二度目の剣術大会
爽やかな秋晴れの日、アカデミーでは剣術大会が開催された。
下級生と違って上級生は、全ての試合をギャラリーに囲まれて行うのだ。皇帝や騎士団も見物に来ている為、選手は気合を入れて試合に臨む。
セレスタンはまず自分のブロックを確認する。
トーナメント形式で4ブロックに分かれるのだ。
Aブロック:ジスラン・エリゼ
Bブロック:セレスタン・パスカル
Cブロック:ルシアン・バジル
知り合いはDブロック以外に綺麗に分かれていた。
「パスカル!!お前が絶対セレスに勝てよ…!?」
「なんだ一体!?俺と彼の実力差は、この間の授業を見てれば分かるだろ!」
ジスランと当たるなら準決勝かー、と考えているセレスタン。少し離れた所では、ジスランが小声で叫びながらパスカルの肩を揺らしていた。
ジスランはセレスタンに剣を向けたくない。いっそ棄権する!と言いたいけれど。
それは彼女を侮辱する行為だと自覚している。絶対に喜ばれない、とも。
自分のプライドだって、ブラジリエ家の誇りだってある。だから…
他の誰かに勝ってもらおう!と考えた。だがその願いは虚しく散ることとなる。
下級生の予選が終了し、上級生が会場入りした。
選手の姿が見えると、会場を黄色い悲鳴が揺らす。
主にパスカル、ジスランといった人気者を応援する声が。ルシアンは最近の態度が悪すぎて、何も知らない他学年の女子のみ応援している。
大歓声の中、セレスタンは不安そうな顔で手を震わせていた。
他人の視線が怖い…とはならない。
家族と訣別して、沢山の人の支えがあって。今の彼女は確固たる『自分』を持っているので、笑いたきゃ笑えば?と強気になれるのだ。
ただ緊張はする。元々大舞台に立つのは苦手な性質だからだ。
「…セレス!がんばってー!」
「…?」
声の判別などできようもない中、何故か1つの声がセレスタンの耳に届いた。
ちらっと目を向ければ…ルネと並んで座るシャルロットと目が合った。彼女は一瞬戸惑った後、セレスタンに小さく手を振る。
セレスタンは返さなかったけれど。僅かに口角を上げていた。彼女にはたったひとつの声が、百万の応援に匹敵する。
「…さってと。パパ達に格好いいトコ見せなきゃ!」
何よりも、可愛い妹に勝利を捧げる!と…決して口にはしない。
そのパパは養護教諭として待機しているが、精霊屋敷の皆も応援に来ていた。
「セレス様ー!!ファイトですっ!!!」
「「「頑張ってーーー!!!」」」
「ほっほ…」
ナディア、アビー、クレア、スペンサー…そしてカリエ。彼らは精霊と共に最前列にいた。
「シャーリィ、頑張るんだぞ!」
「いざとなったらわたしが相手を噛んでやるにゃ」
「駄目ですよヘリオス。闇討ちをしなさい」
「にゃるほど」
頼むから大人しくしてて…セレスタンはこめかみを押さえた。
「我が君。ここにいる全てを蹴散らせばよいのか?」
「ぬおおおおっ!!?」
突如地面から…いや、セレスタンの影からディートリーが生えてきて、セレスタンは肩車状態に。
闇の精霊は契約者の影の中に入れる、という能力がある。これのお陰でディートリーは、ファイと共に常にセレスタンを守っているのだ。
「ええい、今日は皆手出し無用!!ディートリーもファイも待機!!」
「「あー」」
全員観客席に追いやり一息。精霊達は不満げだが、何かあったら即座に対応出来るよう神経を研ぎ澄ませている。
皆大サイズで(ファイはペンダントの中)座っているし、飛べる者は上空を漂っているので圧巻の光景だった。
「シャーリィ。よかったらリオグルも、仲間に入れてくれないか?」
'お前ホンマええ加減にせえよ。俺をダシにすんなや'
精霊が大集合してるのをいいことに、パスカルは笑顔でリオグルを差し出す。
特に断る理由も存在せず、リオグルがよければ喜んで。と返答。
リオグルはため息をついて翼を広げ、フーゴの頭に乗って落ち着いた。
開会式が終わり、早速4年生の試合が始まる。
まずエリゼは1回戦敗退。特に悔しがる素振りも見せず、「終わった終わった」と観客席へ移動。
ジスランは危なげなく勝利を重ね、準決勝進出。
セレスタンも特に窮地に陥ることもなく、順調に勝利。そして準々決勝にてパスカルと対峙する。
セレスタンが先手必勝!で特攻を仕掛ける。パスカルは辛うじて捌くも、反撃の糸口が掴めずにいた。
