第5話 十一日目
小説というよりは音声作品の台本をイメージして書きました。
小説だと思って読むと文がぐちゃぐちゃなので台本だと思って読んでください。
気分が乗ったら続きを書きます。
……ん…………
…………ふふふ……ぎゅ〜……
んっ……?
……!!
あっ、ご、ご主人様!?あ、あの、これは、その、なんと言いますか……
えっ!?は、はい。ご主人様が一緒に寝てくださったおかげで、よく眠れました。
い、いえ。もう体調は大丈夫です。朝食を作るのは私の仕事ですので、お任せください。
いえ!本当に大丈夫です。ご主人様は今日もお仕事がありますよね。私は大丈夫ですので、気にせずお仕事の準備をなさってください。
い、いただきます……
あの、ご主人様。昨日は本当に申し訳ありませんでした。奴隷の身でありながらご主人様と同衾したいなどと言ってしまった上、朝までその、だ、抱きついてしまって……
うぅ、今思い返しても恥ずかしいです……いくら怖い夢を見て気が動転していたとはいえ、あんなことをしてしまうなんて……
もう2度とあのようなことはしませんので、どうかお許しください。
いつでも来ていい……って、からかうのはやめてください!もう、ご主人様は時々いじわるです。
……でも、ご主人様の腕の中がとても気持ちよかったのは確かです。すごく安心して眠れました。
ちょ、ちょっと、そこで照れないでくださいご主人様。なんだかこっちまで恥ずかしくなってくるじゃないですか。さっきあんなからかい方をしておいて……
わっ!もう食べ終わったのですか!?何もそんなに急いで食べなくても……
今日は帰りが少し遅くなるのですね。わかりました。
行ってらっしゃいませ、ご主人様。
〜〜〜
はぁ……恥ずかしかった……
流石に今回の件は反省ですね。ご主人様のお顔をどう見ればいいのかわかりません。
私、どうしちゃったんでしょう。いくらご主人様がお優しい方だからって、怖い夢を見て心細くなってしまったからって。
今までの私なら我慢して1人で寝ていたと思うのですが……
あんなにご主人様のお顔が見たくなるなんて。あんな深夜に起こすのは失礼で迷惑だと分かっているはずなのに。
なんなんでしょう、この心の違和感は……
そういえば、色々と記憶が曖昧ですけど寝る前に何かご主人様に言ったような気が……何を言ったんでしたっけ?
う〜ん、何か思ったことが自然と口に出たような気がするんですけど……
……
…………!!
あっ、あれ?もしかして私、とんでもないことをご主人様に言ってしまっているのでは!?
す、好きって……ご主人様のこと、大好きって……
はわわわわ、な、なんでこんな大事なことを忘れていたんでしょう。私、ご主人様に、好きだ、って……
い、一旦落ち着きましょう。深呼吸……ふぅ……
って、深呼吸なんかで落ち着けるわけないです!どうしましょう、ご主人様には聞こえていたんでしょうか?
