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皇国の精霊姫  作者: 雨野
日常編
9/102

アカデミー1年生 08


「いや通報してくださいよーーー!!?」


「あ、やっぱり?」



 手ぶらで帰って来たセレスタンを不審に思い、バジルは「プレゼントは…?」と訊ねる。すると「お金盗られちゃった」と返され…絶叫するに至った。


「さっき父上には言ったよ」


「…なんて仰ってましたか?」


「わかった、だって」


「そう…ですか…」


 彼は顔を顰めさせ、それ以上何も言わなかった。





 次の日、家族揃っての朝食時。

 いつも上座の伯爵の両側に、夫人とシャルロットが座っている。そしてシャルロットの隣にセレスタン…しかし家族が食事中談笑していようとも、彼女はその輪に入れない。


 食事が終わったら挨拶だけして立とうとした。が…伯爵家の家令がダイニングに飛び込んで来た事によりそれは叶わなかった。



「旦那様!ご家族団欒の中失礼致します、火急の要件がございまして…」


「…なんだ」


 愛娘との会話を邪魔され、伯爵は少し不機嫌そうに用を聞く。だが…家令が差し出した封筒を目にした瞬間、態度を一変させる。



「この封筒は…皇室からか!?しかもこの封蝋、皇太子殿下の紋様ではないか!!」


 ダイニングに緊張が走った。夫人は手を口元にあてて「まあ!」と驚き、姉妹は互いに顔を見合わせる。


 殿下が…なんで?と戸惑う子供達とは対照的に夫妻はウッキウキだ。逸る気持ちを抑えつつ丁寧に封を開け…中身を確認する。

 読み進めるにつれ、伯爵の表情が変わる。最初は訝しげに、途中で無表情になり最終的には笑顔で…



「なんと…皇太子殿下が明日、我が家にいらっしゃるようだ!しかもロッティを訪ねてくださると!!」


「んまあ!」


「はあぁっ!?」


「あら〜…」

 

「(お嬢様…はあ!?は少々酷いのでは)」


 喜ぶ夫妻、嫌そうな顔のシャルロット。感心するセレスタン、苦笑気味のバジル。その場の使用人達も皆皇太子の訪問に湧いた。



「お父様、何かの間違いじゃ?ちょっと見せてちょうだい」


「間違いなものか!きっと殿下がお前を見初めて皇后に迎えようとしているのだ。

 こうしちゃおれん!お前達、今すぐロッティを美しく磨き上げるのだ!」


「「「はいっ!!」」」


 有無を言わさずメイド達に連れて行かれるシャルロット。夫人は自分もお洒落しなきゃ!とまるで若い娘のように胸を躍らせている。

 屋敷全体がまるでお祭り騒ぎ。しかしセレスタンは…



「(殿下が、ロッティを?そりゃ…超可愛くて優しくて優秀で、皇后様にも申し分無い女性だけど。

 まあ、僕には関係無いか。出迎えだけして部屋に引っ込んでよう)」


 冷静に自分の為すべき事を考えていた。そんな彼女に、伯爵は先程までとは打って変わって侮蔑を込めた視線を送る。


「お前も、ロッティの婚姻の邪魔だけはするな。そして伯爵家の面目の為にも、その陰鬱とした姿を殿下にお見せするなよ」


「…はい」



 短く返事をして部屋に戻る。

 クローゼットを開けて、文字通りの一張羅を取り出す。大切なパーティーや、特別な人と会う時用の服。彼女が唯一持っている上等な礼服だった。

 

「……準備終わった…後はこれを明日着るだけ。アクセサリーなんて無いし。髪は…」


 長い前髪をいじりながら、先程父親に言われた事を思い出す。陰鬱か…確かに暗い印象だ、前髪も上げるべきか、と。ちょちょいとブラシで梳かし、整髪料でふんわり固める。全体的に後ろに流し、左右に少し下ろして…まあまあの出来、練習終わり。

