四度目の結婚
「これが最後だ。これでもう何度目だ?」
「あなた、今回が五度目です」
「いえ、四度目です。この前戻ってきたときが三度目でした」
「うるさいっ!」
「だまりなさい」
お父様と義母にピシャリと言われてしまった。
彼らの間違いを訂正しただけなのに。
「いいか、ユリ。つぎは、おまえのワガママで勝手に離縁されて戻ってくるわけにはいかんぞ」
「そうよ。だいたい自分勝手すぎるのよ。わたしたちに対してもそうでしょう? わがまま放題、反抗心旺盛。もういい年齢なんだから、落ち着いたらどうなの?」
また始まった。まるでルーティンね。
それにしても、よくもまあわたしの悪口をこれだけ言えるものよね。
お父様と義母は、わたしの悪口で盛り上がっている。
「やはり四度目嫁がないといけないのですね。つぎはどこの母親大好きな子息と、息子大好きな母親のところですか?」
あー、ダルすぎる。
はやく屋根裏部屋に戻って書物の続きを読みたい。
「なんだと? だいたい、おまえがもっと素直に接しないからだろう?」
「そうですよ。すべて原因は他人のせい。嫁いだかぎりは、あなたは夫とその母親に尽くさねばならないの。それを夫は殴るわ、母親は平手打ちするわ。これがまだ爵位が下の人たちだったからよかったようなものの……」
「わたしは、たかだか子爵や男爵程度に頭を下げなければならなかったんだぞ」
また始まった。
殴る? 平手打ち?
いったい何度目の母子だったかしらね?
さすがに毎度というわけではない。たいていは、言葉で終わるから。
「とにかく、だ。つぎは王命だ。ぜったいなのだ」
「国王は、いつから『離縁され令嬢』の嫁ぎ先まで斡旋してくださるようになったのです?」
「バカ者っ! 陛下に対してなんたる無礼だ」
「あなた、ユリのペースにのってはなりませんわ。ユリ、ききなさい。あなたは、いますぐアマースト王国に行くのよ。王子の一人ヴィンセント・ソーンダイクが、あなたの夫になる男性。いいこと? これは王命だし、離縁されるようなことになれば国家間の問題に発展する可能性がある。あなたは、離縁されてはならない。万が一にも離縁されるようなことになったら、命にかえてもされないようになさい。あるいは、死んで詫びなさい。いいわね?」
「なるほど。今回もまた、義姉の身代わりというわけですね。わかりました。どうせ断るという選択肢はないのです。これ以上くだらない話をきかされたり、こうしてやりとりをするのは時間と体力のムダです。言いつけ通り、すぐにでも出発いたします」
「なんたる態度だ」
「だから可愛げがないというのよ」
また怒鳴り始めたお父様と義母に背を向けた。
これでもう二度とこの屋敷に戻って来ることはない。
ウッドワード伯爵家とは、今日をかぎりにおさらばということね。
どこかせいせいしながら、居間を退出した。