でも、朝のご主人様は普段通りでした。聞こえていたなら少しくらいの変化があってもいいはずです。寝る直前に小さな声で言っただけですし、やっぱり聞こえていなかったんでしょうか。
怖いですけど、ご主人様が帰ってきたらそれとなく聞いてみましょう。多分聞こえていなかったはず……です。
……ふふ。
好き……なんだ、私。ご主人様のこと。
さっき感じた心の違和感は、”好き”という気持ちからくるものだったんですね。
まだ出会って1ヶ月も経っていない男性を好きになるなんて、ふしだらな娘だと思われるでしょうか。今までに出会った男性がほとんどいないから好きになった、なんて思われないでしょうか。
ふふ、ご主人様はお優しい方ですから、そんな変に捉えられたりはしませんよね。
……でも、そもそも私はご主人様の奴隷です。ご主人様としての好きならともかく、男性女性としての好きなんて、伝えてはいけない身分です。
一応ご主人様が帰ってきたら聞いてみますが、聞こえていなかった方がいいんです。もし聞こえてしまっていたら、お優しいご主人様は私に気を使うようになるでしょう。奴隷と交際するだなんてあり得ませんし、告白を断ったご主人様が家の中で私に気を使うようになれば、ご主人様の気の休まる場所がなくなってしまいます。
この気持ちは誰にも話すわけにはいきません。
いくらご主人様が優しくても、私は奴隷でご主人様はご主人様なんです。良くされたからと調子に乗って、自分の身分を忘れては駄目……なんです。
…………もし私が奴隷じゃなかったら。
……もし私が普通の家に生まれて、どこか平和な街のお店でご主人様と出会っていたら。
ご主人様と、同じ立場でお喋りすることができたら。
ご主人様と、お付き合いをすることができたら。
それはきっと、とっても幸せな毎日でしょう。
……でもそんなことを願っても、現実は変わりません。
私は所詮ご主人様の奴隷。同じところには立てないのですから。
…………はぁ……
こんな無意味な妄想に耽るのは、昨日の夜の不安がまだ残っているせいでしょうか。
早く家事を済ませましょう。
私はこの気持ちを隠したまま、奴隷として与えられた仕事をこなしてご主人様のお役に立つ。それがずっとご主人様と一緒にいられる、いちばんの幸せなんです。
〜〜〜
おかえりなさいませ、ご主人様。
今日は一段とお疲れのようですね。お風呂が沸いておりますので、どうぞお入りください。私は夕食の準備を済ませておきます。
な、なんでしょうご主人様。急に私の顔をじっと見つめて……
……!
私の顔色が良くない、ですか。
いえいえ、大したことはないですよ。先ほどまで少し考え事をしていたので、それの影響かもしれません。朝も言いましたが体調はもう大丈夫ですので、心配しないでください。
ほら、早くお風呂に入らないとお湯が冷めてしまいますよ?ご主人様は熱いのが好きなんですから。自分から遅れて入っておいてお湯が熱くない、なんて文句は受け付けませんからね。
はい。ごゆっくりなさってください。
いただきます。
今日の夕食も美味しいですか。それはよかったです。ご主人様は味の濃い料理がお好きなので、従来のレシピより少しだけ味付けを変えてあるんですよ。
ご主人様が喜んでくれてよかったです。
……あの、ご主人様。つかぬことをお聞きするのですが、昨日の夜に私、変なことを言いませんでしたか?
いやあの、変なことは変なことです。おやすみなさい以外に私が言ったことで、なにか心当たりはありますか……?
覚えがない、ですか。
……わかりました。いえ、なんでもありません。ご主人様はお気になさらないでください。本当になんでもない、些細なことですので……
ごちそうさまでした。
それでは私はお風呂をいただきますね。後片付けはいつもご主人様にお任せしていますが、今日は特にお疲れのようですし、後から私がやっておきましょうか?
はい。ありがとうございます。無理はなさらないで下さいね。
お風呂いただきました。後片付けありがとうございます。
あっ、今日はもうお休みになるのですね。大変なお仕事お疲れ様でした。良くお眠りになってください。
私はもう少し家事が残っていますので、それを片付けてから寝ようと思います。心配しないでください、すぐに終わりますので。
それではご主人様、おやすみなさい。
〜〜〜
……ご主人様、やっぱり聞こえてなかった。
聞こえてない方がいいんです。そもそもあれは無意識に口から出た言葉で、想いを伝えようとしたわけじゃないんですし。
聞こえてない方がいいはずなのに。
もしあの言葉が届いていたら、なんて。もしあの言葉をご主人様が受け取ってくれていたら、なんて。ほんの少しだけがっかりしている自分もいます。
もし聞こえていたら、ご主人様はどんな反応をしたでしょう。
流石のご主人様も苦笑いをしていたでしょうか。それとも優しく微笑んでくれたでしょうか。
……私はご主人様が好き。
ご主人様の顔を見た瞬間、この気持ちが理解できた。
私、本当にこの人のことが好きなんだ、って。
でも、どれだけこの想いを重ねても、私がそれを告げることは許されない。
“好き”を知るだけで、”好き”を知れば知るほど、”好き”になるたびに、こんなに苦しくなるのなら。
こんな気持ち、知りたくなかった。