事実を認めざるを得なくなる。それでもしばらくは根気強く監視しただろう両軍の目達も、最後は人のやる事だ。

「人を上回る目が、人によって失われる瞬間がくる」

 長期間の包囲網で、慣れがダレを呼び込む。その瞬間的な油断を点とするならば、それがやがて断続した線になり、ついには線になる。

「機は熟した。これを逃せば手を出せなくなる」

 前線部隊が頻繁に入れ替わる包囲側に紛れてその外縁へ接近。夜に渡るツバメを待ってドローンを放ち、それを囮に後追いで実機が出撃。やはりドローン同様ツバメを装い、失速ギリギリでこっそり敵拠点へ特攻する。その役にXF-39(ヒートヘイズ)が選ばれたのは、外ならぬ失速速度の低さと高機動性だ。ツバメと一緒に飛ぶ事が出来る程の身軽さと、先制攻撃後に必ず訪れる乱戦に優れた特性を持つ機体。その上で、もし敵がレーダーに映り込む偽ツバメをフィルターにかけたなら。ステルス機のステルス性能とはピンからキリまであるが、ドロシー搭載の三機なら間違いなくレーダーから消える。

「兵は詭道(きどう)という事だ」

 最低速で特攻というジレンマは、まるで、

「【だるまさんがころんだ】をやってるみたいですよ」

「やった事あるのか?」

「幼少期に何度か。──あるんですか?」

 紗生子がそれで遊ぶイメージは、どう考えても湧かない。が、

「最近だと、沖縄沖でやったな」

「そんな事もありましたね」

 紗生子ともなると、それも命懸けだ。昨夏の体育祭の折の潜入作戦時、大型クルーズ船の背後からこっそりオスプレイで迫り、俺を助けてくれたこの魔女の肝の太さだろう。今回のそれは、任務の重大さの分だけスリルも倍増だ。

 今次の作戦は、足掛け三か月にも及んでいるが、勝負は一瞬。この夜に決まる。勝てば事は収まるが、負ければ事が明るみとなり、中国軍の面子は丸潰れ。どれ程安く見積もっても、政局に多大なる影響を及ぼす事は間違いない。となれば、密約でこの処理を担っている日本側は勿論の事、秘密外交で何かをすり合わせてきた日米中三か国の、少なくともここ一年の成果は水泡と化すのだろう。

 何という──

 その責任の大きさだ。考えれば考える程、紗生子ではないがやり切れなくなる。

「今のところ気づかれては──」

「──いませんね」

 守勢の敵方は、レーダーを存分に使っている。イージスと、無人偵察機と思われるものが一つずつ。アクティブモードでツバメの群れや、それから少し遅れている俺達をビシビシ捉えている筈だ。が、どうやらフィルターをかけているとみえ、気になるような動きはない。

「幸いにも風向きがいい。少し速度を上げてみるか」

「了解」

 それに合わせて、先行するデコイの群れを追い越さないよう、本の少しだけ頭の向きを、より敵拠点側にズラした。

「こんな感じで?」

「そうだな。敵に近過ぎるコースで刺激したくない」

 先行するデコイの群れは、敵勢力圏の円を北を上として縦横の中心線で四分割にしたならば、円の左下から上側の頂点のやや左側を目掛けて飛んでいる格好だ。ほぼ直線的なコースだが、それでも敵の円の中を二〇〇kmは飛ぶような行程であり、通過するのに二、三時間はかかるだろう。対して俺達はそれに倣い、かつ少しでも敵の中心に肉薄するべく、そのコースの少し内側を真っ直ぐ飛んでいた。が、この微妙な進路変更で、更に敵の拠点近くを通過するコースとなった訳で、果たして何処までこのまま肉薄出来るものか。

「どの辺りを唱えていると思う?」

「だるまさんの鬼がですか?」

 何れにせよ、バレてしまえば開戦だ。そうなれば周囲を囲む中国海軍のうち、大多数を占める海上民兵は恐らく逃げるか、更に沖へ引くだろう。大した武装をしていないのだから当然だ。となると、浮き彫りになる軍艦は敵のターゲットになり兼ねない。漏れなくドロシーもその一つだ。が、それには今、プロジェクトを担う民間人がそれなりに乗っている。見かけは最新鋭の駆逐艦だが、その実態は多くの半官半民クルーで切り盛りされているような有様だ。その母艦が、

