「時には拳でしか語れない事もあるのですわ」
その日だけではない。翌日もその次の日も、シャルロットは登校しなかった。
週末は領地に帰ったが、戻って来ても寮に引きこもる。
バジルが言うには、仕事は普通にしていたとの事。
ただ明らかに元気は無く、落ち込んでいるようだ…と。
心配から食欲が落ち、不眠になってしまったセレスタン。
口では「清々するもんね~」と言っているが、何度も彼女の席を見つめ、女子寮の前まで来ては引き返す。
「ハア…」
「「「…………」」」
夕飯も数口でカトラリーを置いてしまった。
そんなセレスタンを心配そうに見つめるオーバン達。無理に食べろとも言えず、負の連鎖が発生し始めた。
今日の夕飯にはルシアンとハーヴェイも同席。彼らもセレスタンの様子に心を痛める。
「あー、セレス。こんな時なんだが…これ」
「何…何これ!?」
食後オーバンがドサドサッ!と大量の冊子を持ってきた。
「お前への見合い話」
「へあ?」
何気なく1つ手に取り開くと…着飾った令嬢が。
「いや…僕女…」
「世間的には子爵令息で皇弟の息子だ。言ったろ?今後はそういう話題も増えるって」
「ひえ…」
いくつかパラパラと捲る。皆若く美しい令嬢ばかりだが、当然食指は動かず。
礼儀として断りの手紙出さなきゃかな…と大きくため息。
ふいに手が止まった。
「お、お姉様?」
んー?とオーバンとナディアが後ろから覗き込む。そこには…ダブルピースで笑顔のプリスカが写っていた。
「…ふふっ」
おふざけかな、と小さく笑ってしまうセレスタン。もちろん本気である。
「そうだ!俺らからも、ハイこれっ!!」
そう言ってハーヴェイが3枚の見合い写真を取り出した。
まず1つ目。
どこかの港で水兵姿のハーヴェイが、ボラードに片足を乗せてキメ顔をしている。
「この後ちょっとな…めくってみ」
これは2枚セットのようで、ペラっとめくってみる。
海に落ちたのか、ずぶ濡れで頭に海藻を乗っけたハーヴェイが写っていた。
「ぶふっ!!」
吹き出すセレスタンに、ハーヴェイは嬉しそうに微笑んだ。
次の写真は薔薇を咥えて白馬に跨がるジェルマン。
だが毛並みのいい馬とは対照的に、ジェルマンの服は継ぎ接ぎだらけのボロボロだった。
「これ、馬に予算全部持ってかれてません?」
「ストーリーが出来上がってる!?」
あっはっはー!とセレスタンは声を上げて笑った。
そして3つ目に手を伸ばすと、ルシアンが口をモゴモゴさせて顔を逸らした。
「え、ルシファー様?じゃ…ない、ね?」
それはルシファーによく似た美少女がドレスに身を包んでいる。
写真を見た全員が、ルシアンに視線を向けた。
「………なんだ、何か言いたいのか…」
「(照れるくらいなら、最初からしなきゃいいのに…
か…可愛い…っ!!)ふぬぅ…ふはっ!!」
セレスタンは沈んでいたはずなのに、面白くて笑いが込み上げてくる。
オーバンは安心したように微笑み、娘の頭をポンと叩いた。
「妹なら大丈夫だ。何があったか知らんが、あいつは強いからな。頼りになる執事だっているだろう?」
「…うん!」
そうだ、あの子は強い。弱虫で泣き虫の僕なんかと違うんだから!と、セレスタンは深く頷いた。
※※※
だが翌日もシャルロットは登校せず、バジルも女子寮には入れず…
「私が参りますわ」
部屋には誰が訪ねても門前払い、耐えかねたルネが乗り込む。セレスタンはハラハラと建物の外で待機。
この件は緊急事態と判断され、寮監が合鍵を用意してくれた。寮監とシャルロットの友人達は廊下待機。全てをルネに託した。
扉を開けるがリビングにはいない。恐らく寝室だろう…控えめにノックする。
「ロッティさん、ルネですわ。入りますわよ」
「……かえって…」
「お断りします。
…ここには私しかいません」
「…………」
キイィ…と静かに開ける。
シャルロットは部屋着姿でベッドに腰掛けていた。その頬は痩けて目に生気は無く、普段の生命力溢れる姿は見る影もない。
だがルネは臆することなく歩を進め、シャルロットの前に仁王立ちした。
「「……………」」
シャルロットは心なしか殺気を帯びた視線で見上げる。
ジスランであれば竦み上がるところだが、ルネは果敢にも睨み返した。
「………知ってたんでしょう」
「何をでしょう。セレスちゃんが女性だという事かしら?」
シャルロットはギリ…と歯軋りをして立ち上がった。
「貴女も、誰も彼も。何も知らない私を嘲笑っていたのね。気分はどう?」
「不思議な感じですわ。私はセレスちゃんに、最初から違和感を抱きましたのに。
どうして双子である貴女は気付けなかったのでしょう?」
「……っ!」
反射的に手を振りかぶり、ルネの頬を叩く寸前でやめた。
だがルネはフッと笑い…
パァン!!