「やあっ!!」
「く…っ!」
1分耐えたが、結局剣を弾かれてしまい敗北。
小柄なセレスタンが長躯のパスカルに勝利する姿に、観客はおおっ!と沸いた。
「ふう…ありがとうございました(パスカル様…剣を専門に学んでもいないだろうに、手強かった…
僕はどれだけ頑張っても、素質のある男性には敵わないんだろうな…)」
「ああ、こちらこそ(あれからちょっと鍛錬したが…所詮付け焼き刃だったな。彼はこの境地に至るまで、どれほどの修練を積んだのか…)」
勝者は浮かない顔で、敗者は尊敬の眼差し。
握手を交わしてパスカルは観客席へ…頑張って、と心の中でエールを送った。
ルシアンは1回戦突破。それというのも相手が気弱な性質で「皇子様に剣を向けていいの!?」と棒立ちだったからだ。
続く2回戦では普通に負けた。
バジルも3回戦で敗退。ただ素手だったら会場の誰にも負けないだろう、伝説の暗殺者除く。
そしてついに…ジスラン対セレスタンの準決勝だ。
「うう…」
「(よーし、頑張るぞ!)」
顔色が悪いジスランと、ふんす!とやる気満々のセレスタンが中央に立つ。
「あちゃー。ジスラン大丈夫かな…」
「もし負けちゃっても…そっとしておいてあげようか」
ジスランの兄2人は不憫そうな目をしている。
騎士達は完全にセレスタンの味方で、頑張れよー!!と大きな声を飛ばしている。
セレスタンはもじもじと身体を捻った後…頬を染めてはにかみながら、騎士達に向かって小さく手を振った。
するとその笑顔を見た女子生徒が黄色い声援を送る。ほとんど「可愛いー!」「こっち見て!」といったものだったが。
「ずるい…羨ましい…!!私もお兄様に手を振ってもらいたいのに…!!」ギギ…ギリィ…
「あばばばば」
「ロッティさん!やめて差しあげて!!」
シャルロットは歯軋りをして、隣に座るバジルの首を絞めていた。
「はじめっ!!」
「ふっ!!」
クザンの合図と共に、セレスタンは地面を強く蹴った。
「う…!」
カキンッ!キィンッ!と軽いが鋭い音が響く。
「(速い…!!)」
「(揺るがない…!)」
ジスランは反撃せず受けるばかり。だがこのまま時間切れを狙っては敗北必至だ。
その前にセレスタンの体力が尽きるのをアテにしてはいられない。腹を決めたジスランは、強く剣を握る。狙うのは彼女の剣のみ!
ガギィッ!!
「…っ!!」
鈍く重い音が木霊する。
ジスランが反撃に出て、セレスタンが受け身に回ったのだ。
ガン ゴキンッ!!
「くあ…!!」
「セレス!!このまま勝たせてもらうぞ!!」
3度受けただけで、腕は痺れて手に力が入らない。
どうにか距離を取ろうと後ろに跳ぶも、一足で詰められ剣が振り下ろされる。
受けたら弾かれる!と既の所で回避成功。ジスランが体勢を直す前に…!と両手で剣を握って振り上げた。
はずだったのだが。
「っ!!!」
「?そこだっ!!」
何故かセレスタンは、腕を上げた無防備な状態で一瞬止まってしまった。その隙を見逃すジスランではない、下からセレスタンの剣目掛けて振り上げた。
ギイィ…ン…と、セレスタンの剣は宙を舞い落下した。クザンがジスランの勝利宣言をし、客席から歓声と拍手が上がった。
「………」
「セレス?胸を押さえてどうした?まさか怪我か!?」
激しい運動の後、セレスタンは粗い呼吸を繰り返している。汗を流して頬は紅潮し…目が泳いでいる。
更に胸当ての上から両腕で自分を抱き締めており、座り込んで動かない。ジスランが伸ばす手を取ろうともせず、会場にどよめきが広がった。
「……………」
「おい、どうした!?」
様子のおかしい娘に駆け寄るオーバン。
セレスタンは勢いよく立ち上がり、父の背に回って磁石のようにくっ付いた。
「は?え?何?」
「……医務室!このまま連れてって!!」
ようやく言葉を発した彼女は、オーバンの首に腕を回して腰を両足でがっちり掴んでいる。
訳が分からないが、とりあえず元気そうなので言われた通りに。
「セレス?本当にどこも怪我してないか…?」
「……パパ、ジスラン」
ジスランは歩くオーバンの周囲を右往左往。オーバンの肩に顔を埋めたままセレスタンは発言する。
「………サラシ、ほどけた……」
「「…………」」
「胸当てしといてよかった…ありがとう…」
「……どう、いたしまし…て…」