 明日はメイドにでも頼めばいいのだろうが、どうせロッティの準備で僕なんて相手してられないよね、と諦めた。



 それよりも彼女には由々しき事態がある。眼鏡だ。


「昨日狼くんに取られた眼鏡しか、マシなの無いよー…。もう1個は完全に髪避けの丸眼鏡。こんなんじゃ皇太子殿下の前に出れないよう…」


 やたらレンズのデカい丸眼鏡を掛けてため息をつく。これはこれで一部の層に需要がありそうだが、明日はマズい。

 仕方ないので、素顔でいいか!とこれまた諦める。何せ今の手持ち資金じゃ、お洒落な眼鏡も買えないのである。

 


 どうせ一度見られてるし…とあの夜の出来事を思い出す。すると…彼の手の感触までリアルに蘇ってしまい、顔に熱が集まった。

 あれはなんとも優しく、いやらしい手つきだった。脱がされそうになったし…もしや殿下は、少年趣味がおありか?と失礼な事を考えながらもう一度クローゼットを開けた。


 取り出したのはルキウスの制服。新学期に返そうと仕舞っておいたが、こんなにも早くチャンスが来た。

 洗濯した際彼の匂いは消えてしまったが。ぎゅってした時、いい匂いだったなー…ちょっと残念。とか考えて。なんか僕、変態っぽい…?と複雑な気分になるのであった。





 今日のあの様子では、仕事も何もあるまい。セレスタンは誰かに呼ばれるまでは自由行動する事にして、机に向かった。

 ハサミやら紙やペン…色々取り出し。チョキチョキ、カキカキ、まきまき。工作を始めたのである。その傍ら、魔法陣を3つ描く。これから中級精霊を召喚するのである。


 シャルロットのお祝いについて。自分に何が出来る?と考えた時、授業で喚んだ可愛らしい精霊達を思い出したのだ。バジルも「坊ちゃんは精霊に大層好かれているようですね」と言ってくれていた。

 なら…可愛い精霊のダンスとかお披露目したら、シャルロットは喜んでくれるかな?と考えたのだ。部屋の棚から精霊図鑑を取り出し、丁度良さそうな精霊を探すと…どうやら光の精霊が歌が得意だと書いてある。

 上級にも歌を武器にしている水の精霊セイレーン等いたのだが、上級は無理だな〜!と最初から諦め中級を。実際セレスタンが喚んだら、誰も彼も喜んで姿を現すのだが…彼女はそれを知らない。



 ソファーセットのテーブルに移動して魔法陣に魔力を流し…「歌が上手な精霊さん、一緒に歌ってちょうだいなー」と呼び掛ける。すると…背中に翼のある天使のような手のひらサイズの子達が来てくれた。


「わーい!じゃあね…ちょっと、お願いがあるの。手伝ってくれる…?」


 セレスタンが顔の前で手を合わせて首を傾げると、こくこくこくと快諾してくれた。そんな彼らに…手作りの小さなアイテムを渡す。棒が2本ある細長い旗と、厚紙の板である。



「音楽は…このオルゴールを使おう。皆、いい?まず聞いて、次に音に合わせて自由に歌ってみてね」



 こうしてセレスタンプロデュース、光の精霊ユニットが爆誕したのである。


 