「……え」
「あらあら、ごめんあそばせ?私…我慢出来ませんでしたわ」
シャルロットは呆然と痛む頬を押さえた。眼前には右手をプラプラさせて微笑むルネが。
「…貴女に罪はございません。全てはラサーニュ伯爵の仕業…ですが。
どうしてもお聞きしたい事がございますの」
ルネは拳を握り、涙目でシャルロットを睨む。
これまで…言いたい事は沢山あった。シャルロットにも、セレスタンにも。
だが生きるだけで精一杯のセレスタンには言えるわけがなく。
シャルロットは違う。どうして…
「貴女の行動は矛盾しています。セレスちゃんを誰よりも愛しているくせに、行動を監視したがるくせに、近寄る人間を警戒するくせに。
どうして肝心の場面で突き放すの?セレスちゃんの意思を尊重する振りをして、歩み寄りを諦めるの?
結局貴女は父親の操り人形。どんなクソでも父親だから、お兄様を心の底では愛してるに違いない、そう思ってたんでしょう?
気付くのが遅すぎましたわね。貴女がそんなんだから…彼女は…!
貴女が最初から、父親だろうが皇室だろうが!全てを敵に回してもセレスちゃんの味方であれば!!
彼女には…また違った未来があったのに!!」
「…分かってるわよ!!!」
バシィッ!と小気味いい音が響いた。
シャルロットがルネをビンタしたのだ。
あ…しまった、と思うも手遅れ。ルネはニヤリと笑い…お返しと言わんばかりに手を上げる。
「分かってないでしょう!!いつだって他人の所為にして、今だってなんで教えてくれなかったの!?って思ってるくせに!!」
「そうよ、教えてくれてもいいじゃない!!なんでバジルとか知ってんのよ!!」
シャルロットも負けじと叩き返し…戦いの火蓋が切られた。
「甘えるんじゃありません!!バジル君は裸を見ちゃったそうですわ!!」
「ハアアアアア!!?」
「ルキウス様は彼女の全身をまさぐったとか!
ジスラン様はシャワー覗いたとか!!」
「あいつらぶっ殺す!!!」
ルネの情報は飛び飛びすぎて、正しいんだが残念な伝わり方をしてしまった。
「だからね…っロッティも心に土足で入り込むくらいするべきだったのよ!!」パアン!
「き、嫌われると思ったんだもの!!」バシッ!
「そんくらい覚悟なさい!結果的に全部失くしてんじゃないのよ!!」ベシン!
「う……やかましい!!!」パンッ!