 狙われる事だけは──

 避けなくてはならない。だからこその単騎駆けでもある。開戦してしまえば、敵がドロシーに向かう前に叩けるだけ叩く。撃ち漏らした分は、ドロシーに残るXF-37(ラウム)が撃ち落とす。が、その危険を感じさせた段階で、軍人としては能無しのレッテルを貼られたも同じだ。破壊が仕事という野蛮な生業で、満足にそれが出来ないのだから呆れられて当然だろう。

「今更だが、やはり謝っておく。すまない」

 脳内の意識が少しばかり別事に傾いている隙に、紗生子の口が謝罪を吐いた。

「──ま、全くですよ。こんな時に」

「今の君はアメリカ人(米国籍)だが、日本に出向中でもある。無茶を頼めるのは君しかいなかった」

「全部録音されてますよ」

「別に聞かれたところでおかしな話でもない」

 無線は封鎖している。その電波を敵に拾われ兼ねないからだ。だからリアルタイムで会話を聞かれる事はないが、後で作戦の検証をした時などには筒抜けになる。

「自分の命のやり取りには慣れっこだが、それを人に命じる事にはいつまで経っても慣れなくてな」

「遺言でも残すおつもりですか」

「そうじゃないが、そうとられても仕方ないな」

 全くいざとなると手厳しい、と失笑する紗生子が、珍しくも弱気のようなものをチラつかせる。

「こんな時でないと、出ない言葉があるのさ」

「それはそうですが──」

 妙な事を言われても、それこそ作戦に支障が出兼ねない。

「私に睨まれたがために、君にはいつも貧乏クジを引かせてしまって、これでも悪いと思っていたんだ」

「そんな事──」

「──あるさ」

「どのみち──」

 血塗れの俺だ。

「最後はろくな死に方しませんし」

「それは私も同じだ」

「今更貧乏クジなんて、引いたところでそれこそ今更ですよ」

「まぁそれもそうだな」

 大体が俺は、クジとか占いとか、そういう類いの物をまるでやらない。それで一喜一憂するのがバカらしいのだ。そんな暇があれば、自分に都合が良くなるように、少しでも前向きに尽くせばいい。それこそその方が、余程運が向いてくるというものだろう。運はそうやって引き寄せるものだ。

「そういえば俺、ご褒美決めたんですよ」

「それこそ、こんな時だな」

 わざとらしさは承知の上だが、荒事前に湿っぽくなるよりはマシだろう。

「まぁ内緒ですが」

「そうか」

「そのためにも絶対帰ります」

 それこそ無線で言えたものではないが、その褒美は紗生子がいなくては貰えない。そのためにも、

 絶対──

 生きて帰す。俺にしては珍しくも俗っぽい要求なのだが、それが他人を助ける事を兼ねるのであれば、許してもらえそうな気がしないでもない。

 そんな事を勝手に思っていると、小さくも耳につきやすいポップ音が一つ鳴った。それと同時に、後席の様子が急に冷える。

「いいところで邪魔をしてくれるな」

 敵の無人偵察機がこちらに頭を向けた、その注意喚起だ。方向感なくランダムに敵勢力圏内をふらついていたそれが、意思を持って俺達に回頭した事が、ディスプレイに映し出される偵察機の動きからも見てとれる。

「やはり定期的にフィルタリングをカットしていたか。中々用心深いヤツがいるようだ」

「欲が過ぎましたか」

 近づき過ぎて用心されたらしい。それでもXF-39(ヒートヘイズ)は、敵レーダー上でどんなに大きく見えたとしても、ツバメより小さく映し出されている筈だ。それを捉えたレーダーが一つなら、他にも映り込む雑多な物のせいで、まず選別など出来ていない。まして今は、本物のツバメ並みの速度で飛んでいる事でもある。が、

「イージスや他のレーダーもあるんだ。よく騙せた方だろう」

 敵から飛んで来たレーダーの一つを別の所に弾いてやり過ごしたとしても、そのやり過ごしたあさって波(・・・・・)を、別のレーダーで拾われては、隠れ続けられるものではない。目は多いに越した事はないという事だ。算出された会敵予想は、三〇〇秒を切っている。

