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隣国へ

 アマースト王国の王子、つまり嫁ぎ先から馬車が迎えにきた。


 それに乗り込み、ひたすら走っている。


 すでにアマースト王国へ入国していて、豊かできれいな景色が車窓を流れていくのをじっと眺めている。


(わたしは、義母運に見放されているわね。ついでに夫運にも)


 つくづく実感する。


 お母様が亡くなった直後、義母とその娘である義姉がやって来た。


 お父様は、お母様が病に臥せっているときに浮気をしていたのだ。


 義母と義姉は、当然わたしをよく思わない。だから、よくあるような扱いをした。


 屋根裏部屋へ追い払い、使用人以上にこき使い、使用人以下の扱いをした。


 義母と義姉が散財して借金が出来ると、義姉を嫁にと申し出、その身代わりにわたしを嫁がせた。


 義姉の外見は美しく、外面は神がかり的にいい。


 だから、あらゆる階層の子息たちが義姉を争奪する。


 が、実際嫁ぐのはわたし。


 先方はだまされたと、その時点で怒っている。当たり前だけど。


 その調子で三度身代わり婚をした。偶然かもしれないが、三度とも母親を溺愛する息子と息子を溺愛する母親を相手にしなければならなかった。


 身代わり婚とはいえ、ウッドワード伯爵家を出られたことをよろこぶ暇はなかった。


 身代わりに対して怒っているのもあいまって、わたしの扱いはひどいものだった。


 一度目は男爵家、二度目は大商人、三度目は子爵家。


 どれもこれも同じような扱いだった。


 夫はお母様至上、義母は息子至上。


 虫唾が走るほどイチャイチャしていて、わたしの入り込む余地などどこにもない。もっとも、入り込む気もないけれど。


 そして、結局離縁される。それも早々に。


 三度身代わり婚して三度離縁されて屋敷に戻った。


 というわけで、これが四度目。


 今度は、わが家の借金の肩代わりではない。だけど、王命によるもの。


 離縁されないようにしろと言われたけれど、すでに身代わりというだけで離縁の理由になると思うのだけれど。


 それにまたしても母親を溺愛する息子と、息子を溺愛する母親というパターン。


 アマースト王国の王子のひとりヴィンセント・ソーンダイクとその実母のことは、よく噂されている。


 最低最悪の呼び名こそふさわしい母子、ということを。


 よくあるひどすぎる王子とひどすぎる母親……。その悪い噂は、うんざりするほどたくさんある。


「あー、またなのね」


 ついつい溜息をついてしまった。


 息子、つまり夫になる男性は、王子のひとりではあるけれど、母親が身分の低い人らしく周囲から顧みられないらしい。粗暴で意地悪で嫌味ったらしいのだとか。見た目も獣みたいらしい。そして、母親は分不相応な野心の持ち主で、息子を立てる為にはどのようなことでもするらしい。


(うわー)


 いろいろな意味ですごいわ。


 頭の中に浮かんでくる母子のイメージは、子ども向けのお話に出てくるような魔女と愚かな王子様。


「『離縁されるな』と言われても、そもそも難しい話よね」


 だって、彼はこれまで数えきれないレディを妻に迎え、いずれも追いだしているらしいから。


 仕方がない。ダメで元々。国家間の問題と言われても、「出て行け」と言われればそうするしかない。


 そうだわ。追いだされれば、そのままどこかに逃げよう。そうよ。それがいい。なにもかも忘れ、隠し、ごまかしてあらたな人生を歩むのよ。どうにかなるわ。


 だったら?


 そうね。金貨が必要になる。どこに逃げ隠れしようと、生活するには必ず必要になるのが金貨。


 盗む? 稼ぐ?


 どちらもすんなり出来るだけの才覚はない。


 あいにく、考え抜いてもどうするかの回答は出なかった。


 そうこうしている内に、馬車はアマースト王国の王都に到着した。


 生家であるウッドワード伯爵家を出発してから、じつに三日目の夜のことだった。



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