交互に叩きながら、ぎゃあぎゃあと大声で叫ぶ。
そこには普段の淑女はいない、剥き出しの心をぶつけ合う2人の少女のみ。
どちらも髪を振り乱し、顔を腫らして口や鼻から血を流している。
騒ぎを聞き付けて廊下にいた面々が入って来た。
間に入ろうにも「「邪魔!!!」」と一喝。来たはいいが、ただただ部屋の隅で慌てるばかり。
「私もう、どうしたらいいかわかんないわよ!!セレスは遠くに行っちゃったんだから!!」
「当ったり前でしょう!?15年の溝がたった数日で埋まるわけないでしょうが!!突貫工事なんてすぐボロが出ますわ!!」
ついには髪やら服やらを掴み合い。
令嬢達が悲鳴を上げた、その時。
「ちょおおぉーーーい!!!何してんのっ!!?」
「セレスちゃんっ!?」
「おね、セレス…!なんで、ここに」
2人の間に身体を滑らせ仲裁したのはセレスタン。寮監が特例で女子寮へ入る許可をしたのだ。
「やめなさい!!!女の子がそんなに顔腫らして!!駄目でしょうがっ!!」
「「だって…」」
「言い訳は聞きません!!!」
2人は手を離し、しゅんと俯き正座した。
「あーあー…痛いでしょうに…」
「(お姉様は…もっと痛くて苦しい思いをしてきたのに…!!)う…っ」
シャルロットは膝の上で拳を握り涙を堪える。
「シャルロット…?ごめんルネちゃん、ちょっと待ってて」
「ええ、このくらい痛くも痒くもありませんもの」
セレスタンはシャルロットの頬にそっと手を当てて傷を癒し始めた。
みるみる綺麗になっていく肌とは反対に…表情は歪んでいく。
「…よし」
治療を終え次はルネを。
トン、と背中に何かが当たる。
シャルロットが後ろから抱き締めているのだ。その腕は震えており、とても振りほどけるものではない。
「……はい、終わり。
それで、なんで喧嘩したの?」
背中のシャルロットはそのままに、まずはルネに事情聴取。
「いえ別に?ただロッティには本気で怒ってくれる人がいなかったでしょうから、私がその役を務めただけですわ」
ルネはツンと横を向く。
確かにシャルロットは、甘やかす者は大勢いる。だが怒鳴り声、ましてや手を上げる人なんていなかった。
「いやでも、まずは話し合いから…」
「その結果です。時には拳でしか語れない事もあるのですわ」
ルネは主張を崩さない。
だが先に手を出したのは自分だし…申し訳ございません、と謝罪した。
「…私も、ごめんなさい」
シャルロットはか細い声でそれだけ告げ、セレスタンを抱き締める腕に力が入る。
ミシ…ベキン…ポキッ と肋骨から音がする。
そう…セレスタンは青い顔で泡を吹きながら、全身で妹の愛に耐えているのだ!
「キャーーーッ!!ロッティ、離れなさい!!」
「嫌よ!!私は…!誰がなんと言おうと、セレスを愛してるもの!!だって、私の半身なんだからあ!!!」
ベキベキ…ボキ…
セレスタンは口から魂が出かかっている。
「もういや!!!なんで私は…!!一番大切なものを見ていないのよ!!馬鹿じゃないのっ!?
う…うああああああんっ!!!」
シャルロットは声を上げて泣いた。
人目も憚らず子供のように泣きじゃくり、最愛の姉を想って。
3人以外は気を遣ってか部屋を出る。
「あふぅ……」
「ふえ…?きゃあああああっ!?お姉様あーーー!!?ジスラン許さん!!!」
「犯人は貴女よっ!!!」
気付けばセレスタンは我が腕の中でぐったり。顔は紫、腰が異様に細くなっている。
その表情だけは、とても穏やかなものだった──…
※※※
セレスタンが目を覚ますと、まだシャルロットの部屋にいた。
外を見れば星が空に浮かんでいる。着替えもしていない状態で、ぐっすり眠ってしまったようだ。
しかしまあ、双子とはいえよく男子が泊まることを寮監は許可したな。そう呆れながら、隣で眠っているシャルロットをちらっと見る。
久しぶりに見る妹の寝顔。胸が熱くなり、同時に酷く傷んだ。
確かに寝てるよね…?確認を込めて頬をみょいっと伸ばす。
「……くぅ…すぅ…」
「うし。……えへへ〜」
まるで反応は無く、穏やかに寝息を立てている。
セレスタンはここぞとばかりに、頬を撫でてつまんでやりたい放題。
全く反応が無い事に、違和感を抱かずに。
「……ねえロッティ。君は好きな人、いる?」
「……………」
起き上がりベッドに腰掛け、寝顔に背を向けながら問い掛けた。
「えへへ、わたし夢だったの。ロッティと…好きな男の子の話をするのが。
わたしの初恋はジスラン。ロッティもそうかな?って思ってたんだけど…違った?
それにね、ルキウス様も好きだった。皇后となってあの方を支えられたら…って夢見た。
気が多いとか言わないでね、分かってるから!
でもわたしはその瞬間、本気で彼らを愛していたんだよ」
返事はないが、セレスタンは続ける。
「あと、これ内緒ね?誰も知らない秘密。
今のお父さん…ゲルシェ先生に憧れてた時期もあったの。ぶっきらぼうだけど優しくて、包容力のある大人の男性。
1年生の時は…先生に会いたくてわざと体調を崩した事もあった。でもこんなお子様相手にしないよな〜って諦めたんだ。
あとルシアンも好き。どこがと言われると困るけど!
