彼と一緒の部屋に
「ええ、そうですね。元夫たちとのことが、まったく気にならないと言えばそれは嘘になります。ですが、わたしにはあなたがそのようなくだらない男どもとおなじ寝台で眠るどころか、同じ部屋ですごしたと思えないのです」
「なるほど。では、あなたはそんなわたしがあなたとは同じ部屋ですごすと自信があるわけね」
これもまた、意地悪だと思いつつも質問を重ねていた。
ほんとうは、このような質問をするつもりはなかったのに。
やはり、わたしは可愛げがないのね。
この点は、お父様や義母の言う通りだわ。
いずれにせよ、後悔しても始まらない。
口から飛び出した言葉は、取り消すことやなかったことにすることは出来ないのだから。
「自信?」
ヴィンスは、背もたれから背中を引き剥がして姿勢を正した。
「自信ということでしたら、正直なところまったくありません。それどころか、あなたに拒否されると確信に近いものがあります」
「自分で提案しておきながら、内心では断られると確信しているの?」
「そうですね。おかしな話ですが、あなたは断ると思います。もちろん、それでいいのです。わたしは、気長に待ちます。これまでと同じように……」
「なんですって? これまでと同じようにって、いったいいつからの話なの?」
「……」
彼は、真剣な表情で口を閉ざしてしまった。
「あなたがここに来てくれたときからの話ですよ」
それから、とってつけたように言った。
(いまのは嘘、よね? もしくはごまかしただけよね?)
わずかながら動揺した。
(こんなこと、彼と出会ってから初めてのことだわ)
彼は、わたしにたいしてつねに誠実で公平である。
「ヴィンス。わたしって、あなたも知っての通り可愛げがないの。そういうふうに言われたら、逆のことをしたくなるのよ。というわけで、あなたといっしょの部屋でいいわ。ただし、一つだけ条件があるの。これだけはぜったいに譲れない条件よ。眠るときは、わたしが長椅子。あなたは寝台。これだけは守ってちょうだい。オーケー?」
長身の彼が長椅子で眠るなどということは、ぜったいにムリがある。そんなこと、彼にさせたくない。小柄なわたしなら、長椅子でもさほど影響はない。
実家の屋根裏部屋に並べた空き箱や、嫁ぎ先での薄っぺらなマットや床にくらべれば、彼の部屋の長椅子は豪華な寝台の具合のちょうどいいマットも同様である。
「ほんとうですか?」
ヴィンスは、立ち上がってこちらにやって来た。
「ユリ。あなたの許しを得られるまで、わたしは耐えます」
「耐えます?」
彼の正直さは、いっそ微笑ましい。
「あ、いえ。申し訳ありません」
彼は、よりいっそう真っ赤になった。
「いいのよ。その点では、心配する必要はないと思うわ。ほら、わたしって男性っぽいところがあるから、そんなロマンチックな妄想などすぐにふっ飛ぶはずよ。だから、あなたが悩むほど耐え忍ぶ必要はないはずよ」
先程のヴィンスの推測は、当たっている。
わたしは、三人の元夫たちだれ一人として寝台をともにしなかった。それどころか、いっしょの部屋で一夜をすごしたことすらなかった。
『そそられない』
元夫たちは、いずれもヤルことだけは試みた。が、わたしが拒絶すると負け惜しみのようにそう言った。
もっとも、負け惜しみではなくほんとうにそそられなかったのかもしれないけれど。
自分で言うのもなんだけど、わたしは「レディ力」が欠けているのかもしれない。というよりか、ないに違いない。
もしもわたしが男性だとしても、こんなわたしにそそられるわけはない。
結局、この日からヴィンスと同じ部屋になった。
まるで本物の夫婦のように……。