男2人はそれ以上何も言えず、気まずい空気が流れた。
何かあったのかと一時は騒然となったが、大会はまだ続いている。
ジスランは覚束ない足取りで会場に戻った。
「ジスラン。何かあったのか?」
「あったような…なかったような…」
「「?」」
観客席の最前列で、パスカルとエリゼが身を乗り出していた。
ジスランは赤い顔でどうにも要領を得ない。
彼らの視線の先には、オーバンにしがみ付き精霊を引き連れ大移動するセレスタンの姿が。
次は4年生の予選最終戦。皆の関心は試合に戻る。
「あ。リオグルも一緒に行ってしまった…」
その呟きは、歓声にかき消されてしまった。
※※※
「お待たせー」
「セレス様!何かありました?」
「平気だよー、ナディアちゃん。おじいちゃん達も心配かけてごめんね」
サラシをきっちり直して戻ってきたセレスタン。
試合も終わっているし、これで気兼ねなく観戦出来る〜と客席に座った。
それから30分ほどで5年生の予選が終了。これより全学年の決勝戦だ。
やはり1、2年生は決勝といえどもレベルは低い。
「ん…?アリス君!」
3年生の試合、アリスティドが姿を見せた。
知り合い、しかも可愛い後輩の登場にテンションが上がって大声を出す。
「アリスくーん!!頑張って!」
「「「頑張ってくださーい!!」」」
「……!!」
セレスタンが応援するので、流れで声を上げる女子3人。
可愛い系、お嬢様系、活発系、清楚系の応援を一身に受け。
「し…仕方ねーな…」
必死にポーカーフェイスを装ってはいるが、口元がニヤついているのを全く抑えられていないアリスティド。
勝利すると、きゃーーー!!と喜びの声が。
「ったく…こんぐらいで騒いでんじゃねえっつの」
クールに言ってみたものの、その表情は完全に緩んでいるのだった。
ジスランも決勝戦で勝利し、最後は全学年の優勝者が戦う最終戦。
ここでアリスティドVSジスランという事態に。
「どっち応援しよう…」
去年まではジスランを応援していたが。今は状況が違うし…と思い。
「アリスくーん。がんばー…」
消極的にだが、アリスティド側につくセレスタン。だがジスランはその声が聞こえていたようで…絶望感溢れる表情で彼女を見ていた。
「(なんか…殺気出てねえか…?)」
ジスランのあまりの迫力に、アリスティドは微妙に慄く。殺人鬼も裸足で逃げ出しそうな程の憤怒のオーラが全身から出ている。
「やば…!ジスランッ、頑張ってー!!ファイトッおー!!」
「…………」パアァ…
このままではアリスティドが危ない!と判断してセレスタンは叫ぶ。
途端に殺気は霧散し、ジスランに笑顔が戻った。
「(分かりやすすぎんだろコイツ…)」
アリスティドも呆れ顔。試合はジスラン圧勝。
総合優勝もジスランで、剣術大会は終わった。
閉会式後パーティーが開催される。制服参加の簡易立食パーティーだが、優秀な成績を残した者は囲まれている。
セレスタンにも数人が寄ってきたので、体調が悪いと言って帰ることに。
「お姉様、よろしかったのですか?」
「いいの。パパも帰ってきたら、皆でパーティーしようね!」
おーっ!!と皆で拳を突き上げ、ゲルシェ家は学園を後にした。
「ん?探したぞリオグル」
ジスランが令嬢に囲まれている頃、パスカルはシャルロット達と共に行動していた。そんな彼の肩に精霊が止まる。
'なあなあパスカル。セレスタン女の子やった'
「………へ?」
'おっぱいついてたで。なんや布で潰しとったけど'
「いや………は?」
'ええ匂いすんな〜とは思っとったわ'
「……………」
「パスカル様?どうなさいましたか?」
バジルの問いにも答える余裕はない。
リオルグは医務室まで同行し…普通に裸を見てしまったのだ。
誰も何も言わないし、リオルグも重大な場面を見たと思っていない。
「すまない…俺は、寮に戻る…」
「…?分かりました」
友人達に見送られ、テーブルや壁や柱に身体をぶつけながら歩く。
なんとか部屋へ戻り、着替えもせずにベッドへうつ伏せで転がった。
「………………」
頭の中で様々な考えが浮かんでは消える。
「……シャーリィ…」
切なそうな声色で初恋の君を呼ぶ。
こうして真実を思わぬ形で知ってしまったパスカル。彼は耳から首まで真っ赤に染めて、そのまま朝を迎えるのであった。