 ※※※





 次の日、屋敷の住人は皆朝からソワソワしていた。到着予定時刻が近付き、皆玄関で待機する。


 当のシャルロットは、別に好きでもなんでもない皇太子の為になんでここまで…と不機嫌になっているが。

 手持ちの中で最も華やかなドレスに身を包み、メイクもヘアセットも完璧、彼女を飾るアクセサリーも一級品ばかり。その姿だけはまさに、絶世の美少女なのである。



「あ"ー…疲れた…全く面倒だわ、なんで私が…」


「わあ…!ロッティすっごく可愛い、お姫様みたいだね!」


「やっだあ、お兄様の可愛さには負けるわ!でも嬉しい、ありがとう!!」


 それも兄の言葉1つでこの変わりよう。やさぐれモードから一転、周囲にハートを撒き散らしながら身体をくねくねさせて喜んでいる。

 だがそれも、兄の今日の装いを見て固まった。


「……今日はお兄様、お顔を出しているのね?それにおめかしして…」


「はは…一応、ね。でも出迎えだけしたらすぐ部屋行くから、安心してね」


「ええ…それがいいわ…」



 この時2人は…「やっぱり、ロッティも殿下の事好きなのかなあ?お兄ちゃんとしては複雑だけど。なんせ手が早そうだし…日々自己研鑽を怠らない素晴らしい方だと思ってたのに」と少し心配しているセレスタン。


 そして…「はああ〜ん…!今日のお兄様超可愛い…私も久しぶりにお顔を見たけど、年々可愛さが爆上がり、危うく鼻血が出るとこだったわ。

 こんなキュートなお兄様と顔を合わせてしまったら…殿下が第二のジスランになりかねない。お兄様には速やかにお部屋に避難してもらわなきゃ」とルキウスを警戒するシャルロット。


 一見すれば互いを想い合う、美しい姉妹愛。



「(僕は…ロッティの幸せを願うだけ。どうか殿下が、妹を大事にしてくれますように)」


「(私は…お兄様に近寄る男を全て潰す。お兄様はいずれ素敵なお嫁さんを迎えるんだから…お兄様を性的な目で見るような、手を出すような男は…例え皇族であろうと抹殺するわ)」


 誰がなんと言おうとも、美しい…愛なのである。






 数分後、お見えになりました!!と使用人の声が響く。全員外に出ると…皇族専用の豪奢な馬車が向かって来ている。全員に緊張に身体を震わせた(シャルロット除く)。


 伯爵が一番前に立ち出迎え、後ろに夫人と子供達。使用人は玄関の左右に並んで立つ。馬車が止まり扉が開かれると、全員頭を下げ待機。

 開かれた扉から赤いマントを靡かせた、正装姿のルキウスが降りる。セレスタンはちらりと見上げるが…



「(…おお、豪華な馬車。乗り心地良さそう〜。馬も大きくて毛並みも綺麗、後で撫でさせてもらえないかな…?)」



 ルキウスは視界の隅にしか見えず、煌びやかな馬車と格好いい馬達に夢中になっておりました。

 セレスタンに完全に無視されているルキウスは顔を上げるよう告げる。そして…セレスタンと目が合い一瞬驚きの顔になったが、すぐに逸らした。



「皇太子殿下にラサーニュ家当主、ボリス・ラサーニュがご挨拶申し上げます。本日はご多忙の中我が家にお越し頂き、恐悦至極に存じます」


「ああ。急な訪問を受け入れてくれて感謝する」


「ありがたきお言葉にございます」


 伯爵とルキウスがその場で軽く挨拶をする。その時セレスタンは…ルキウスの後ろ、同じ馬車から降りて来た女性が気になっていた。


 その女性はスーツを着こなすスラッとした眼鏡美人。キャリアウーマンと言うのか、デキる女という印象だ。

 彼女はセレスタンと目が合うと、にっこりと笑った。セレスタンは戸惑ったが…不器用ながらにこにこと笑い返してみた。すると…



「………………っ……!!」


「(あ、あれ…?まさか、笑ってる…?僕変な顔してた…?)」


 女性は右手を口元に当てて俯いてしまった。若干震えてるし…その反応にセレスタンは落ち込んだ。



 挨拶も終えたところで、早速屋敷内に入る。そこでルキウスは…セレスタンがちらちら馬を見ている事に気付いた。


「…………その馬は、私の大切な馬だ。だから、信頼出来る人間に世話を任せたい。

 伯爵。御子息…セレスタンに彼らを休める所まで案内して欲しいのだが、良いか?」


「もちろんでございます。私の息子が責任を持ってお世話致します」


「(え、ホント!?ひゃっほい!!)」


 伯爵は目線で合図する。その鋭い視線には…「お前はそのまま部屋に行け」という意味も込められているのだろう。シャルロットは兄をやや心配そうに見つめているが、屋敷に入る。