「それにまだ完全に気づかれた訳じゃない」

 勢力圏内は警告なしで攻撃すると言っている敵だ。敵認定されたならば、緊急発進(スクランブル)で何機か飛び出してくるか、ミサイルなりを撃ってくるだろう。が、今のリアクションは、とりあえず確認するレベルを脱していない。つまり、謎のツバメの呪縛に囚われているままだ。

「しかも前方からの接近だ」

 後ろから近づかれてエンジンの熱を捉えられない分だけ、

「我らに運がある」

 全ては紗生子が事前に仕込んだ

「奇策の賜物でしょう」

 それは運ではない。

「奇策は良かったな」

 これが速度任せの特攻だったなら、早速バレて防戦一方になっていた訳だ。それを思うと、色々と耐え忍んでの今の状況の優位性なのだが、これ以上は騙し続けられないだろう。

「ちょっと距離があるがやむを得ん」

 敵方の拠点までは、まだ七、八〇kmはある。が、今時の偵察機とは、赤外線カメラやミサイル誘導システムは搭載していて当然だ。先にロックオンされてしまうと、何処で何に襲われるか分かったものではない。つまりは、

「──始めますか?」

 先制攻撃あるのみ。何であろうと、そこで躊躇するヤツは生き残れない。

「だるまさんがころぶ前に叩くとしよう」

 紗生子の冷たい決意が、敵の方々をロックオンし始めた。小気味良い操作音の早さと各種選択の手際の良さは俺の比ではない。つい先日、それをし始めた者とは思えない熟練の手業が、恐ろしく早い流れ作業でウエポンベイのミサイルを一気に吐き出す。その即断即決振りは、惚れ惚れする程に魔女の真骨頂だ。それにしても、

 ──最初に全弾使い切るか。

 火器の扱いは紗生子の分掌であれば異論はない。が、その豪快さは俺にしてみればプレッシャーで、転じて俺なら後は何とかするだろうという信頼の証でもある。小兵のXF-39(じゃじゃ馬)が抱えられるミサイルは、中型以下の物だと八発が限界。その数も貴重なら中身もそうで、発射したのは本国(米国)が開発中の空対空ミサイル(AIM-260)だ。マッハ五を超える次世代型極超音速弾で、そこはやはり実験(テスト)を兼ねている。それを上空の無人偵察機と、プラント、イージス、空母の各レーダー目掛けて二発ずつ。要するに、まずは敵の目を潰す(・・・・)というその戦術のために、残る武器は、今度こそ正真正銘単門の五〇mm機関砲から放つ五〇mm弾がたったの一〇〇発と、やはり開発中の小型精密誘導弾が三ダースだ。この苦しい台所事情でミサイルが、

 外れた日にゃあ──

 何かに祈るようにその行方を眺めながらも、俺は頭を敵の拠点に向け、一気に超音速の壁を突き破った。優れたパッシブレーダーで敵の動きをこっそり見ていたとはいえ、ミサイルをぶっ放してしまえばツバメは終わりだ。ここからは、お互い姿をさらけ出しての乱戦。押し潰されそうな緊張感の中で、呼吸を忘れ窒息した瞬間にあの世が待っている。目覚めた時には針山を登らされているか、血の池で溺れている事だろう。

「ホント速いなこのじゃじゃ馬は。ミサイルに追いつくぞ?」

「そりゃないですよ」

 紗生子のそれも当然冗談だが、それでも既に放ったばかりのミサイルの速度の半分に肉薄し、未だ加速し続けている。敵からすれば、迷いのない直線的な突撃は脅威に外ならず、まさに往年の零戦特攻(神風アタック)のような不気味さを醸し出している事だろう。単純な速さもそうだが、加速の早さもまた特質すべき XF-39(じゃじゃ馬)の特徴の一つだ。が、そのために生まれる加速Gは、通常機のレベルを派手にはみ出す文字通りの暴れ馬な訳で、それを問題にせず、それどころか冗談を吐きながらミサイルの誘導を続ける紗生子は、恐るべき操り人形師(パペッティア)といえる。

 そんな敵味方の思惑が、作戦空域にくっきりと現れる事数十秒後。ディスプレイに初弾以外の命中(ヒット)表示の羅列が出現した。八発中七発命中だ。同時に敵レーダーからの反応が、丸ごと抜け落ちるようにダウンする。対空兵器で威力は期待出来ないというのに、まさに物は使い様だ。これで躊躇なく突っ込む事が出来る。

