意地悪な質問
「そんなもったいない。あるもので充分です。本来なら、わたしが持ってきたドレスを着用すればいいのですが、ずいぶん前に与えられた義姉のお古ばかりなのです。どれも着用しすぎていて、生地はテロテロでほつれたり破れたりしている箇所があります。とはいえ、繕うのも限界です。繕っていること自体、すぐにわかるでしょう。それだときっと、ヴィンスに恥をかかせることになります。グレイス、だからあなたのドレスをお借りしたいのです」
「ユリ、もったいないことなんてないですよ。あなたの好みのドレスを作ったらいいのです。どんなドレスでもあなたなら似合います」
「ヴィンス。せっかくだけど、やはりグレイスに借りたいの。見せてもらったら、ほとんどがわたし好みだったから。彼女の言う通り、丈は短くしなければいけないけれど。彼女も手伝ってくれるし、なんとかなるわ」
「あなたがそこまで言うのなら。ですが、気がかわったらいつでも遠慮なく言ってください」
彼の言葉に頷いた。
実家ではもちろんのこと、三度の嫁ぎ先でいずれの夫も「ドレスを作ろう」なんてことを言ってくれなかった。
まぁ、それはそうよね。ドレスをオーダーメイドするどころか、こき使われる際のメイド服すら準備してくれなかったのだから。
「ユリ。正直なところ、わたしはうれしいわ。わたしの古びたドレスでも、あなたがよろこんで着用してくれるのだから。それだったら、明日から早速手直ししましょう」
「はい、グレイス。よろしくお願いします」
よかった。これで一歩王太子妃に近づける。
そのあと、グレイスが先に寝室に引き取った。
「その、ユリ」
ヴィンスは、そう切り出した。
居間の天井にぶら下がっているキャンドル型のシャンデリアの淡い光の中、彼の美しすぎる顔が真っ赤になっていることがわかる。
(熱でもあるのかしら?)
彼の顔は、それほど赤くなっている。
「あなたがここでの生活に慣れてきて、というよりかわたしに慣れてきているなら……。その、いっしょの部屋にどうかな、と。も、もちろん、あなたが嫌ならいまのままでいいのです」
しどろもどろに告げた彼が可愛すぎる。
「そ、それと、いっしょの部屋だからといって、その、あなたが嫌がるようなことはしません。あいにく寝台は一つしかありませんので、わたしは長椅子で休みます」
尊すぎる。
そんな彼の可愛さと尊さに、笑う場面ではないのにクスクスと笑ってしまった。
「す、すみません。やはり、ダメですよね?」
彼は、わたしがクスクス笑っているのを見て心なしかシュンとした。
そういえば、彼に三人の元夫たちとの間にそういうことがあったのかどうか、一度も尋ねられたことがないことに気がついた。
「ごめんなさい。違うの。あなたが可愛かったから、つい。それよりも、ヴィンス。あなたは気にならないの? わたしが元夫たちといっしょの部屋で、いっしょの寝台で眠っていたということに」
そう尋ねずにはいられなかった。
意地悪な質問だな、と思いつつ。