顔だけならパスカルが好みかも?タオちゃんの糸目も素敵だよね」
指折り数えながら楽しげに語る。
だがふいに声のトーンを落とした。
「何より…わたし、グラスが好き。大好き!
わたし達の目標は…結婚してこの国を出ること。そして彼の故郷を探すんだ。
いずれグランツに帰って来るかもしれないし、どこかに定住するかもしれない。
どちらにせよ…ロッティとはお別れ。
だから…だから。
わたしを嫌いになって。思い出さないで。
こんなお姉ちゃんなんて忘れて…幸せになって」
次第に声が震えてくるが、堪えて話し続けた。
「ロッティを本当に大事にしてくれる男性と結ばれてね。お姉ちゃん的にはバジルがおすすめよ。だって君達、想い合ってるよね?
ランディ兄様に聞いちゃったよ、キスしたんでしょ?それからぎこちないって、青春だね〜。
……身分差はあるけれど。君達なら乗り越えられる、保証するよ。
あ、押しつけじゃないから!もしも、の話ね」
「ん………」
「……起きた?寝返りか…」
ごろり、とシャルロットは背を向ける。
寝顔が見えなくなってしまったが、その美しい赤い髪を掬った。
「ロッティ。わたしの片割れの愛する妹。
本音で話せるのは、これが最初で最後かも。
わたしは君を愛している…同時に憎んでいる。
君はわたしから沢山のものを奪ったから。
でもね…
それ以上に、多くのものをくれた。君と双子に生まれてよかった…心からそう思う。
何度生まれ変わっても…また双子になりたいな」
セレスタンは顔を袖で適当に拭い、シャルロットの頭を撫でる。
「ルシファー様の結婚パーティーでさ、わたし素敵なドレス着せてもらったの!嬉しかったのに、ロッティとお揃いのドレスを着たかったなぁ…って涙出ちゃった…
お姉様って呼んで欲しかった。ルネちゃんと3人で、放課後のカフェでお茶をしたかった。
喧嘩もしたかった。出来ればジスランを巡って女の戦いを…なんてね」
よいせっと立ち上がり、シャルロットを見下ろす。
「……バイバイ、シャルロット。
貴女はラサーニュ伯爵、わたしは国を出る。今後道が交わることはないでしょう。
明日からまた、僕は君をいじめる悪いお兄ちゃんだよ。
大好きで、憎らしい僕の妹。
……さようなら」
窓を開けて、小声で「セレネ」と呼ぶ。
すぐにセレネがポンっと空中から現れ、狼姿でセレスタンを乗せた。
外に出て地上に降り、窓と鍵を閉めたファイが隙間から出て来る。
「帰ろっか、僕達の家に。
…おやすみ、いい夢を」
その言葉はシャルロットに届くはずはない、はずだが。
シャルロットは誰にも見えない布団の中で。ぎゅっと拳を握っていた。
※※※
翌日になると、シャルロットは学園に姿を見せた。
大勢の生徒が彼女に心配そうに声を掛けて、それらには笑顔で対応していた。
教室でもすぐに囲まれて。
そんなクラスメイトを軽くあしらい、シャルロットはセレスタンのいる席へ向かった。
「…おはよう、セレス」
「………ラサーニュ伯爵が、引きこもりなんて噂、流れないよう気をつけてよね」
「…うん。ごめんね」
セレスタンはぷいっと顔を背けるが。
安堵から微笑んでいるのを、ルシアンだけが見えていた。
姉妹は学園では会話はなく。
あってもセレスタンが精一杯の嫌味を言って、シャルロットが笑顔で受け止める。
放課後…シャルロットはバジルと共に、誰もいない教室に残っていた。
夕焼けに染まる教室は、どこか物悲しさを醸している。
「…バジル。貴方、お姉様のこと好き?」
「へっ!?(お姉様…?やはり、貴女は…)」
暫く無言で向かい合って座っていたのに、シャルロットが窓の外を見ながら爆弾を落とした。
バジルは一瞬で頬を真っ赤にするも、シャルロットの横顔を見てしまうと逃げられなかった。
「す…き、です。ですが…
ご存知でしょうが、僕は少々女好きと言いますか…惚れっぽい性質でして。
セレスタン様や…シャルロットお嬢様のように。身近で美しい女性にはふらっと靡いてしまうのです…」