 分かっていますよ…と考えながら、セレスタンは馬に近付く。馬車を引いていた2頭と、騎士が乗っていた4頭で計6頭の馬。彼女は締まりのない顔をした。



「……格好いいぃ〜…」



 護衛もルキウスに付いて行ったのだが、まだ若い騎士1人のみ残った。伯爵家の使用人も皆行ってしまったので、セレスタンだけで大丈夫か心配なのだ。


「(いや、坊ちゃんに任せて全員帰んのかよ!?殿下も想像してなかったろうよ…)」


 なのである。ルキウスはセレスタンに任せはしたが、彼1人に押し付けるとは思いもしなかった。気付かず中に入ってしまったが。

 彼女は超笑顔で、馬を刺激しないよう静かに近付くと…


「うひ、うひひひひっ」


「(変な笑い方…)」


 6頭の馬が一斉に、セレスタンに近付き匂いを嗅ぐ。鼻息が擽ったいし頭を甘噛みされるし顔を舐められるし…彼女の顔は悲惨な事になっていた。

 セレスタンは動物に好かれる。彼女の穏やかな気質のお陰か、あまり大声を出さない静かさか。相手が嫌がっていないかちゃんと確認しながら、優しく触れる気遣いの結果か。

 

「うへへ、くっさい!こっちおいで〜」


 1頭の手綱を引き歩き出すと、他の馬も連鎖してついて行く。騎士は「ほお〜ん…」と感心しながら、その様子を見ていた。


「なあなあ。君、馬の世話慣れてんの?」


「いいえ?うちにはいませんし…でも馬は好きです」


 ラサーニュ家の移動時は貸し馬車なので、屋敷に馬はいない。御者は雇うか、操作出来る男性使用人が務めている。それでもこういった客人の馬を受け入れる場所があるので、そこまで連れて行くのだが…

 


「みんないい子だねえ、じゃあ、ここに並んでね」


 馬達は言われた通りに並んだ。騎士はその様子にまたまた感心した。


「(今回気性の荒い奴は連れてきてねえけど…主人でもない子供の言う事をよく聞いてんなあ。馬丁が嫉妬するぜ。にしても…)」


 騎士は楽しそうにブラッシングをするセレスタンを眺める。優しく声を掛け、触っても大丈夫か気にしながら作業する。時折馬が甘えて噛んで来るのを躱しながらテキパキこなしている。

 ここまでしてくれなくていいのに…と思いながら、騎士もブラシを手に持った。


「可愛いねえ。ここまでお疲れ様、頑張ったね。偉い偉い!」


 彼女の身長では上まで届かず、足場を使っているのだが。馬のほうが体を反転させたりずらしてくれるので、移動する事なく全身出来た。

 全員のブラッシングが終わると牧草を運ぶ。彼女は草を食べる様子を見たり、水を馬数分運んで来たり。小さい体でちょこちょこ動く、その屈託の無い笑顔に…


「(うーん可愛い。優しいし働き者だし…男じゃなかったら絶対口説いてたのに…残念)」


 無念そうに拳を握るこの白緑色の髪の騎士は、やや軟派な性格のようだ。彼自身も手伝いながら、馬のおもてなしは終了した。





「遅くなったが、俺はハーヴェイ・テーヌ。皇室騎士団所属だ」


「僕はセレスタン・ラサーニュです。よろしくお願いします」



 落ち着いたところで、ようやく2人は自己紹介をする。ハーヴェイと名乗った男は去年学園を卒業したと言い「へえ!じゃあ先輩ですね」「おう、先輩って呼んでいいぜ」と話が弾んでいる。

