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嫁ぎ先での一日目終了

 屋敷の中は、外観ほど古びていたり壊れていたりというほどではなかった。使いこまれている感はあるし、ところどころガタはきていそうだけれど。それでも清掃や整備がきちんとされている。


 案内された大食堂には、左右それぞれ十名ずつは座れそうな長いテーブルがあり、そのテーブル上に食器類とパンやチーズやフルーツが準備されている。


 上座の右側の一番端の席に。


 ヴィンスが椅子をひいてくれたので座った。


 すると、待っていたかのように近くの扉がスッと開き、侍女がワゴンを押して入ってきた。


(わたしよりどの位年齢が上かしら?)


 パッと見た感じ、年齢は確実に上だとはわかる。三十代後半か、四十代前半あたりかしら? 四十代後半ってことはないわよね、と結論付けた。


 彼女は、燃えるような真っ赤な髪をうしろでひとつにくくっている。口紅を薄く塗っている程度で化粧をほとんどしていないその小顔は、ハッとするほど美しい。わたしが男性なら、チラチラ見てしまうに違いない。って、レディのわたしでも見てしまうけれど。その彼女の瞳が緑色なのが、大食堂内を照らすささやかな灯火の中でもはっきりとわかる。


(なんてきれいな瞳なのかしら)


 しばし見惚れてしまった。


「彼女は、グレイスです」


 ヴィンスが紹介してくれた。


 彼を見上げた。月光でわからなかったけれど、彼もまた赤毛で緑色の瞳であることに気がついた。とはいえ、赤毛はグレイスよりかは薄いけれど。だけど、緑色の瞳は吸い込まれてしまいそうなほど深くて濃い緑色である。


「奥様、はじめまして。グレイスと申します」


 落ち着いた声。緊張したのは一瞬で、その声で緊張が解けた気がした。


「はじめまして、グレイスさん。ユリです。よろしくお願いします」

「奥様、お待ちしておりました。それと、この度はおめでとうございます。心よりお祝い申し上げます」


 面食らった。


 祝辞だなんて、気が早いのでは? というか、ここではすでに妻確定前提なわけ?


 ヴィンスのわたしに対する態度もそうだったし。


 その瞬間、「グルルルルル」とお腹の虫が騒ぎ始めた。


「なんてこと。ごめんなさい」


 初対面の人たちの前で恥ずかしすぎる。


「奥様、失礼いたしました。まず、お食事ですね」


 グレイスがやさしく笑ってくれたので助かった気がする。


「すぐに準備いたします」


 というわけで、シチューにサラダにミンチ肉のパイ。それから、パンやチーズや葡萄酒。食後には、フルーツとクッキーまでいただいた。


 お腹がいっぱいになったところで、わたしの部屋だという豪勢な部屋に準備してくれていた風呂に入り、大きくてフカフカな天蓋付きの寝台に横になった。


 瞼を閉じたら眠ってしまっていた。


 こうして、嫁ぎ先での一日目が無事に終わった、と思う。


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