「よし。進路速度このまま」

 同じよしみ(じゃじゃ馬)らしく、フィジカル・メンタル共々のタフさが際立つ欲張りなその魔女が、

「やはり実戦は難しいな」

 と、不服気に呟いた。撃墜されたのはイージスを狙った一発目。極超音速飛翔体を落とすなど、恐らくは新型CIWS(近接防御火器システム)を配備していたのだろう。俺達同様やはり敵方も、新兵器のテストユニットだったのか。ともかく、その上をいった紗生子の強さだ。

(デコイ)でしょう?」

 ディスプレイ上で、一発だけ僅かに先行させたそれが狙われる隙に、他のミサイルがターゲットを落とす様が映し出されていた。その妙は、口で説明する程簡単な事ではない。が、事実として、敵は軒並み()を失い、事実上の散開状態に陥っている。チャンスだ。

「相変わらず良い目をしているな」

 と、余裕を見せていた紗生子が何かのタイミングを見計らい、今度は無線を開放した。

「ナイトメアから各局宛て──」

 約一年振りのそのコールサインが、作戦プラン通り総攻撃命令を下す。まずはXF-38(オウペイク)の出撃と、レールガンの援護射撃だ。

「──砲身が焼きつくまで連射後、ドロシーはそのまま待機」

 淡々と迷いのないその口調が一拍後。こんな所でも一人何役かを担う女が、すぐ目の前の俺に無線で追加の命を達する。

「ダブルエイチ(XF-39(ヒートヘイズ)のコールサイン)は現任務を続行。サミット(敵拠点)到達後は撃ち漏らしを叩け」

「ダブルエイチ了解」

 無線を開放したなら、全局リンクのリアルタイム交信だ。友軍が全員耳を傾けているそれで、余計な口は慎むべきだが、

「ジョー(XF-38(オウペイク)のコールサイン)発進完了! 現場まで四分だ! 無理すんじゃねぇぞタフ! 俺が行くまで持ち堪えとけ!」

 とかいう約一名のがなり声は置いておくとして、昨春のウクライナ派遣時なら俺も同じ事をしただろう。去年の紗生子なら、これ以後の乱戦下で派手に飛び回る可能性を御注進しただろうが、今の魔女にそれは下世話だ。WSO(兵装システム士官)は、パイロット同等の身体能力を求められるが、紗生子は既に俺に近いレベルに到達している。

「ダブルエイチ、四五秒後にエンジンスロー。レールガンの弾着を確認後、誘導弾を発射し散開。後は追って沙汰する」

「了解」

 感情レベルが抑えられたままの小気味良さは、日頃殆ど見る事がない紗生子だ。この声を背に飛ぶ事の、今は何という心強さだろう。確かに今の俺は、際どい任務で死地に飛び込んでいるが、名実共に背後から押し寄せる増援に、

 ──守られている。

 敵の一点目掛けての特攻の道中は、予想していた事ではあるが、何事も起こらなかった。先手必勝の格言通り、その成功報酬は大きい。何かの武道の立ち合いに例えるならば、開始直後の目潰し(・・・)といったところで、紗生子ではないがそれはまさに詭道(きどう)だ。が、普通狙い通りに決まるようなものではなく、それはハイテク塗れの現代戦でも何ら変わらない。それを見事に、最初の一撃で決めてしまう紗生子の、

 まさに魔女っぷり──

 ここに極まれり、といったところだ。敵にしてみれば、悪い夢でも見さされているような、そんな気分だろう。まさにそこも、悪夢(ナイトメア)のコールサインを使っている魔女の事だ。

 この女の目には──

 一体何がどのように見えているのだろうか。戦闘中に頭の何処かで、そんな無駄な物思いにふける余裕があるなど、これまで経験にない事だ。かといって呆けている訳ではなく、五感は状況の変化を拾い続け、脳は冷静にそれを受け止め切れている。

 時間が──

 経たない。ディスプレイの計時機(タイマー)を見れば、戦闘開始からまだ一〇〇秒弱だ。これがパイロットウオッチのアナログ時計なら、見間違いを疑っただろう。嫌な感じではなく、むしろ戦場でなければ永遠に体感し続けたいぐらいの心地良さだ。背中を預ける事が出来る者の存在とは、