 普段のセレスタンならば、初対面の人間とここまで打ち解けない。人見知りもあるが、秘密が漏れる心配がある…というのが大きな理由だ。しかし彼とは一緒に馬の世話をした事で、一気に距離が縮んだらしい。ハーヴェイがそういう気質というのもあるが、談笑しながら廊下を進む。



「ひでえ頭になっちまったなあ」


「いやあ…でもすっごい楽しかったです」


 セレスタンの頭は現在、馬の唾液やらなんやらで悲惨な事になっている。なのでハーヴェイをルキウスがいるであろうサロンに送り届けた後、シャワーを浴びなきゃと笑った。



「それではハーヴェイ先輩、僕はここで。お見送りには出てきますので」


「おー。……………いや待て待て待て?お前、シャワー浴びたら戻って来るよな?」


「へ?そのまま自室に引っ込んでますよ。だって皇太子殿下は、ロッティに会いにいらしたのでしょう?」


「はあ!?いや、違…!」


「ではまた」


 ハーヴェイの言葉を最後まで聞かずに背を向けた。彼が呆然としていたら…丁度伯爵夫妻が部屋を出て来た。



「では、邪魔者は退散致しましょう。ロッティ、失礼のないようにな」


 なんか気持ち悪い笑顔〜と心の中で唾を吐きながら、夫妻を見送る。ハーヴェイはそのままサロンに入り、ルキウスに声を掛ける。



「殿下、発言よろしいでしょうか?」


「構わん」


「では…セレスタンなのですが、彼は自室に向かい見送りまで顔を合わせるつもりは無いようです」


「………何?」


 ルキウスは眉間に皺を寄せながらハーヴェイを見上げる。その様子に、ルキウスの正面に座るシャルロットはため息をついた。



「はあ…やはり皇太子殿下は、お兄様にご用があったのですね」


「私は手紙にそう書いたはずだが?」


「お恥ずかしい話ですが…父は殿下が私に会いにいらしたと思っています」


「……………どうりで…さっきから話が噛み合わないと…」


 ルキウスは皺を深め、深く息を吐いた。

 伯爵は世間話をしつつ、いかにシャルロットが素晴らしい娘かという事をしきりにアピールしていたのだ。


「つまりだ。伯爵は…私が兄と妹の名前を間違えて書いたと…思っているのか…?」


「…………大変失礼とは存じますが…恐らくは。思い込みもあるのでしょうが…」


 シャルロットの返答に、ルキウスは苛立ちを覚えた。もちろん彼女にではなく、伯爵に。それに気付いた使用人達は顔を青くさせた。

 父親の非礼を詫びるシャルロット。その姿を見て…ルキウスは落ち着く。




「……もう良い。ただし、次は無いと伝えておくように」


「必ず。寛大な御心に感謝致します」


「それでは、彼の部屋に案内してくれ」


「あ、殿下。彼は馬の世話と遊び相手でボロボロになってしまい、シャワーを浴びると言っていました」


「そう…か…。では、時間を置いてから訪ねよう」


 シャワーと聞き、少し動揺するルキウス。シャルロットはそれを見逃さなかった。


 彼女は使用人に、バジル以外全員下がるよう指示をする。これで部屋の中にはルキウス、シャルロット、バジル、護衛3人(あと2人は部屋の外)、女性のみになった。




 シャルロットはルキウスに、世間話のように問い掛ける。


「皇太子殿下。本日は…兄にどのようなご用件でしょうか?」


「………少々、確認したい事があってな」


 眉間の皺がどんどん深くなるルキウス。質問には曖昧に答えてやり過ごそうとする。

 その後30分程2人の攻防は続き、そろそろ良いかと移動を開始する。





 コンコンコン


「お兄様、いいかしら?」


 しーーー…ん


「……まだシャワーかしら?」


 部屋にいた全員でセレスタンの部屋にやって来た。しかしノックをしても無反応、シャルロットはバジルに様子を見て来るよう命じた。


「いや…もう少しここで待てばいい」


「殿下を廊下でお待たせなんて出来ませんわ」


 ルキウスの言葉は流し、バジルが「失礼しま〜す…」と扉を開ける。すると…



「………………」



 彼は開けたポーズのまま固まってしまった。まさか…!?と思いルキウスも覗き込む。負けるか!!とシャルロット。面白そうだとハーヴェイ。やれやれと女性が、結局全員で部屋を覗いた。そこには…





