プロローグ "前"
まだ私が未熟だった頃の話
まだ「英雄」と呼ばれる人達が生きていた頃の話
まだ誰も死んでなかった頃の話
まだ二つの力が全盛期だった頃の話
そして、私という存在が歪み、崩れていく前の話
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2152年1月2日
ぷはぁ、と私は息を吐いた。
もうすぐ日の出の時刻だろうか。目の前に見える雪山が少しずつ金色の光を帯びてきている。
この場所が世間にはあまり知られていない、秘境の地で良かった。
地面からふんわりとした空気が全身を舞い上がる。それは本来、人を不快にさせるものである筈なのに、私は白い綿に優しく抱き締められているような感覚だった。
「来華ちゃん、もうすぐだよ。」
私は後方4mぐらいの所で雪のカ 分厚いカーペットに足を取られながら、ゆっくりと歩いてくる女の子ー西城来華ーに高揚しながら言った。
「うぅ••塚紗お姉ちゃん、この辺りの雪何だか歩きづらい•••。」
来華ちゃんは私の名前ー一条塚紗ーを呼びながら助けを求めるような目をした。
「ほら、お姉ちゃんの背中に乗りな。」
私はそのお願いを快く受け入れて、身体の前にしゃがみこんだ。
「ありがとう、お姉ちゃん」
安心したような声で私の背中に来華ちゃんは抱きつく。
「よしよし、可愛い奴め。」
私は背中の非力で、甘えん坊な女の子の頭を撫でながら言った。
天使を背負いながら、私は雪の上をどんどん歩いていく。
数十秒ほどすると、雪山の頂から真ん丸の黄金球が顔を覗かせた。
自分たちが立っている所を含め、辺り一面暗い白色だったのが、一気に一面金色、銀色に染まっていく。
「わぁ。綺麗•••」
来華ちゃんが目をキラキラと輝かせるのを見て、やっぱり連れてきて良かったと思った。
「もう少し高い所に行く?」
「うん!」
そのまま暫く歩いていると尾根のてっぺんのひとつに着いた。そこから見下ろした景色は、まさに絶景と呼ぶにふさわしい物だった。
雪の銀色と太陽の金色が辺りの山脈一帯を覆い、宝石箱よりも神秘的な煌めきが広がり、辺りの村や集落を照らしていた。
「ありがとう、塚紗お姉ちゃん、連れてきてくれて。」
「うん、来華ちゃん。また何度でもココに来ようね。」
そういう約束をして、私達は集落へと帰った