バジルは気まずそうに語る。
「そ…そう。ルネは?」
「いやあ、公女様に想いを寄せるなんてとても!」
「(私達は伯爵令嬢なんだけど…?)」
複雑な心境のシャルロット。質問は止まらない。
「とにかく、お姉様を女性として好きなのね?身分差とか無かったら、結婚したい類の感情?」
「……以前は、そうでした。今は完全に諦めてます。もしもチャンスが転がり込んできても、結ばれたいなどと願いません」
「…グラスがいるから?」
「(そこまで知ってるんだ…)はい…」
「そう…」
会話はそこで途切れる。
シャルロットは自分に問い掛ける。私は、バジルの事が好きなんだろうか?と。
好きか嫌いなら、好き!と断言できる。
最近は異性として意識するようになった。
貴族と平民だから、最初から結婚相手にはまるで考えてなかった。だが昨夜のセレスタンの言葉を聞き、身分差なんて…と考えを改めた。
自問自答を繰り返すも結論は出ず。
ならもう…本人に聞く事にした。
「私、貴方が好きなのかもしれない」
「え?………あ〜〜〜、頼れる執事として?」
「ううん男性として」
「…へあああいっ!!?」
ガッターン!!と椅子ごとひっくり返るバジル。
シャルロットは「驚きすぎよ」と小さく笑って立ち上がり、手を差し伸べる。
バジルがおずおずと手を取ると、淑女とは思えぬ怪力で余裕たっぷりに引き上げた。どうやらルネには一応の手加減をしていたらしい。
「(相変わらずゴリラなお方だ…)あ、ありがとうございます。ですが…なんで僕なんか…」
「さあ?恋ってそういうものじゃない?」
「…………」
座り直したバジルは返事が出来ず、ただ赤い顔で俯くばかり。そんな態度にシャルロットは「ま、考えといて」と飄々としている。
「でも私、自分が結婚する未来が見えないのよねえ。私を支えてくれて、尊重し合える相手。どんな感じかしら…?」
「あはは。貴女のようにじゃじゃ馬通り越して暴れ馬な令嬢、制御可能なのは僕かジスラン様ぐらいなものですよ」
「なんですって!?」
キー!!と怒りを露にするシャルロットだったが。
「(今…何気にとんでもないこと言われなかった?)」
「(……!?今僕、とんでもないこと言わなかったか!?)」
ぱちっと目が合い、マッハで顔を逸らす2人。
捉えようによっては告白なのでは!?と、高鳴る胸を必死に押さえるのであった。
「…ごほん。私、近いうちに社交界デビューを済ませようと思うの」
「えっ」
この国のデビュタントは通常、17歳の成人を迎えるパーティーで行う。
だがシャルロットは早く済ませ、爵位を賜ろうと思っているらしい。
「急ぐ理由がおありなのですか?」
「いいえ。ただ…殿下に頼ってばかりじゃ駄目ってこと。自立して、お姉様にも安心してもらわなきゃ」
シャルロットは頬杖を突き「もう決めたのよ」と宣言する。
「…どうなろうと、僕はお嬢様について行きますよ」
その返答に、シャルロットはふんわりと微笑んだ。
「……!!(やっぱ、可愛い…いやっ!そんな女性を顔でしか見ないなんて、最低だぞバジル!!
だけど…かわい、って何考えてるんだ僕は!!)」
「それで…いつか領地を完全に立て直したら。国に返還しようと思ってるの」
「え」
「領地も、爵位もね」
「ええええっ!!?」
とんでもない発言にバジルは絶叫した。
シャルロットは満足げに口の端を吊り上げ、机を指でトントン叩く。
「聞いてくれる?私の計画。でも知っちゃったら…もう引き返せないわよ?」
「……男に二言はございません。どうかお聞かせください」
バジルはその手を握り、諦めたような楽しげな表情をした。
「…うん。まずは…」
外はすっかり暗くなり、見回りの教師が来るまで、彼らは将来を語り合った。
「あ、ねえバジル」
「はい?」
「貴方…お姉様の裸を…見たんですって…?」
「……………」(逃げる構え)
「……………」(ニコニコしながら鞭を取り出す)




