ええっ! 義母ってあなただったの?
「ほんとうにうれしくてうれしくて。きみがここに来てくれるまで、まるで少年のようにドキドキわくわくしていたのです。母も同様です。あなたと会うのをほんとうに楽しみにしていました」
「いえ、ちょっと待って。昨夜も言ったわよね? わたしは、身代わりだって。ほんとうは、姉が来るはずだったの。姉は、その、なんていうのかしら? あなたとあなたのお母様のあまりよくない噂をきいているものだから、ここにくるのが気が進まなかったのよ。だから、その代わりにわたしがきたわけ」
そこまで説明し、ハタと気がついた。
もしかして、そもそもこの縁談自体が手違いだったの?、と。
どこか他のご令嬢だったはずが、手違いか勘違いで誤ってウッドワード伯爵家に舞い込んだのかもしれない。
「もしかして、他家のご令嬢を迎えるつもりだった?」
だけど、昨夜彼ははっきりとわたしのことを「レディ・ウッドワード」と呼んでいたわよね?
だったら、やはりわが家のお姉様で間違いないわよね。
「だれであれ、これは政略結婚みたいなものよね。あなたも国王から押し付けられているわけだし。昨夜も言ったけれど、あなたがわたしを気に入らないのはわかっているの。だけど、しばらくはここに置いてちょうだい。いい物をたくさん食べさせてくれなくってもいい。食事は、余り物で大丈夫よ。必要であれば、働くわ。これまでいろいろな屋敷で働かされてきたから、多少のことは出来るわ。部屋もあんなに素敵な部屋でなくても、屋根裏や納戸や地下室で充分だから。そういった部屋の方が慣れているの。あなたやあなたのお母様に迷惑をかけたり邪魔をしたりせず、出来るだけひっそりとすごすようにするわ。どうかしら? これで手を打ってくれない?」
あらためてお願いをした。
自分でもずいぶんとエラそうな態度だと思いつつ。
「なんてことなのかしら」
怒りを含んだ叫び声が背中にあたった。
振り向くと、グレイスが立っている。
彼女は、お代わりのお茶が入っているであろうティーポッドと新たなクッキーのお皿が載っているワゴンを押してきたみたい。だけど、両方の拳を握りしめて立ちすくんでいる。
レディにしては背が高く、いまはその全身がかすかに震えている。
「許せない。ぜったいに許せないわ。いったいどこのだれなの? あなたをそんな目にあわせたのは、いったいどこのだれなの?」
彼女は、低く震える声で尋ねた。
「グレイスさん?」
「ぜったいに許せないわ。大切な義娘を傷つけた人たちを、ぜったいに許すものですか」
「はい?」
呪文のように何度も繰り返されるその内容が理解出来ない。
「母上、落ち着いてください。調べはついていると言っているでしょう?」
ヴィンスがピシャリと言うと、グレイスはハッとしたようだった。
「母上。ユリを心身ともに傷つけたのは、彼女の家族と三人の元夫たち、それからその元夫たちの母親です。やるのはいつでも出来ます。ですが、いまはユリの傷を癒すのが先決なのです。愛するユリを傷つけた連中は、かならずや報いを受けさせます」
ヴィンスのまるで獣のうなり声のような声にゾッとした。
というか、いまなんて言ったの?
ますます頭が追いつかない。
これはきっと、わたしに理解力がなさすぎるのね。