 ──こういう事か。

 それをまさか、紗生子からもたらされるとは。

 そんな事をモヤモヤ考えていると、その後席が思いがけない事を吐いた。

「ダブルエイチ、速度計は正常か?」

「え?」

「速さを感じない」

「まさか──」

 Gロックで意識障害を引き起こしたのか、と思いきや。

「──そうじゃない。生体データも正常だろう?」

 搭乗者のそれ(生体データ)は搭乗者間はおろか、管制サイドにもリアルタイムで計測されている。そこはテスト機ならではだが、異常値は検知されておらず、それどころか紗生子のそれは、地上でリラックスしているようなデータだ。

「ゆりかごの中は、こんな感じなんだろうな」

 当然その頃の記憶はないんだが、などと、放っておいたら何を言い出すか分からない。

「ダブルエイチ、オーダークリア!」

 わざと被せて惰性飛行に移ったところで、頭上を次世代の大砲が抜かし始めた。レールガンの援護射撃だ。一〇発撃ったところで砲身が焼けたらしく、その容赦ない弾幕が、今度は敵拠点の各艦橋(ブリッジ)を貫く。

「誘導弾発射」

 大砲の弾着を確認した紗生子が、間髪入れずにロックオンしたターゲット目掛けてそれを放出し始めた。一〇秒足らずで景気良くも二ダースを使い、またしてもそれが見事にプラントやイージスの砲、空母のカタパルトなどを破壊する。これで敵主要施設は、攻撃手段を殆ど失ったといっていい。が、

「やはり上がって来たな」

 紗生子が呟くと同時に、火だるまになりつつある空母から機影が上がって来た。誘導弾が着弾寸前に離陸した敵機だ。全部で二編隊八機。それが前後挟撃で、しかも上をとられている。この修羅場でよくぞこの数が上がって来たものだが、感心している場合ではない。

 この状況──

 普通は死んだも同じだ。

 二編隊のうち六機は、既に米軍内で把握されているステルス型の高速無人攻撃機。そのウエポンベイには空対空ミサイル八発と大型精密誘導弾。加えて電子妨害(ジャミング)システムを持っている、中々厄介な忠実なる僚機(ロイヤルウイングマン)だ。しかも滑走路に依存しない、ロケットブースター型の打ち上げ離陸が可能という使い勝手の良さで、こちらとしてはこの数の迎撃で収まった事は幸運と見るべきだろう。

「ダブルエイチ散開。敵編隊を駆逐しろ」

「了解」

 更に問題なのは残る二機だ。これは安全に正体不明機(アンノウン)だが、明らかに無人編隊を統率している。有人機だろう。やはり優秀なレーダーを持っているようで、(せわ)しいビープ音と共に早速ロックオンされた。後ろの編隊から発射されたミサイルが三発。一子機(・・)当たり、まずは一発ずつの小手調べらしい。

 ここはセオリー通り──

 海面へ逃げる。じゃじゃ馬をひっくり返した俺は、急降下に入った。いきなり状況は極めて不利だが、悪い事ばかりではない。現段階で既に得意の接近戦だ。ここでミサイルがあれば、それこそ紗生子の腕なら物凄い戦果を上げた事だろうが、それを今言ったところでどうにもならない。残すは軽戦闘機にあるまじき、狂気の戦車砲紛い五〇mm弾が一〇〇発と、誘導弾が一ダース。それを活かすには、超接近戦(ドッグファイト)しかない。

 と、そこへ、

「無茶すんじゃねえ! 俺が行くまで待ってろ!」

 とは、パイロットの事情が読める流石のテックが割り込んでくる。が、その現場到着は早くても二分以上先だ。とても待てないし、何にせよXF-38(オウペイク)は今作戦上では切り札(・・・)を抱えた身重の身。ドッグファイトに巻き込む訳にもいかず、もう一機のXF-37(ラウム)はドロシーのお守りで応援は望めない。何れにしてもこの二機は、陰謀論者に飲み込まれた前艦長によって、仕様詳細が敵方に抜けている可能性が高いのだ。最前線で余り宛てにし過ぎては危険だろう。それを理解した紗生子の殲滅命令な訳で、

