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見知らぬレディ襲来

「ブラックベリーは、そのまま食べるのもいいけれどジャムやシロップ漬けやブラックベリー酒もいいわよね。もちろん、タルトやパイやケーキといったスイーツにも使うし。そうそう。ジュースもね」

「うわぁ、どれも美味しそう」

「ユリが手伝ってくれたから、ずいぶんと収穫出来たわ。これなら、余裕で一年分の加工品が出来る」

「グレイス、いろいろ教えてください」

「もちろんよ、ユリ。戻ったらヴィンスとつまみ食いしてから、さっそく作りましょう。夜にはシロップ漬けしているリンゴやナシ、それとチーズとあえてサラダにするわね。ヴィンスにブラックベリー入りのクッキーを焼いてもらえば、今夜の葡萄酒が進みそうだわ」

「待ちきれないわ」

「ユリは、食いしん坊さんだから」

「食いしん坊で申し訳ありませんね」


 わざとおおげさに謝りつつ、肩をすくめようとしてすぐに諦めた。


 両腕に下げているカゴが重すぎて、肩をすくめようにもすくめられなかったのである。


 グレイスが笑いだした。もちろん、わたしも笑ってしまった。


 こんなふうに二人で肩を並べながら、会話を交わしている。


 これって姑と嫁というよりか、本物の母娘みたいに見えるかしら?


(そう見えるといいな)


 そう期待している自分に自分でも驚いた。


 そうして、途中休憩をしながら古びた屋敷に戻ってきた。


 すると、屋敷の前に立派な馬車が停まっている。


「いやだわ。ユリ、裏へまわりましょう」


 グレイスに促されたので、それに従う。


 肩越しに振り返ると、体格のいい馭者用のスーツに身を包んだ馭者が手持無沙汰に馬車のまわりをブラブラしているのが見えた。



 厨房にあるテーブル上にブラックベリーのカゴを置いたタイミングで、グレイスはわたしにここにいるようにと告げ、自分は厨房からコソコソと出て行った。


 なにもすることがないし、とりあえず摘んできたブラックベリーを選り分けることにした。


 ジャム用、スイーツ用、お酒やシロップという漬ける用に選別するのである。


 その作業に集中していたので、厨房の扉が開いたことに気がつかなかった。さらに言うと、厨房に入って来ただれかが、テーブルの向こうに立っていることにも気がつかなかった。


「おまえね、この泥棒猫っ!」


 甲高い叫び声が頭の上にあたり、そこで初めてだれかがテーブルの向こうに立っていることに気がついた。


 顔を上げると、血のように真っ赤で大胆なデザインのドレスをまとったレディがこちらを睨みつけている。


「この泥棒猫っ! おまえは、六度も離縁されているろくでもないレディでしょう? そんな悪女がヴィンス様を奪おうなどと……。ぜったいに許さない」

「はい?」


 こういうのを「憤怒の形相」というのね。


 目を吊り上げ、鼻腔を膨らませ、泡を吹きそうなほどの勢いで怒鳴っている彼女を見ながらつくづく思った。


「ルイーズ、やめないか」


 ヴィンスが現れた。彼は、彼女の肩を強くつかんだ。


「こんなレディ、外見だって全然よくないじゃない。政略結婚にしたって、こんなのありえないわ」


 彼女は、わたしを指さし吠えた。


「ありえない。ありえない。ありえない」


 それから、さらに吠えた。


「そもそもウインベリー国は弱小国。そんなところから、こんな不細工な悪女を人質に差し出させる必要あるわけ? おかしいじゃない」

「ルイーズ、やめろ」

「やめないわ。ぜったいに許さない。許さないんだから」


 彼女は、文字通り地団駄を踏んだ。


「ヴィンス。婚約者のわたしがありながら、どうしてよ?」


 彼女のその叫びは、とくに驚きではなかった。ましてやショックを受けるということも。


「ルイーズ、やめなさい」


 そのとき、一喝とともにグレイスが厨房に入ってきた。


(なんてことかしら)


 グレイスは、つい先程まで着用していた侍女用の制服ではなく自分のシックなドレスに着替えている。


 彼女のドレス姿を初めて見たけれど、気高くて美しいその姿にしばし魅入ってしまった。


 こちらに向ってくるその一挙手一投足も含め、すべてが惚れ惚れするほどスマートでカッコいい。 

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