あの、理解出来ないのですが……
いったん部屋にひきとった。
自分の部屋に戻ると、とりあえず寝台の上に腰かけた。
頭と心の中は、はっきりいって混乱している。なにがなにやらわけがわからない。
人間というものは不思議なもので、これだけ混乱すると逆になにも考えたくなくなってしまう。理解しようとする機能が停止してしまう。したがって、どうでもよくなってしまう。
つまり、なんでもいい。好きにしてちょうだい。
そんなふうに、投げやりになっしまう。
これは、わたしに限っていえることなのかしら?
寝台の上でしばらくボーッとした。ほんとうは、このままうしろにひっくり返りたい。そして、瞼を閉じるのである。
ダメダメ。そんなことをしたら、明日の朝まで眠ってしまう。いいえ。眠るにきまっている。自信がある。
その衝動をグッとこらえ、すぐさま立ち上がった。
いったんあの場を離れ、見聞きしたことについて自分なりにまとめようとした。だから、ここに戻ってきた。
出来そうにない。
それなら、戻るしかない。
ここに置いてもらうには、直面しているであろう問題に立ち向かわなければならない。というか、問題が生じているのかすらわからない。真実を知らなければならない、と表現した方がいいのかもしれない。
というわけで、階下に戻った。
が、彼らもまた場所を移して居間にいた。
ヴィンスは、部屋の出入り口まで迎えに来てくれた。そして、わたしの手を取るとそのまま長椅子まで導いて座るよう促す。言われるまま座ると、彼はローテーブルをはさんだ向かい側の長椅子に座った。そこには、すでにグレイスが座っている。
「ユリ。いまさらだけど、あらためて自己紹介させてください。わたしは、ヴィンセント・ソーンダイクです。このアマースト王国の王太子です。そして、あなたの夫です」
「ちょちょちょ、ちょっと待って」
いきなり聞いていない話が、彼の形のいい口から飛び出してきた。
というか、こうして目の前でヴィンスとグレイスが並んで座っているのを見ると、髪と瞳の色の一致以外に顔の造形や雰囲気が似ていることに嫌でも気付かされる。そうそう。それと体型も似ている。
二人ともスラリとした長身というわけ。
「王太子? ヴィンス。あなた、王子じゃないの? あまり噂とか鵜呑みにしたくはないけれど、世間知らずなわたしには、噂くらいしか情報がないの。だから、気を悪くしたらごめんなさい」
ひとこと断ってから続ける。
「お母様の身分があまりよくないとかで、王子の中でも期待されていないと聞いているの。それがなに? 王太子なわけ?」
「ええ、そうです。王太子です。王太子というのは、あなたにとってなにか不都合でもありますか?」
「いえ、そういうこと以前の問題よね?」
「そうでしょうか?」
彼は、美しすぎる顔に困惑の表情を浮かべている。
「ユリ、とりあえず母の紹介をさせてもらえますか?」
「ヴィンス、いいわ。自分でするから」
わたしがいいともいやだとも答える前に、グレイスが立ち上がってこちらきた。そして、自然な動作でわたしの隣に座った。
「ユリ。ヴィンスの母のグレイスです。あなたが来てくれるのを、ほんとうに心待ちにしていたの」
「はぁ……」
体ごと彼女の方に向け、というか、彼女がヴィンスの母親だという事実がかなりショックなのだけれど、彼女はそんなことにはおかまいなしにわたしの両手を自分のそれで包み込んだ。
「ユリ、ほんとうにありがとう」
「あ、いえ、こ、こちらこそ。あの、すみません。あなたはてっきり侍女だとばかり……」
しどろもどろにならざるを得ない。なんて言っていいのかわからないから。
彼女にとんでもなく失礼な態度をとってしまった。
でも、それ以前に、彼女はほんとうにヴィンスの母親なの?
噂では、かなりすごいレディらしいのに。
ヴィンスとその母親は、二人そろっていろいろな意味で強烈すぎるから、嫁強烈すぎるから、嫁いできた何人ものレディが追いだされたり出て行ったりしているらしいけれど……。