 ここは──

 引き続き、じゃじゃ馬の特攻局面だ。その勢いで敵拠点上空へ向かうと、対峙していた一編隊はそのままドロシーへ向かい、後ろをとられた一編隊がそのままじゃじゃ馬に食いついて来た。

 まぁ──

 定石だろう。出来れば二編隊とも俺に釘づけにしたかったが、動きの軽さから兵装の少なさを見透かされたようだ。一編隊で鼻先を飛ぶうるさいハエ(ヒートヘイズ)を叩いておいて、先行する編隊と合流するつもりなのか、それともそのまま拠点で要撃に徹するのか、

 分かんねぇが──

 俺はとりあえず、追って来た編隊を

 ──叩く。

 一編隊でもミサイルを三〇発以上は抱えているだろう編隊だ。海面スレスレの弾丸飛行で三発のミサイルをやり過ごすと、今度は六発撃たれた。敵拠点は目前で、俺はそれに向かっているのだが、

「余程自信があるようだ」

 紗生子が漏らした通りだ。俺がそれを躱せば同士討ちの恐れの可能性がある訳で、そこはそれを全く恐れない無人機ならではの特性としたものだろう。その六発毎敵拠点へ飛び込むと、暗闇の中で照明が明滅するプラントを挟むように接岸しているイージスと空母が目視で確認出来た。噴煙が立ち込める中、動けないどころか目立った反撃すらない。やはり混乱状態だ。何れにせよ今は、修羅場と化しているその敵地ど真ん中を活かさない手はない。

 敵地で機能不全に陥っているオブジェクトを巻き込み全弾をやり過ごすと、今度は海水を被る勢いで海面スレスレを編隊目掛けて突っ込んだ。敵機には相変わらず上をとらせたままで、それを良い事にまたミサイルを三発撃たれる。

「下をとります」

「任せろ」

 正面斜め上方から撃ち込まれた敵ミサイルの着弾予想地点を、速度で凌駕し突き抜けると、そのまま捻り込んで敵編隊の下をとる。そこから一気に真上に向かうと見せかけて、背後をとられる事を嫌い降下し始める敵との交差地点を狙う。決まってしまえば殆ど単純なインメルマンターンのようなものだが、これが予定通り奏功。すれ違い様に親機以外の三機を落とした。

「お見事!」

 思わず叫ぶ程の、紗生子の射撃精度だ。表面的には、ドッグファイト中に超音速で飛び回りながらも武器が使えるという、恐るべき敏捷性と強度を兼備した、何ともチグハグな機体のポテンシャルの勝利に見える。が、その中で敵を狙い落とす紗生子の腕が、それ以上に桁違いだ。軽戦闘機に戦車砲紛いの出鱈目な単門機関砲のそれで、文字通り一瞬のすれ違い様に撃墜するその様は、最早精度とかいうレベルではない。昔テレビで、野球のボールを一度に三方向へ投げる名人芸を見た事があるが、まさにそんな常人離れした技の中での居合い切りのような。その研ぎ澄まされた何かの片鱗の凄まじさだ。

 それに比べて──

 敵は何処か不甲斐ないというか、無人機は確かに思い切りのよい機敏さを見せてはいたが、その動き出しが鈍いような素直過ぎるような。その輪をかけて鈍いのが親機だ。淡い月明かりの中で通過様に見たそれは、見た事もない大柄のデルタ翼機で、しかも尾翼がなかった。それを今度は、上に回り込んでの急降下であっさり撃墜すると、ドロシーの方へ向かったもう一編隊を追いかける。が、これがすっかり高高度に位置しており、しかも驚く程速い。既に後から出たテックの鼻先におり、XF-38(オウペイク)から放たれた空対空ミサイルで散開しつつあった。いくらテックでも、重装状態での四対一だ。

 ──ヤバいな。

 と思いきや、どうも様子がおかしい。

「大丈夫そうだぞ?」

 紗生子もそれに気づいたが、テックは後で大事な仕事が待っている。俺が仕留められないまでも、挟撃の牽制になればと思い全速力で追いすがると、子機の一機がオウペイクのミサイルであっさり撃墜された。残りの二機も動きは機敏だが単調で、逃げる先が読めてしまう。子が子なら親機もそうで、速度任せにどうにか躱した感が強く、今や当初向かっていたらしい方向から大きく外れ、何処へ行こうというのか、だ。結局、残った三機とも、後を追った俺の方にわざわざ戻って来て、紗生子の射撃によってあっさり撃墜されてしまった。