「はいワンツー、ワンツー!そこでターン、笑顔でね!」


「「「らー♪らー♫」」」にこにこ


「腕を上下に、左右にステップ!」


「「「たんたん♬ららら〜♩」」」にこにこ


「よし最後、ポンポンを上に放り投げて!旗と板をバッと!」


「「「らーーー♪」」」バッ




「「「「「………………」」」」」



「ふう…完璧」



 そこには…自らもポンポンを持ち精霊にダンス指導をする部屋着のセレスタンの姿が。

 1人と3体は笑顔でいい汗をかき、オルゴールのクラシックな音色に合わせて優雅に踊る。

 クライマックスで掲げる、1体の精霊が持つ細長い旗に『満点トップ おめでとう』と、2体が両側から支える紙の板には『頑張ったね♡』と書いてある。




「皆お疲れ様〜。もう一度通しでやってみよう!本番では、僕が最後に紙吹雪を撒くからね。

 殿下がお帰りになったら、ロッティにお披露…目……を……」



 熱中していたセレスタンは、この時ようやくルキウス達に気が付いた。



 扉はいつの間にか全開。彼らは三者三様の表情でダンスを見ていた。セレスタンはいい笑顔のまま固まり………








「うわあああああああああん、いやああーーー!!」


「坊っちゃん!あの、とっても愛らしかったですよ!お嬢様もお喜びです!!」


「そーそー、超可愛かったぜ。自信持ちな」


「イ"ヤ"ア"アァァーーー!!!」



 時間を掛けて状況を理解したセレスタンは、絶叫しながら布団にくるまった。それを宥めるバジルとハーヴェイ。




「…ほう、これは中々…」


 ルキウスがオルゴールを鳴らすと、プログラムされたかのように精霊達が踊り出す。

 その様子が面白くて、彼は何度も再生していた。シャルロットも一緒に見ていたのだが…



「お兄様が、私の為に…?あ、もうダメ」


 鼻血をボタボタ垂らしながら床に突っ伏し悶えるシャルロット。もう思い残す事は無いと、今にも昇天しそうになっていた。



「……はああ…可愛いの擬人化ですか…?もう無理連れて帰りたい養いたい。どちゃくそ甘やかしたい…」


 キャリアウーマン風の女性も、シャルロットと同様に床に突っ伏していた。何事かブツブツ呟き、鼻血こそは出ていないが幸せそうな表情だ。


 そんな惨事を他の護衛4人は微笑ましげに眺めている。





「もういやああああーーー!!!僕は布団の精として生きる、セレフトンに改名するううう!!!」


「分かった分かった。じゃあセレフトン、そろそろ出てきなさい」


「やだもん!!!」


 ルキウスが布団を引っ張ると…彼女の体も一緒に浮いた。すると彼の悪戯心が刺激され、ほれほれと布団を揺らす。

 耐え切れず手を離したセレスタンがベッドの上に転がった。真っ赤な顔をして涙目でルキウスを睨み…


「いじわるーーー!!!いじめっ子だああぁん!!!」


「はっはっはっ」


 と、今度は枕に顔を埋めて泣いた。ルキウスはその様子に…眉間に皺は寄りつつも、珍しく悪人面でなく普通に笑っていた。その顔に護衛達は「レア!!」と驚いているのであった。



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― 新着の感想 ―
[一言] いろいろ人物に可愛いを見せて、ルキウスのレアな笑顔を引き出してこれからが楽しみです。あと伯爵に対するルキウスの心証が悪くなりました。伯爵ざまぁへのカウントダウンが始まりそうですね。
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