雪山王子と婚約者の私
応募の都合上……本文は千文字で終わりです……。
私の婚約者は王子様。
王位継承順位は、そこそこ低い。
ご公務とかも、本当にそこそこ。
殿下はいつも暇そうで、だけど、ここしばらくは北の隣国に出掛けていた。
「でんかーっ! 今日も婚にゃっ……くっ……にゃむむむむさむっ!」
寒い!
「なんで今日に限ってここはこんなに寒いのですか!」
ここは殿下と私専用の研究室だ。
暇人殿下は日夜この部屋で得体の知れない研究に励んでいる。
「やあ、婚約者殿……」
雪と氷に覆われた研究室。
そこには氷の貴公子————
「今日に限らず君は美しい……」
ではなく!
「それはどうもありがとうございます! 部屋もお世辞も寒過ぎです!」
鼻水を垂らした、私の王子様。
何か嵩張る物を抱えている。
「お世辞ではないのだが……まずはこれを着てくれ……」
渡された物を広げてみる。
人が一人収まる大きさだ。
「なんですかこれ?」
白くて大きなのっぽの……円錐形。
「『雪山スーツ』だ! 頭からかぶれば、雪山でも寒くない!」
「はぁ」
言われた通りにかぶってみる。雪山の着ぐるみだ。
「確かに、少しも寒くないですね。これはすごいです」
「そうらろうそうらろう……」
殿下の鼻水が凍ってる……。
「それで……なんでこんな物を持って、こんな寒い部屋に立っておられたのですか?」
風邪を引きたいんですか?
「いやその……北の国は存外寒くてな……それと雪山が美しく……今の君のように……」
美しい着ぐるみ……。
「それで雪山型の防寒着を作って、着心地を試そうと……」
「なんで自分で着ないんですか」
殿下はガタガタと震えている。
「一着しかないんだ……俺が着たら君が寒いだろう……」
正直意味不明なんだけど……。
「まずはここから出ませんか? お体に障ります」
扉に手を掛ける。
「あれっ、開かない」
「凍り付いてしまったか……」
うそでしょ!?
「だっ、誰か! 誰か助けて!」
ドンドンと扉をたたく。
すると、後ろでドサドサッと音がした。
振り向くと、雪に埋もれた————
「殿下!」
「婚約者殿……俺はもう駄目だ……愛してる……」
頭に雪山を載せた殿下が、息も絶え絶えにそう言った。
「誰かーっ!」
「あの……婚約者殿……」
「誰か来てーっ!」
ドンドン、ドンドンドン。
ドサドサドサッ、ドサドサ————
*
外から扉を壊してもらい、私たちは脱出した。
殿下は熱を出して寝込んでしまった。
「殿下、今日も婚約者の私が様子を見に来ましたよ」
「君が毎日お見舞いに来てくれる。雪山の着心地は最高だ」
何を言ってるんだか。