「全機撃墜。ダブルエイチは先行で再度サミット(敵拠点)へ向かえ。状況を確かめる」

「了解」

「何だったんだろうなぁありゃあ?」

 サミットまで後一分と迫るテックの緊張感は、相変わらず殆どない。そのせいだろう。

「J-36だな」

 紗生子が呟いたそれに俺も、

「あれが──!?」

 と、つい乗ってしまった。索敵(露払い)しながらの再先行なのだが、それ(J-36)が本当なら、まさにテストユニットの意義深さだ。実戦でそれとドッグファイトなどと、世界広しといえども初めてだろう。

「──通りで」

 高高度を高速巡航で敵陣へ侵入し、視界外(オフサイト)からの先制攻撃により、視界内での交戦リスクを減らすそれ(J-36)は、従来のステルス爆撃機の構想に近い。

「いくら第六世代機といえども、得手不得手があるという事だ」

 尾翼がないその次世代機が、操作性に難があるのは当たり前だ。明らかにドッグファイトに不向きな機体で、それをせざるを得なかった敵方パイロットが気の毒ではある。が、躊躇していれば死んでいたのは俺達だ。

「無人機の方は、データの積み上げ不足という事ですか」

「自立学習型のAIなら、既に人間など相手にならん」

 データを蓄積し、その上学習を重ねていくそれは、確かに何かと怠惰に流れやすい人間など相手にならないだろう。それを根拠とする手数(パターン)の多さでも絶対に敵わない筈だ。機械やコンピューターからすれば人間など、不確実性の塊に過ぎない。

「──が、人間にはそれらを凌駕して余りある感情があるからな」

 データを根拠とし理詰めをモットーとするAIが、人間に及ばないとすれば今はそこだ。その不確実性の最たるものが生み出すものの凄さという事だろう。先程のドッグファイトでいうなれば、

「想像力とか直感ですか」

 といった、根拠の不確かな勘働きという事なのだが、それが勝負を分ける大きな要因である事も確かな訳で、要するに紗生子程の女でも、

「世の中理屈だけでは通らんという事だ」

 という、月並みな結語に辿り着くのが現状だ。

 ──が。

 近い将来、それは必ず根底から覆される。人間がぼんやりしている間に、AIは延々学習を続けているからだ。地道な努力を確実に積み上げるそのひたむきさは、何れ想像主たる人間が思いもつかない何かをやってのけるに違いない。それが迫る不気味さを感じているのは、俺だけではない筈だ。

 俺の分野で言うなれば、それまで俺が生き残っていれば、AIが俺の死となる可能性は高い。兵器にしろ、それを操るコンピューターにしろ、機械が意思を持って人を殺す時代は、すぐそこまで来ているという事だ。その現実を何れ人類は、問答無用で突きつけられる時が必ずくる。その薄気味悪さを俺はつい先程、大多数の人類に先んじて体験させられた訳で、これもまたテストパイロットの辛さというヤツだ。

「まぁ今は、アンタら最強コンビの相手をさせられた敵さんが気の毒だったって事だな」

 俺だって相手したくねぇよ、と愚痴るテックを被せるように、サミット(敵拠点)直近に新たな反応が現れた。それがいきなりXF-39(じゃじゃ馬)をロックオンする。ディスプレイの表示によると、従来型の対艦巡航ミサイルだ。ぼんやり話をしていながらも、

「回避します!」

 索敵を怠っていなかった俺の反応は、先刻の無人機程悪くはない。

「有視界戦闘では、まだまだ一流の人間の方が上だな。君は同時に複雑な状況を素早く的確に処理出来ている」

「舌を噛みますよ!」

「大丈夫だ。君の機動(マニューバ)はもう目を瞑っていても分かる」

 無線という無線は引き続き全局リンク状態な訳で、

 ──みんな聞いてるっつうの!

 先程来ゆりかごがどうとか、微妙な表現が一々周囲の耳に晒されている事のもどかしさだ。

 後ろからやって来るテックに対艦ミサイルの難が及ばぬよう、適度にそれを引きつけると、俺はまた海面へ向かった。

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